03
私たちは午後もアトラクション制覇に全力を注いだ。
中にはぴったりとくっ付かなくてはいけない物もあり、かなり距離的には近付けたと思う。
「こっち来いって!近付かないとベルト出来ねェだろ!」
エースくんは私の二の腕を掴み、引き寄せる。
うわー!うわー!エースくんに触って貰っちゃったよ!
「えっと、はい」
私は熱くなる顔を無視しながらベルトをとめる。
「○○、顔真っ赤」
ぷにっと私の頬を突っつくエースくん。
「っ!!!」
止めて欲しい!名前呼びとそう言う事するコンボがかなりきつい。
顔は赤くなるし、にやけるし、心臓ドキドキ言うし!
『走行中はしっかり捕まっててね!』
と言う放送が入ってアトラクションスタート。私はパニックになる。
「あはは!ほら!来るぞ!」
エースくんはわざと私の手を取って繋ぐとコースターはそのまま奈落の底へと落ちていく。
「っ!!きぁぁぁぁ!!!」
ざぶんっと火照った体にはちょうど良い水しぶきを浴びた。
「あはははは!何で同じ1番前にいて俺より濡れてんだよ!!」
エースくんはケラケラと楽しそうに私を指差して笑った。
「ふ、……あははは!こわ、怖かった!!」
私はエースくんの手を握り返していた。
「次はあれだな!」
「乗る乗る!」
私たちは自然に手を繋いだまま遊園地を歩いた。
絶叫マシーンから子供が乗るようなアトラクションまで乗り尽くす。
気付くと辺りは薄暗くなっていた。
「1日早いな」
エースくんは空を見上げた。
あぁ、もうすぐこの楽しい時間も終わってしまう。
きっとエースくんには手を繋いでこうして遊園地を回るのなんてよくある事なんだろうなぁ。
「ねぇ、最後あれ乗ろう!」
閉園間近の遊園地に人気は少なかった。
私は大きな観覧車を指差した。
「最後にあれとか王道だな」
エースくんは笑いながらも私の手を繋いだままそちらに歩いた。
止まる事のない観覧車に乗る。手を繋いだままだからそのまま隣り合って座った。
「うわぁ!やっぱり夜に乗る方が雰囲気出るね」
私は外を眺めながら声を出した。
今はこうして楽しくエースくんとの時間を楽しみたかった。
「知ってるか?」
「ん?」
エースくんの声がしたので振り返ると近くに真剣な顔をしたエースくんがいた。
「観覧車の一番上でキスするとそのカップルは幸せになるとか、ならねェとか」
「っぷ!どっち?」
私はクスクスと笑うとエースくんは私に近付く。
「試してみるか?」
エースくんの真剣な顔に心臓が張り裂けそうなくらい速く鳴る。
「…………どこかの漫画みたいだね」
私は赤くなってるであろう顔の熱を冷ますために、緊張で冷たくなった手を頬に当てた。
「だな」
エースくんにその手を取られてそのまま唇を重ねた。
「天辺だ」
エースくんはもう一度唇を重ねてきた。
「エースくん」
「ん?」
「きっと、その噂は嘘だよ」
私は泣きそうになるのを堪えた。
「何でだよ」
エースくんはあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「私、就職は地元に帰るんだ。もう決まってるし。エースくんはまだ後2年大学生だし、遠くなったら会えなくなるの」
「……」
「だから、思い出をくれてありがとう!本当に楽しかった!私、向こうに行っても仕事頑張るね!」
私はにっこりと笑ってエースくんから離れた。
観覧車から遊園地の出口まで無言で、手は離れて歩いた。
さっきまでの幸せな雰囲気はない。
それでも楽しかったから、良かった。
「エースくん!今日はありがとう!」
私はなるべく明るく声を出した。
「おう」
エースくんは軽く笑って頷いてくれた。
「これで、良い短大の思い出が出来たよ!ファーストキスまで出来たし」
私は恥ずかしくならないように笑った。
「そっか。俺もだ」
エースくんはにかりと笑って手を差し出してきた。
「楽しかった!またな!」
エースくんの手を取るとぎゅっと握ってくれた。
「うん!またね!」
私は空になったお弁当箱の入ったバックを背負い直すとエースくんに背を向けた。
私は泣きながら家に帰った。