01
この日の為にエステにも行ったし、短大生だと言うのにバイトもしまくった。
単位は落とせないから睡眠削って勉強もしたし、ちゃんと資格も取った。
携帯電話も勿体なくてここ何年も買い換えていない。
そう、この日の為に……!!
私は同じ大学の四年制に好きな人がいた。
同じ学年で入学式が一緒だったからその時に一目惚れ。
もちろん、短大と大学だから校舎は違うし、同じ講義も取れない。
大学へ編入する学力も経済力もないから接点はひとつもなかった。
それでも時々キャンパス内で見かけたり、学食で一緒になったりした。
もちろん勇気なんて無いから声もかけられないけど。
それでも!数日前。
「ぽ、ポートガスくん!」
私は勇気を振り絞ってエースくんに声をかけた。
そう、私は短大生。もう、卒業だ。
就職も決まっているからこれが最後のチャンス。
「ん?」
黒髪そばかすの彼が振り向いた。
初めて私を見たんじゃないかな?
その事にもドキドキとしてしまう私は弱虫なんだか、何なんだか。
「あの、土曜日暇かな?」
私は意を決して口を開く。
「あ?土曜日……」
エースくんはそう言いながら思いを巡らせる。
「遊園地行かない?ふ、2人で」
迷ってるエースくんに私は言葉を重ねる。
「…………遊園地ねェ。いいぜ」
エースくんは表情が変わらないまま頷いた。
「ほ、本当?」
私は驚いてエースくんを見上げた。
「あはは!変な顔!奢りならな!」
エースは失礼にもゲラゲラと私を指差して笑った。
「ありがとう!じゃあ、土曜日朝10時にーー遊園地の入口で待ち合わせで良い?」
私は使うつもりのなかった台詞を言った。
「あァ、了解」
エースくんはここで初めてにこりと笑った。
そう、そして今日!土曜日なのだ。
私はもう1時間以上前からこの遊園地入口で待っている。
そろそろ約束の時間。
私はそわそわと待っていた。
しかし5分過ぎ、10分過ぎ、30分過ぎてもエースくんはやって来ない。
「…………振られちゃったかな」
私は小さく笑うとがっくりと肩の力を落とした。
「まぁ、良いや。初めから期待なんてしてないもん。少しでも良い夢見させて貰ったし」
私は帰りにパソコンでも買って帰ろうかと考えながらも足はその場から動けずにいた。
私はその場に踞る。すでに約束の時間から1時間以上経過していた。
「うォい!!」
それは低い男の人の声だった。
頭の上からしたそれに私は怖くて踞ったままでいた。
「お前、ふざけてんのか?!ここ東口じゃねェか!俺は西口で待ってて……オラ!顔あげろ!!」
私の頭のすぐ上から怒声がした。そして、グイッと顔を上げられる。
「痛っ!痛たたた!ぽ、ポートガスくん?」
私は驚いてもう現れる事の無いはずのエースくんの顔を見た。
エースくんは汗だくで癖っ毛が顔に張り付いていた。
「お前な!待ち合わせするなら何口かまで言えよ!30分待って来ないからまさかと思ってパンフ見たら入口2個あるしよ!来てみたらいるしよ!俺じゃなけりゃ帰ってたぞ?!この遊園地だだっ広いから30分もかかったじゃねェか!!」
エースくんは怒りの表情を剥き出しにして私に怒鳴り続けた。
「名前も知らねェ!電話も知らねェ!!ふざけてんのか?!って、な、泣くな!泣きたいのはこっちだ!!」
急におろおろとし始めたエースくん。
私は自分の頬に手を当てると涙で濡れた。
「わ、悪かったよ!怒鳴って。だから、泣き止め!」
エースくんは必死に私の機嫌を取ろうとする。
「う、ううー!えーすぐん!!ご、ごめんなざぃぃい!」
世にも情けない声が私から出た。
泣き止もうとしても、涙が後から後から出てくる。我ながら格好悪い。
「わかった!わかったから泣くな!鼻水出すな!」
エースくんはじたばたとポケットをまさぐった。
出て来たのは街中で配っているポケットティッシュ。しかも、ちょっとえっちぃ。
私に合わせて屈むとそれを差し出してきた。
「え、えーすぐん!!ぎでぐれてありがとう!!」
私は思いきり泣いて、貰ったティッシュで目と鼻を綺麗にした。
せっかくの化粧が台無しだ。
「ひっく、○○です。短大で、ポートガスくんと同じ学年です。うう、宜しくお願いします」
私は泣きながらも何とか立ち上がり、自己紹介をする。
「○○だな?俺はポートガス・D・エースだ。宜しくな」
エースくんはやれやれと言った顔で立ち上がると、そう自己紹介をしてくれた。
ヤバイ、カッコイイ。
「とにかく、今日は1日付き合ってやるから、行こうぜ!」
エースくんは遊園地を指差した。
うん、好きみたいだな。良かった!
「じゃあ、チケット買おう!」
私はチケット売り場で学生2人分のチケットを購入した。
「はい、ポートガスくん!」
私はチケットを差し出した。
「おい」
「ん?」
何だろう?女に払わすのはとか言うのかな?
私がドキドキとしているとエースくんはため息をついた。
「さっきはエースって言ってたろ。ポートガスは長いからエースで良い」
エースくんはチケットの事には触れずにそう言った。
「え?い、良いの?」
私は踊り出しそうな体を押さえ付けてエースくんを見た。
「ああ、今日限定な」
エースくんはニヤリと笑った。
うわ、その顔もカッコイイです!!!