偽りの関係4


外に出ると黒塗りセダンが止まっていた。フロントガラス以外全部が黒塗りでなおかつ手入れの行き届いたぴかぴかな高級車。何だかヤクザさんが乗ってる車みたい。

まぁ、実際会った事は無いから想像だけど。

その車は私の進行方向に停まっていた。
仕方無くその近くを通ろうとした時にガチャリと助手席のドアが開いた。

出て来たのは灰色の髪に顔に大きな傷、煙草を吹かした男だった。
怖い。
本場もんのようだ。いや、会った事は無いけど。

要するに、一般人の私には遥か遠い存在だと思うほど気合いの入ったお兄様が降りてきた。

私は思いきり視線を反らせたけど、やはりと言うか私の行く手を阻むように立ち塞がった。

「……あ、あの、なにか」

「□□○○だな?」

紫煙を吐き出しながらそれはそれは物凄いドスの利いた声で私の名前を呼んだ。

「…………は、はい」

恐怖で可笑しくなりそうな頭で何とか頷いた。

「乗れ」

車の後部座席のドアを開けられた。

「あの、私これから会社に」

「社長の指示だ。乗れ」

有無を言わさずとはこの事だろうか?私は冷や汗を背中に感じながら戸惑った。

「…………」

「し、失礼します」

無言の圧力に耐えきれず、私は死を覚悟してその車に乗った。
乗るとすぐにドアを閉められる。
そして、先程の男が逆側から隣に乗り込んできた。

別に逃げないのに……。

私は緊張からか喉がカラカラになった。
でも、鞄の中に入っているペットボトルを飲めるほどの勇気は私には無かった。

「じゃあ、行くぞ」

運転席のドレッドヘアの男が軽い口調で声を出すと車を発進させた。

地獄へのドライブは38分続いた。(時計ばかり見てしまった)









「着いたぞー」

運転席の男の声にびくりと反応する。
外から見ると真っ黒なガラスも内側からは景色がよく見えた。

「俺はこいつを届けてくる。手はず通りにな」

「おう!」

何やら怪しい会話をする男2人。ちゃんと会社に着いた。
港とかに着いて売られたらどうしようかと思ったけど、大丈夫だった。

「あれ?」

ドアを開けようとしたが、レバーが空回りするだけ。

すると灰色の髪の男が外側からドアを開けた。

「俗に言うチャイルドロックだ。便利だろ?」

にやりと笑う姿が悪魔に見えた。でかいし、体格良いし、こんな状況じゃなきゃ惚れてるって!



私はその男の後に付いて会社に入る。
ちらちらと投げ掛けてくる人の視線が痛い。
一昨日から噂が出回ったみたいだ。さすがシャンクス部長。人気者だな。
私は伏せがちになってしまう顔を上げてあるべく胸を張った。
きっと悪役は私だろう。辞める前に悪役は悪役らしくしていよう。
しかし、就職活動するの面倒だなぁ。






「着いたぞ」

男の声に前を見ると社長室と書かれていた。
あー、初めて来た。


ーーコンコン


「ベンです。失礼します」

灰色の髪の男はベンと言うらしい。
彼がノックをすると中からドアが開いた。
どうやら社長秘書が開けたようだ。

チラリと見るとこれぞ社長室!と言うような内装だった。正直成金ぽくて私の趣味じゃないわ。

なんて私が思っていると「入れ」と促された。

そこにはシャンクス部長の赤い髪が目立った。

何だか堂々としていて社長よりよほど社長っぽいなぁ。

「お前が□□○○か?」

社長机の前まで進み、シャンク部長に並んだところでそう声をかけられた。

「……はい」

私は頷いた。
つうか、怖いよ。睨まないでよ。

「シャンクス君、これが私の所へ届いてね」

社長が机の上に乗せたのは写真。
あの時掲示板に貼られた写真の他にも数十枚。
これ、連写?凄いなぁ。
あ、この写真良く撮れてる。欲しいなぁ。

「これが何か?」

シャンクス部長の声でハッとする。現実逃避してる場合じゃない。

「何かじゃない!!お前はうちの娘と結婚しているだろう!」

ダンッ!と激しく机を叩く音に体がびくりとした。いや、本当に怖い。
やっぱり男の人の怒鳴り声は嫌いだ。

「怖がるので止めてもらえるか?」

シャンクス部長がちらりと私を見た。
くそ、こんな時に助け船なんて出さないで欲しい。

「だったら!人の道に反した事はやめたまえ!」

社長はシャンクス部長をジロリと睨む。
と言うか、不倫だったのか。そりゃ、怒るわ。嫌だな、修羅場嫌い。

「残念な事に結婚してないな」

シャンクス部長はそう言いながら胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
あれが婚姻届か。

シャンクス部長はじっくりとそれを社長と私に見せ付けてからおもむろにビリビリとそれを破いた。

「っ!!貴様!」

社長は思いきり怖い顔をシャンクス部長に向ける。
私ならそれだけで失神できるよ。ちなみにシャンクス部長は涼しい顔を崩していない。

「そちらが結婚したと言い張った日から○○とずっと一緒にいた」

シャンクス部長が私を見て日にちを言った。それはあの残業をして印刷室で……の日だ。
確かにあの日から毎日、この写真が撮られた日まで毎晩一緒にいた。

「そうなのか?」

社長の怖い顔、私を連れてきた灰色の髪の男の顔、社長秘書の顔がに向いた。
私は小さく頷いた。

「まぁ、だから事実上俺はあんたの娘と何も無い」

シャンクスは無表情で言い切った。
そして、薬指にしていた指輪を外すとポイッと投げ捨てた。

「っ!!!それでも!結婚すると言った者がいて、他の女に手を出すなど!浮気など上に立つ者がする事ではない!!お前の様な奴はこの世にいらん!!!」

社長は真っ赤な顔で怒鳴り散らした。

こ、怖い。なにこれ?この世にいらないって……。

「あァ、それが聞きたかった」

シャンクス部長はおもむろに内ポケットに手を入れた。



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