偽りの関係2


それから私はシャンクス部長と夜な夜な会っている。しかも、毎晩。家に帰らなくて良いのかしら?朝早めに解散で着替えにだけ戻り、出社している。

会うのはいつもホテルが多い。
高級でもない、ラブホでもない、普通のビジネスホテルだ。

意外だな。
シャンクス部長って結構稼ぎ良いし、一度くらいは高級ホテルとか連れていってくれるものだと思ったのに、残念。
でも、夕飯等はちょっと高めの個室のある料理屋に連れて行ってくれる。

まぁ、行き付けの居酒屋なんて行ったら危ないもんね。

時々女性から電話がかかってくる。だけど、毎回声が違うように聞こえる。

この男、もしかしたら凄く女関係にだらしないのかも。
本命がいても周りに何人もはべらせて。

でも、まぁ、今の所私がその中でも一番会っている様だし、彼氏が出来るまでは捌け口に使わせて貰おう。

「ここのつくねが旨いんだよ」

今日やって来たのは駅から少し離れた鳥専門店。
高級な門構えで扱うのは地鶏のみ。

私は名古屋コーチンの親子丼とつくね。シャンクス部長は鳥の釜飯コースを頼んでいた。

「ん!本当に美味しい!」

私は大きなつくねを頬張り驚いた。
安い焼鳥屋のつくねとは大違いだ!肉汁があふれでる。

「だろ?レモンとか七味とかいらねェだろ?」

シャンクス部長は自分の事の様に嬉しそうに笑った。
この少年の様な笑い方止めて欲しい。心臓に良くない。うっかり惚れてしまいそうになるじゃないか。

「いらないですね!あ、でも七味は少しかけてみたい」

「ほら」

私が言うとシャンクス部長の近くにあった七味の入った瓢箪を渡してくれた。

「ありがとうございます」

受け取ろうとすると、手を取られた。

「へ?っ!!」

そのままぐいっと引かれ唇を奪われる。
ってか、食事するテーブルって結構広いのに良く届くな。

「うん、うまいな」

にやりと笑いやがったよ、このオヤジ。

私はきっと赤いであろう顔をムッとさせてシャンクス部長を睨んだ。

「嬉しい癖に」

いけしゃあしゃあと!

「そんな事もないです」

私は出来るだけ冷静に言う。

「へー、そう」

全くもって不愉快な笑顔でこちらを見てくる。うん、殴ってやりたい。
…………返り討ちに合うだけだからしないけど。

こうして振り回されてしまう。
こっちも遊びのつもりで部長のお遊びに付き合ってあげてるのに。

必死に遊びだと自衛してるのに、そんな薄い殻なんて無いように笑うこの男を憎んでやりたい。

最終的傷付くのは私だと解っているのに、この関係を止めてしまえばシャンクス部長との接点なんて簡単になくなってしまう。

不毛な恋愛って、自分の成長になるのだろうか?


「お待たせいたしました」

そんな事を考えていると親子丼が来た。

「お、美味しそう!」

出汁の香りに焼けた鶏肉の香りが食欲をそそる。
こんなに色の濃い玉子は見た事がない。黄金に輝いていた。

「だっはっはっ!良い顔だな」

シャンクス部長は楽しそうに笑った。

「頂きます!…………っ!!なにこれ!これを親子丼と言うのならば、私が今まで食べてきた物は一体……」

深いため息と共に口から自然と言葉が出る。
醤油の味も上品で、みりんの甘さが際立っている。
硬めに炊いたご飯が汁と絡まって絶妙なハーモニーを産み出していた。

「○○は食いもん食ってる時が一番幸せそうだな」

シャンクス部長は満足そうに私を見た。

「食いもん……。いえ、美味しいものを食べてる時が一番幸せです」

私はそう言い切った。

「俺はお前に触れてる時が一番幸せだぞ?」

柔らかい笑みを浮かべてシャンクス部長がそんな事を言う。

「…………嘘つき」

「嘘じゃねェよ」

シャンクス部長のにやりと笑う顔はやはり嘘そのもの。だって

「シャンクス部長はお酒飲んでる時が一番幸せそうです」

私の言葉を聞くとシャンクス部長は一瞬キョトンとする。
そしていつものように高らかに笑った。

「だっはっはっ!そいつは間違いない!」

シャンクス部長は私といる時は実に楽しそうにしている。

でも、薬指の指輪はいつまでもそこで私を牽制していた。








そうとう飲んだらしいシャンクス部長を支えながら夜道を歩く。

「部長!自分で歩けなくなるまで飲まないで!」

私は面倒臭さ満載でそう冷たく言う。

「大丈夫!使いもんにはなるから」

シャンクス部長はにやりと笑って大きな手で私を抱いてきた。

「ちょ、ちょちょ!今日は帰った方が良いですって!怒られても知りませんよ!」

私の言葉にシャンクス部長は少し驚いた様な顔をした。
そうなのだ。私からシャンクス部長の恋人だか奥さんだかの話題は出した事が無かったからだ。

「…………帰らねェ」

シャンクス部長の低い声が耳元でした。

「ちょっ!耳元でその声は卑怯!」

私はシャンクス部長の顔を掌で押し退けた。

「行くぞ」

「へ?」

何だかお怒りのシャンクス部長に連れられて来たのは俗に言うラブホテル。

都会のラブホテルって古いし狭いし好きじゃない。

「や!せめて普通のにしましょうよ!」

「待てねェよ」

私の抵抗に無視をした。適当に部屋を決め、入る。やっぱり不衛生っぽくて嫌い。

田舎の方のお洒落な方が好きだ。

「っ!シャワーとか!」

「待てねェ」

そう言いながら乱暴に服を脱がされる。

「わ、解った!解りましたから!破かないでくださいよ!」

私は仕方無く抵抗を無くした。
ベッドに転がりシャンクス部長からは顔を背ける。

やってる時の顔なんて見たら、ハマりそうだ。この人以外で感じなくなったら困る。

「はっ、○○」

余裕の無いレアものをじっくり観察してみたいが、そうも行かないようだ。

私はあっと言う間に流されてしまう。









「…………痛い」

私はシャンクス部長を睨んだ。

「わ、悪ィ。変に酔っちまったみたいだな。歯止めが効かなかった」

シャンクス部長はばつの悪そうに頭をかいた。

「…………」

私は黙って服を整え始める。取り合えず、汚れては無いみたい。
ホッとしながらボタンを閉める。

「な、なんですか?」

人を食い入る様に見るシャンクス部長を不思議そうに見る。

「いや、良いなって思ってよ」

「っ!!」

言いながら乱暴に私の手を掴み、再びベッドに組み敷かれた。

「ちょっ!やだ!」

「無理だ」

唇を重ねてくるシャンクス部長の体力についていけない。

「これで最後だから」

その言葉と表情に私の心は酷く冷えた。

あぁ、もう飽きられてしまったのか。意外と早かったな。

そう思いながら抱かれるが、今までにない激痛が私を襲った。





最後だから楽しもう!等と言う考えは無いほどに私はこの男に惚れていた様だ。



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