偽りの関係1


彼氏と別れて早3ヶ月。
今のところ仕事に集中している。
年齢が上がるにつれ、仕事もできる様になった。仕事が出来るにつれ、肩書きも変わってきた。

今一番の楽しみは上司であるシャンクス部長を盗み見るくらい。
仕事もできるし、性格も良い。そして、イケメン。
まぁ、頂けないのは薬指にハマるシンプルな指輪。
どこの誰かは知らないけど、良い物件には良い女が先にいる事が多い。

別れて寂しい想いもしてるからかしら?
少しだけ人肌恋しくなってしまう。








「□□さん、今夜予定とかある?」

そんな言葉をシャンクス部長から言われ、思わずキーボードの上に指を置いたままフリーズしてしまう。

「え?いえ、ないです」

私はなるべく冷静に普段通りに答える。
いや、成功しているかは別として。

「そ?悪いんだけど、残業頼まれてくれないか?」

シャンクス部長は申し訳なさそうに手を上げる。

「あ、あぁ、なんだ」

「ん?」

「いえ、解りました」

思わず落胆してしまった私の独り言にシャンクス部長が反応した。
私は慌てる様子なくにこりと笑った。

「そうか、助かる。じゃあ、終わったら俺のデスクに来てくれ」

「解りました」

シャンクス部長は「じゃあ、宜しくな!」と爽やかな笑みで自分のデスクに帰っていった。


やった!ラッキー!
あんなイケメンと2人でいられるなんて、嫌な仕事でも楽しくなるわ!








就業時間を迎え、私は一先ず自分の仕事を全て片付けた。

「あら、○○!残業?」

同僚が話しかけてくる。

「そうなの」

「頑張ってー!私達今日合コンだから!」

「あ!しまった!」

「ふっふー!いくら部長がイケメンでも、女のいる男じゃね。じゃ!お先ー!」

同僚はにこやかに去っていった。
そっか、合コンか。仕方ない。取り合えずは稼ぎますか!


私はきちんと片付けると部長のデスクへと向かった。

「部長、お待たせしました」

「おォ!悪ィな!じゃあ、これ纏めてくれるか?」

疲れた顔も見せずに部長は大量の資料を渡してきた。

「………………?こ、これ全部ですか?」

私はあまりの量にフリーズしてしまう。
いや、これ、朝までコース?

「いや、本当に悪ィな!その代わり、明日は代休やるから!」

シャンクス部長が「この通り」と頭を下げた。

あぁ、まさか泊まれと言うのか。

「…………解りました」

私はため息をつかない様にシャンクス部長から資料を受け取る。

お、重い。これをひょいって片手で持つシャンクス部長は一体何者?!

私は資料を持って自分のデスクに帰った。ひたすら打ち込み、纏めて行く。

うん、量が多過ぎてうまく纏められない…………。



気付くと周りにちらほらいた社員は居なくなり、フロアも薄暗くなっていた。

少なくてもこのフロアには私とシャンクス部長だけみたいだ。



またひたすら打ち込み続け、日付も代わり、とうとう終電がなくなり近くの駅も暗くなる。

窓から入ってきた灯りもかなり暗くなった。




ーーぐー



あ、ヤバイ、お腹減った。
私はデスクに入っていお菓子を摘まみ、飢えをしのいだ。
コンビニへ夜食でも買いに行きたいけど、そんな時間もない。

ただ、乾き物は喉が乾く。

私は一度保存すると席を立った。

ついでにトイレに寄って、給湯室でコーヒーをいれる。
疲れた脳みそに効く砂糖とクリームたっぷりの甘ーいコーヒーだ。
ついでに嫌がらせの様に同じ甘さのコーヒーをシャンクス部長へ持っていく。


「宜しければどうぞ」

私はなるべく邪魔にならない位置にコーヒーを置く。

「あァ」

シャンクス部長からはそれだけ。
集中力が高いようだ。私の存在に気付いてない。

私は自分のデスクに座って、コーヒーを口に入れる。

うん、甘い。

私はお菓子を口に含むと再び指を動かし始めた。








「っ終わった…………」

出来上がった物をプリントアウトするとすでに空が白くなり始めていた。

「部長」

「ん?あ、終わったか?」

甘いコーヒーはそのまま手を付けられていなかった。

「はい」

私は頷くとシャンクス部長に出来上がった物を渡す。

「…………」

シャンクス部長は受け取ると真剣に読み始めた。

何だろう?
徹夜明けのせいかな?いつもより型崩れしたスーツに目立つ無精髭。長い指が妙に艶かしい。

「よし!じゃあ、これ30部印刷頼む」

いきなり目線が合ったので思わず視線を反らせてしまった。
徹夜明けには本当に目の毒だ、この人。

「わ、解りました」

動揺を悟られない様に素早く印刷室へ入る。




「はぁ、疲れた。何か美味しい物でも食べて元気つけよう!」

そう声を出して宣言するとぶぶぶと携帯が鳴った。
メールか。私は印刷しながら携帯のメールを開いた。


『イケメンばっかりだった!大成功!』

写メ付きで見ると確かにイケメン揃いだった。

「残念!私は腕は太い方が好みだ!」

「スーツ全部オーダーになるけどな」

ん?私の独り言に誰かが反応した。

「っ!!ぶ、部長?!」

私は驚いて振り返る。そこにはにかりと素敵な笑顔の部長が立っていました。

「ふーん」

「あ?え?それ!」

真剣に見ているのは私の携帯。
ちょっと、止めて頂きたい。携帯は他人に見せられない個人情報です!!

「ほら、返す」

「と、届きません!」

返すと言いつつシャンクス部長は自分の顔の横に携帯を掲げる。
この人身長いくつよ!届くわけないじゃない!

「だっはっはっ!」

「笑い事じゃないですって!」

なにこの人!徹夜明けで可笑しくなってる!

「あー!もー!返して下さいって!」

やっと印刷機も終わった。これで帰れる!
私は実力行使に出る。
シャンクス部長の腕に手をかけ、よじ登る様にもう片方の手で携帯を取る。

「よし!っ!!!」

取れてホッとしている所。
私は急な浮遊感の後、激しい背中の痛み。
妙に無表情なシャンクス部長の顔の後ろには天井。

「…………あ、あの、これはどう言う状況で?」

どうして良いか解らない。あれ?私ひょっとしてシャンクス部長に押し倒されている。
しかも、温かい印刷機の上。痛い。

つーか、壊れるよ!

「っ!やめ!!」

近付いてくるシャンクス部長の顔面に慌てて顔を反らす。

「……」

「っ!!」

生暖かい物が首を撫でる。
これっても、もしかして、いや、もしかしなくても舌!!

「やめ!シャンクス部長!止めてください!」

言うが全然動きを止めない。叫んでも始発も動いてない時間、誰も来ない。ここは監視カメラもない部屋だから、守衛さんも知らない。

そんな事を考えているとシャツのボタンが外されて行く。

「いやいやいや!訳がわかりません!」

私はシャンクス部長の腕を掴む。

「悪ィな」

シャンクス部長はそれだけ言うとスカートに手を入れていく。

まずい、まずいよ!
彼女がいる男とか!いくらかっこよくても、浮気とか!修羅場とか!!

「ハハ、良い格好だな」

シャンクス部長の声にぞくりとした。
ダメだ。否定しても、拒否しても、私はーー












私はようやくシャンクス部長から解放されると服を整えて部屋から出ようとした。

「これ」

シャンクス部長の声にびくりと体が震えた。
差し出して来るのはうちの社のマークが入った名刺。裏には手書きされたナンバー。

「俺のプライベートの番号な」

シャンクス部長はそう言うと私に無理矢理名刺を握らせると先に部屋を後にした。

「…………うぅ」

私はその名刺を握り締めて泣いていた。
何で泣くんだ?
遊びと割り切れば良いじゃないか!
あんな良い男なかなかいないぞ!
なら、いっぱい金使わせて遊んでやってこっちから捨ててやれば良い!こんな機会滅多にないんだから!

「っぅう、ぶちょー……」

私は胸が壊れそうになった。



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