06
マンションはオートロック。
駐車場へ入るにもセキュリティは万全。
何よりもセンゴクが信頼する男の様で、○○はシャンクスを信用するしか無かった。
それでも、やはり初めて会う人間とは緊張する。
(上手く話せなかったな。真似事って言っても本当に籍を入れた人なのに)
○○は小さくため息をつくと、部屋着に着替えてベッドに寝転んだ。
(私…………やっと普通の生活が送れる……のかな?)
○○は見慣れない天井を眺めた。
(それなら、とにかくシャンクスさんと仲良くならなくちゃね)
○○は前向きに考えながらベッドに潜り込むと、ふわりと煙草の臭いがした。
(ん?シャンクスさんが吸うのかな?)
車の中でも煙草を口にする事など無かったのだが、この部屋は煙草の臭いがした。
(客室って言ってたし、誰かお友達かな?)
○○は不思議に思いながらも、何となく安心した。
サイドテーブルには使い古された灰皿も置いてあった。
(…………あの人が煙草を吸わなかったせいかな)
元夫の顔を思い浮かべてしまい、嫌な汗が出る。
○○は泣きそうになる気持ちを何とか落ち着かせると、煙草の臭いがする布団を顔まで覆った。
(怖くない。もう、ここにはいない)
○○は言い聞かせる様に目をキツく閉じた。
体を何度も体制を変えて寝返りを打っていたが、瞼が重くなっていくのを感じた。
いつの間にか眠れた様だ。
しかも、珍しい事に悪夢にもうなされなかった。
「ん……朝……」
すでに朝日が昇っていた。
カーテンから差し込む光は部屋を明るく照らしていた。
「寝れた……。こんなに眠れたの何年ぶりかな」
○○は自分に驚きながらベッドから出る。
部屋の外では慌ただしく人の動く気配がした。
○○は一呼吸置くと、部屋を出る。
「おっ!○○、おはよう!眠れたか?」
シャンクスがにかりと笑いながら挨拶をする。
しかし、忙しいのか慌ただしく手と足は動いている。
「おはようございます。凄く良く眠れました」
○○は照れながらもシャンクスを目で追いながら挨拶をする。
「そうか、良かった。悪いが俺はもう仕事に行ってくる!冷蔵庫の物とか適当に食べてくれ!」
「あ、はい!」
シャンクスは急ぎながらもちゃんと○○の事を考える。
「暇だろうが、夜の……そうだな、8時……いや、9時?10時ーくらいには帰って来ると思うから!それまで良い子にしてるんだぞ!」
シャンクスは冗談めかして言う。
「クスクス、分かりました」
○○はシャンクスの様子に楽しそうに笑った。
「……」
「?どうかしましたか?」
突然動きを止めたシャンクスに不思議そうに○○が聞く。
「あ、いや、笑った顔は可愛いなって見惚れてた」
シャンクスは恥ずかしげもなくさらりと言う。
「っ!か、からかわないで下さい!」
○○は恥ずかしそうに顔を赤く染めた。
「ははは!じゃあ、行ってくる!戸締まり宜しく!テレビとか適当に使ってくれな!」
シャンクスは時計を確認すると玄関で靴を履いた。
「分かりました。行ってらっしゃい」
○○はにこりと笑った。
「あァ、良いな。新婚ゴッコも悪くねェ」
シャンクスは笑いながらドアを閉めた。
シャンクスの走り去る靴音が消えた頃に○○は玄関の鍵をしっかりと閉めた。
「さて、と」
時間は現在7時半。
部屋にはコンビニ弁当の空箱や、洗濯物の山。
「暇をもて余さなくて良さそうね」
○○は苦笑しながらまずは着替えた。
「っと、セーフ!!!」
「23秒の遅刻だ」
「細けェ!!!!」
「で?もうすぐ社長。昨日は何だったんだ?」
「ベックマン。俺、結婚したから」
「は?」
「違うな、結婚してた」
「言い直しても意味が解らんな」
「俺もさ」
「……おめでとうと言うべきか?」
「そうだな……。あ!なら、ご祝儀くれ!」
「………………まったく、この人は……」
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