04

あの見合いから数週間が経った。

何事も無く、シャンクスも見合いがあった事すら忘れかけた時だった。


「おい、もうすぐ社長」

ベックマンが子機を片手にシャンクスの元へやって来た。

「誰からだ?」

「センゴク」

「……」

シャンクスはため息をつくと、手を出した。
ベックマンは子機を投げて寄越す。

「…………はい」

『赤髪か?』

「どうしました?」

『今から戸籍取って来い』

「は?」

『役場の人間には怒るなよ』

「は?」

『場所はーー』

「え?」

『7時に待ってる』


ーーぷっ、ツーツーツー


一方的に切られた電話からは無機質な音だけが聞こえて来た。

「……なんだって?」

ベックマンが紫煙を吐き出した。

「………………いや、解らねェ。戸籍取って来いって」

「間に合うか?行ってこい」

シャンクスの言葉に時計を見て呆れながらベックマンが外を親指で指す。

「………………はぁ」

また、何に巻き込まれるのかとシャンクスはため息をついて外へ出た。
後の事はベックマンに任せる事にした。




「っ!!!な!どう言う事だ!!!」

シャンクスは戸籍の確認をすると、大声で怒鳴った。

(役場の人間には怒るなってこう言う事か!!!)

意味の解らないセンゴクの言葉に怒りを覚え、シャンクスは素早く動くとセンゴクに言われた場所まで急いで向かった。

役場にいた人や、すれ違った人達は

「怖っ!!!」

「速っ!!!」

と誰もが驚いてシャンクスを振り返っていた。




7時前には指定された場所に来た。

センゴクの向かいにはお見合いをした○○もいた。
彼女の隣には大きな荷物がひとつ。

シャンクスはセンゴクの姿を見付けると、足音荒く近付いた。

「おい!オッサン!!これは一体どう言う事だ?!!」

シャンクスは怒りに任せて役場で取ってきた紙をバンッとセンゴクの顔に突き付けた。

「あァ、赤髪ご苦労さん」

センゴクは優雅に紅茶をすすった。

○○は驚いた顔をするが、特に何も言わずに2人を観察している。

「これだよ!これ!なんで俺が結婚してるんだよ!!!」

シャンクスはバンッと戸籍をテーブルに叩き付けた。
配偶者の欄に女性の名前が綴られている。

センゴクは優雅に紅茶をすすり、○○が不思議そうにそれをチラリと覗き込む。

「え?」

○○は驚いた顔をして、シャンクスの戸籍を手に取った。

「こ、これ……私の名前……」

「はぁ?!」

○○がぽつりと呟くと、シャンクスが眉間にシワを寄せ○○を見た。

それに○○はびくりと体を揺らす。

「落ち着かんか、赤髪」

センゴクは紅茶の入ったカップをソーサーに置く。

「落ち着いていられるか!こんな、勝手に!」

「とりあえず座れ。他の客に迷惑だ」

「っ!」

センゴクの冷静な声にシャンクスは渋々○○の隣に腰を下ろした。

「で?オッサン、これはどう言う事だ?」

シャンクスは一度深呼吸してからテーブルの上の戸籍を指差す。

「ん?あァ、お前さん達夫婦になったんだな。おめでとう」

センゴクはにこりと笑った。

「……」

「……」

シャンクスは眉間にシワを寄せセンゴクを睨み、○○は訳が解らずに混乱していた。

「あ、あの、センゴクさん。どう言う事なんでしょうか?私は住む所が決まったとしか……」

○○が先に口を開いた。
こんな事態だが、シャンクスはその声に不思議と心が落ち着くのを感じた。

「そうだ。こいつの家だ」

「はぁ?!」

「お前が夫になるんだ、当たり前だろう」

センゴクはさも当然と言うように言葉を発する。

「センゴクさん!ダメです!えーっと、シャンクスさんに迷惑がかかります!」

○○は戸籍で名前を確認し、声に出す。

「だからだ!私の知り合いの中で一番この男が信用なる。こう言う事ではな」

センゴクは厳しい目付きのまま○○を説得する様に言う。

「……でも」

○○は困った様にチラリと隣に座るシャンクスを見た。

「…………なんだよ、訳ありなのか?」

シャンクスはセンゴクに聞く。

「………………あァ」

センゴクは目を閉じて頷いた。

「だからって、こんな強引なやり方、知将と呼ばれたあんたらしく無いじゃないか?」

シャンクスは落ち着きを取り戻して椅子の背もたれに体重を乗せて聞く。

「…………そうかも、知れん。ただ、彼女の名前をいち早く変えてやりたかったんだ」

「センゴクさん……」

センゴクの言葉に○○はじーんと胸を熱くした。
○○は間違いなくこの状況を引き起こしてしまったので自分だと胸を痛める。
しかし、センゴクの優しさに目頭が熱くなるのを押さえられずにいた。

「……なら、一言先に言ってくれれば良かったのにな」

シャンクスは諦めた様にため息をついた。

「とりあえず3年、いや、2年でも夫婦の真似事をしててくれ。頼む」

センゴクは頭を下げた。

「……はぁ、分かったよ。でも俺、会社起こすので忙しいぞ?」

シャンクスはため息をつきながら、水を飲む。

「あァ、とりあえず、住む所を彼女にやってくれ。彼女が出掛けたい時だけ付き合ってやって欲しい。外に一人で出さないでくれ」

センゴクはそれだけシャンクスに言う。

「……分かった。礼はたっぷり貰うぜ?」

シャンクスはニヤリと笑う。

「……前向きに検討しよう」

センゴクは覚悟を決めて頷いた。

「よし、なら良いだろう。行こう」

シャンクスはそう言うと席を立つ。

「え?」

「ほら」

状況を飲み込めないでいる○○にセンゴクが促す。

「来いよ。置いてくぞ?」

シャンクスが振り返り○○を手招きする。

「あ、はい」

○○は慌てて大きな荷物を持つ。

「○○、あいつは信用出来る。大丈夫だ」

センゴクは安心させる様な顔で笑った。

「は、はい。ありがとうございました」

○○はぺこりと頭を下げると、シャンクスを追った。

「…………さて、こちらも」

センゴクは難しい顔で静かに頷いた。




「ベックマンか?」

『もうすぐ社長』

「悪いが今日は直帰する」

『…………なら、明日は8時までに出て来い』

「うげっ……わかったよ」

『遅れるなよ』

「切れた」

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