その後の時間4

シャンクスを送り出してしばらくは、洗濯や掃除に集中していた○○。

「ふぅ!一段落!」

○○は大きく伸びをする。


ーーピリリリリリ


「ん?シャンクスだ。もしもし?」

『あ!○○か!!悪いんだが、俺の部屋に茶封筒あるかな?』

シャンクスの焦った声が携帯の向こうから聞こえて来た。

「あ、待ってね。えーっと、これかな?」

○○がガサゴソと茶封筒の中を確認する。

『企画書とか何とか書いてあるか?』

「うん。書いてある」

『やっぱり忘れてたか』

「届けようか?」

○○が茶封筒を持ち直す。

『い、良いのか?』

シャンクスが嬉しそうに言う。

「うん!今家事も終わったところだから」

○○が頷いた。

『悪いな。頼むよ!』

「はーい」

通話を切ると、出掛ける支度をする。

大きめのバッグにシワにならない様に茶封筒を入れ、お財布と携帯を入れる。






「そっか、電車に乗るの久し振り」

○○は駅で切符を買う。2駅分だ。
少しの間シャンクスの会社で働いていたが、その時はシャンクスの車に乗っていったので、一人で行くのは初めてだ。

切符を自動改札に入れ、構内に入る。
看板を確認しながらホームへ行く。

すでに通勤ラッシュは終わっている様だが、それでも人は多い。

電車が入線して来て、後ろの人に押される様に車内へと入る。


何か変だと感じたのは乗ってすぐだった。そんなに混んでもいないのに、妙に体を押し付けられる。

(……これって……)

一駅目でドアが閉まると尻に感じる違和感。

「っ!」

嫌だと叫びたくても怖くて声も出ない。
明らかに触ってくるのは男の手で、それが痴漢なのだと思ったら○○の頭は恐怖でいっぱいになった。

(早く!早く駅に着いて!)

そう思っていると

「痛ェ!!!」

急に触っていたそれが無くなったと思ったら、急に大きな声がした。

驚いて振り返ると、痴漢をしていたらしい男が目付きの悪い男によって締め上げられていた。

「べ、ベックマンさん……」

涙目で見上げるとそこにはシャンクスの相棒であるベックマンがいた。

「テメェ何してる」

静かな声で痴漢を睨み付けるベックマン。

「ひぃ……」

痴漢は消え入りそうな声で声を出す。

ちょうど、駅に着き、降りる。

そのまま駅員のいる部屋に行き、痴漢を突き出す。
○○も手続きをし、予定より少し遅れて駅を出た。


「ありがとうございます、ベックマンさん」

○○は涙目でベックマンにぺこりと頭を下げる。

「いや、怖くても声を出した方が良いぞ。確認するまで時間がかかって悪かった」

ベックマンが隣の駅から乗り込んで、○○を見付けて、何かおかしいと思ったが、確認していたので、助けに入るのが遅くなったらしい。

「いえ!本当にありがとうございます!!とても、怖かったので」

○○は頭を下げる。

「所でこんな所で何をしてるんだ?」

ベックマンは駅から出ると煙草に火をつける。
○○はこの煙草の香りが好きであった。

「シャンクスに忘れ物を届けに」

○○は茶封筒を取り出して見せる。

「……社長のせいじゃないか」

ベックマンは眉間にシワを寄せる。

「とにかく、会社まで行こう」

「は、はい」

ベックマンは○○を気遣いながら歩き出した。






「遅かったな!心配したぞ!」

社長室に入るとシャンクスが慌てて飛び出して来た。

「……これ」

○○はシャンクスに茶封筒を渡す。

「…………何があった?」

シャンクスは厳しい目をベックマンに向ける。

「痴漢にあったんだ」

ベックマンが煙草を吹かす。

「っ!!」

シャンクスが思いきり顔をしかめる。

「で、でも、ベックマンさんが助けてくれたので。本当にありがとうございました」

○○はベックマンに頭を下げる。

「あァ。待て、どこへ行く」

ベックマンが部屋を出て行こうとするシャンクスを呼び止める。

「殺しに行くんだよ」

「っ!!?」

シャンクスの今まで見た事の無い顔付きに○○の体がカタカタと震える。

「怯えさすな。そいつは警察に任せた。お前は殺人より、嫁さんの近くにいてやれ。○○も、今日は会社にいて良いから一人になるな」

ベックマンはそう指示を出して社長室から出ていった。

「○○……」

「は、はい!」

シャンクスの雰囲気に○○はびくりと体を震わせる。

「悪かった。俺が忘れ物なんかしなけりゃ、こんな怖い思いさせなかったのに」

シャンクスはどかりとソファーに腰を下ろした。

「ううん。大丈夫だよ」

○○は落ち込むシャンクスの隣に腰を下ろした。

「悪いな、ショックを受けてるのはお前の方なのに」

シャンクスは優しい手付きで○○の髪を撫でる。

「私、シャンクスの顔見たら、怖かったのなんてどっか行っちゃったもの」

○○はにこりと笑った。

「……ベックマンじゃなくて?」

「うん!ベックマンさんでもホッとはしたけど、怖かったの。シャンクスに会って初めて怖くなくなったわ」

○○は自分の指をシャンクスの指に絡ませる。

「……そうか。○○は凄いな」

シャンクスはにこりと笑って○○に口付ける。

「シャンクスがいてくれるからだよ」

○○は嬉しそうに笑った。

「仕事片付けるから待っててくれな」

シャンクスは名残惜しそうに○○から離れると、机に向かった。






「社長」

「しっ!」

「…………寝たのか?」

「あァ、俺に会えて安心したらしい」

「しかし、電車に乗り合わせたのが俺でよかったな」

「あァん?!」

「○○を殺人者の妻にするのは可哀想だろう?」

「…………そうだな。でも、許せん!」

「それなら、これからは忘れ物はしないでくれ」

「…………肝に命じておく」

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