26
「外に出たいが、どうなってんだ。ここは」
エースは舌打ちをした。
何かの倉庫の様で、部屋がたくさんあるだけで、窓はほとんどない。薄暗い室内は頼りない蛍光灯の光だけ。
「私も解らないよ」
○○は困った顔をする。
「だよな。仕方ない。しらみ潰しに行くしかないか」
エースは小声で話ながら走り抜ける。
「止まれ」
エースがシッと人差し指を立てる。
「これが、今月分だ」
「フッフッフッ……。確かに」
知らない男とドフラミンゴの声だ。
○○が小さく震えるのをエースはぽんと背中を叩く。
「大丈夫」
エースは唇を動かして笑う。
○○はこくりと頷いた。
「しかし、こんなに質の良いクスリはなかなか無い。いつも助かるよ」
男は満足そうに言う。
「フッフッフッ……そいつはどうも」
ドフラミンゴはニヤリと笑う。
(ヤクの売人か……)
エースは嫌そうに眉間にシワを寄せる。
「じゃあな」
「あァ」
男が去ると、ドフラミンゴはエースと○○が隠れている方を見る。
「よくもまァ、逃げ出して来たもんだ」
ドフラミンゴは笑いながら言う。
「っ!!」
○○は心臓が飛び出るほど驚いた。
「ここにいろ」
エースはそう○○に言うと、自分は立ち上がる。
「フッフッフッ……!!お前もなかなか楽しんでるな?」
ドフラミンゴはエースの姿に満足そうに言う。
「うるせェよ。ヤクの売人なんざ、まともな商売してねーな」
エースは吐き捨てる様に言う。
「フッフッ…………!!白髭も同じ様なもんだろ?」
「オヤジの悪口言うんじゃねー!!!」
エースはドフラミンゴを睨み付ける。
「フッフッフッ……!!良いね」
ドフラミンゴはエースを満足そうに見る。
「力こそ全て。力こそ正義!正義が勝つんじゃねー。勝つから正義なんだよ」
ドフラミンゴは楽しそうに笑う。
「チッ!だったら、お前に勝ちゃ良いんだな!!」
エースはドフラミンゴに殴りかかる。
ーーガツン
エースがドフラミンゴの頬に殴りかかる。
「フッフッフッ……!!」
「っ!!」
全く効いていないエースの拳。
ドフラミンゴは逆にエースを殴り飛ばす。
「エース君!!!」
○○は思わず叫ぶ。
「○○!!来るんじゃねー!」
エースは口の中が切れたのか、血をぺっと吐き出した。
「フッフッフッ……!!○○ちゃん、今自分の意思で部屋に戻ったらこのまま火拳を帰してやってもいいぜ」
ドフラミンゴは○○をニヤリと見る。
「んな事信じるなよ!」
エースは叫びながらドフラミンゴに蹴りを入れる。
ドフラミンゴは難なくそれを封じる。
「フッフッフッ。筋は悪くねーな」
ニヤリと笑うドフラミンゴ。
「っ!ぐはっ!!」
「エース君!!!」
殴り合いはいつの間にか一方的な暴力になる。
「もう、止めて!!!」
○○はドフラミンゴの腕にしがみつく。
「死んじゃう!エース君が死んじゃう!!」
泣き叫ぶ。エースは血だらけでドフラミンゴに胸ぐらを掴まれていた。
「フッフッフッ。どうする?火拳」
「クソ喰らえ」
ドフラミンゴの言葉にエースはニヤリと吐き捨てる。
ドフラミンゴはエースをサッカーボールの様に蹴り飛ばした。
「エース君!!離して!!!」
「フッフッフッ……!!!行くぞ」
ドフラミンゴは○○を無理矢理手を引く。
ーードゴンッ!
目の前の大きなシャッターが凄まじい音を鳴らす。
「え?何?」
○○は訳が解らずシャッターを見ると、変形していた。
ーードゴンッ!!!
音と共に一台のワゴン車が入って来た。
「っ!」
「これはずいぶん派手な登場じゃねーか」
ドフラミンゴがニヤリと笑う。
「俺の奥さんと友達は無事だろうな?」
ワゴン車の助手席からシャンクスが出てくると、低い声を出した。
「シャンクスさん!!!」
○○はシャンクスの姿に嬉しそうに声をあげた。
「○○、待たせて悪かったな」
シャンクスはドフラミンゴなど目に入っていないのか、○○に近付く。
「フッフッ……。赤髪。何しに来た?」
ドフラミンゴは○○を自分の後ろに隠す。
「離せ。俺の奥さんだ」
シャンクスはドフラミンゴの腕を握り締める。
「……」
ドフラミンゴは口を下に曲げる。
「○○、来い」
シャンクスは逆の手を優しく○○に差し出す。
「っ!シャンクスさん!!」
○○はあっさりとドフラミンゴの手を振り払うとシャンクスに飛び込む。
「怖い思いをしたな。悪かった」
シャンクスは優しく○○の背中を撫でる。
「ふん」
ドフラミンゴはシャンクスの腕を振り払う。
その腕は赤黒く手の形に痣が出来ていた。
「おい、ドフラミンゴ。そんな余裕な顔をしてて良いのか?」
「?」
シャンクスの言葉にドフラミンゴは何だと振り返る。
「ドフラミンゴ様!わが社の株が!!!」
ドフラミンゴの手下の男が叫びながら入って来る。
「何だと?」
事情を聞いたドフラミンゴは忌々しげに吐き捨てる。
「ど、ドフラミンゴ様!!他の倉庫が!!!」
「赤髪ィィィ!!!」
ドフラミンゴは忌々しげにシャンクスを見る。
「そっちは俺じゃねーよ。お前、白髭の奴に手を出しただろ」
「オヤジ……」
シャンクスの言葉にエースが起き上がりながら呟く。
「ックソッ!!!」
ドフラミンゴが珍しく、叫ぶ。
「俺の奥さんと友達にはもう手を出すなよ?この世界で食って生きたかったらな」
シャンクスはそう吐き捨てると、エースに肩を貸し、ワゴン車に乗り込む。
「忙しいのに悪かったな、ヤソップ」
シャンクスは運転手に笑いかける。
「お頭の我が儘は今に始まった事じゃねーしな」
ヤソップはニヤリと笑うとワゴン車をバックさせる。
「シャンクスさん……」
○○は不安そうにシャンクスを見上げる。
「大丈夫だ。もう、終わるよ。あいつ、今はそれどころじゃないからな」
シャンクスは安心させるようによしよしと頭を撫でる。
「エースも、ありがとうな。助かったよ」
「……」
シャンクスの言葉にエースはムスッとしていた。
「ん?どうした?痛いのか?」
シャンクスは今になって心配になったのか、エースを見る。
「……良いとこ取りしやがって……」
エースはしょげた様に口を開いた。
「エース君」
「ん?」
「本当にありがとう!!」
「っ!!おう!」
○○の笑顔にエースは惚けて照れ笑いをした。
「青春だね、少年!」
ヤソップがルームミラーを見てニヤニヤと笑った。
「全治三ヶ月……」
「おう!もう動けるけどな」
「エース君、本当にごめんなさい!」
「お前が謝るな」
「何か私に出来る事ある?」
「そうだなぁ。あ、俺と結婚してくれ」
「軽っ!!」
「いや、○○は俺の奥さん……」
「じゃあ、別れてくれ!」
「……」
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