17
「○○、今日は早く帰って来るから」
シャンクスは出掛けに○○を振り返る。
「はい!楽しみにして」
ーープルルル、プルルル
「……鷹の目か。おう、俺だ。え?あァ、そうか」
シャンクスは途中から真面目な顔を作って○○から離れる。
「分かった。じゃあ、夜。あァ」
シャンクスは電話を切るとポケットに入れる。
「悪い、○○。今夜も遅くなりそうだ」
シャンクスは眉間にシワを寄せて申し訳なさそうに言う。
「あ、いえ!夕飯はどうしますか?」
「うーん、今日は外で食べるよ。お前はちゃんと食べるんだぞ?」
シャンクスは○○の頭に手を伸ばし、撫でる。
まだ、触る瞬間びくりとするが、弾かれる事はなくなった。
「ふふ、はい。行ってらっしゃい」
○○は照れたように笑った。
そして、仕事を終えてやって来たバーのカウンターに鷹の目を見付けた。
「おっ!鷹の目!早いな」
シャンクスは鷹の目の隣に座る。
「あァ」
鷹の目は酒を煽る。
「あら、シャンクス久し振りね」
バーの女主人キャシーが笑った。
「お久し振りです」
「何飲む?そう言えば漬けた梅酒が良い感じよ?」
「あー、じゃあ梅酒をロックで」
「はい」
シャンクスは鷹の目を見た。
梅酒を飲んでいた。
「はい、お待たせ。ごゆっくり」
キャシーはにっこりと笑うと2人から離れた。
「酷い生活だったようだ」
鷹の目は無表情のまま纏められた書類をシャンクスに渡す。
「まァ、まともな男じゃねーしな」
シャンクスは苦笑しながら書類をめくる。
○○が大学4年のある日。事件は起きた。
それは本当にたまたまな出来事だった。
両親の乗る車が信号無視で突っ込んできたトラックに激突され、母を亡くす。
運転していた父は運悪く、ドフラミンゴが乗る高級車にぶつかった。
父はそのまま入院。
病室で会った○○にドフラミンゴがある提案をしてきた。
「俺の嫁になれば父親は助けてやる。車の修理代もいらない」
と言う。
初めは断った○○だが、父の様子は芳しくない。
そして、車の修理代は目が飛び出るくらいの金額。
大学生で、社会人になったとしても一生をかけて払うしかない金額。
○○は迷ったが、父の体調が一段と悪くなる。
ドフラミンゴが良い医者を知っていると甘い声で囁く。
母を亡くした○○にとって唯一の肉親。
○○は苦渋の選択の末、その条件を飲み、大学卒業とともにドフラミンゴと入籍。
手に入れてしまえば飽きるのも早いドフラミンゴに○○は困惑しながらも一年目は家事などを真面目にこなす。
二年目に入ると自分のテリトリーに他人がいるのを疎ましく思うようになったドフラミンゴが手をあげ始める。
恐怖を感じながらも別れる気の無い夫に外部との連絡手段を絶たれる。
そして、三年目に入る少し前、酒に酔い、○○を無理矢理抱く。
籍を入れたが夫婦の営みなど無かったのだ。
だが、そこから地獄の様な生活が始まる。
ドフラミンゴは○○の体に深く溺れていくのだ。
抵抗すれば当然のように殴る。
無抵抗であれば肌を傷付けられる。
相手を気持ちよくする気など更々無い行為に酔うのはもちろんドフラミンゴのみ。
ドフラミンゴは細身の女が好きな様で○○に十分な食事を与えない。
ただ、水分だけは十分な量を与えていた。
しかし、逆らえばその水さえ奪われる。
そして、ある日、センゴクとガープがドフラミンゴの家にいった時に今にも死にそうな○○を見付け、ドフラミンゴから無理矢理助け出し、離婚手続きをする。
「……………………」
シャンクスは報告書類を無言でめくり続けた。
淡々とした文書だが、生々しく書かれていた。
「入籍してすぐに父親も他界していたようだ」
「あァ?」
鷹の目の言葉にシャンクスは反応する。
「あいつが他の人間を助けるか?」
「…………胸糞悪ィ……」
シャンクスは旨かったはずの梅酒を喉に流し込む。が、苦味しか感じなかった。
「ドフラミンゴはまだ○○を?」
シャンクスは不機嫌な顔のまま、鷹の目を見る。
「解らん」
「は?」
「鎌をかけても引っ掛からん。だか、きっぱり諦めたと言い切るには引っ掛かる。血眼に探してる風でもないが、探りは入れられた」
鷹の目は実際にドフラミンゴと話した様だ。
「なるほど、な。助かったよ、鷹の目」
「……どうするつもりだ?」
鷹の目はシャンクスを見る。
「何がだ?」
「○○だ。面倒事抱え込むのだな?」
「あァ、今更○○を手放せる訳無いだろ?」
シャンクスは真面目な顔をする。
「ふむ」
「ここまで来ちまったなら、最後まで付き合ってやるさ!」
シャンクスはキツく睨むように梅酒を飲み干した。
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