05
気付けばたくさんの月日が流れた。
いよいよ1年も終わり、2年になる。
(またシャンクス先生のクラスになれるかな)
憂はそんな事を考えていた。
「今日でこのクラスともお別れだな!まァ、2年になっても宜しく頼む」
シャンクスはにかりと笑った。
そこかしこから「たのしかった!」「来年も先生のクラスが良い!」などなど生徒から声が上がった。
入学式とは違い1年でかなり人気の教師へと生徒達からの評価が上がった。
頼りになり、叱る所は叱る。教師としても、人間的にもかなり信頼できる男だった。
「それから一応お前達にも報告しとく」
シャンクスは咳払いをひとつした。
「結婚する事になった!」
にかりとシャンクスが笑うと教室はざわついた。
「えぇ?!先生の妄想じゃないの?」
「お前!失礼な事言うなよ!」
「相手は?いつ知り合ったの?」
「美人?」
「どれくらい付き合ってたのー?」
「気付かなかった!」
「シャンクス先生おめでとう!!」
「だっはっはっ!羨ましいだろ!もっと祝え!」
次々と声をかけてくる生徒達にシャンクスは大きく笑った。
「…………」
憂は衝撃を受けたように固まり、エースはそれをボーッと眺めていた。
エースは部活を終えて急いで教室へと向かった。
教室の階に着くと足音を殺して教室の前に着く。
そこで呼吸を整えると教室のドアを開けた。
ーーガラッ
突然の事に中に一人でいた憂はびくりと体を震わせた。
「よお」
エースが手をあげた。
「…………」
憂は慌てて制服の袖で顔を拭った。
「な、なに」
憂が座っている前の席に横向きに座った。
「だから止めとけっつったんだ」
エースが真剣な表情のまま、真正面を向いて憂を見ずに言う。
「……知ってたの?」
憂は鼻をすすった。
「……弟がシャンクスと仲良くてさ」
エースは静かに声を発した。
「……そう、なんだ」
憂は静かに頷いた。
「……だから止めとけっつったんだ」
エースは再び口を開いた。
「お前がこうして傷付くのが解ってたし!だから俺は!」
エースは憂の方を振り返る。
「……ありがとう」
憂の声は小さくてもはっきりしていた。
「私ね、シャンクス先生を好きになった事後悔してないよ」
憂は小さく笑った。
「シャンクス先生を好きになったから楽しい1年が過ごせた。キラキラした気持ちにもなれたし、これが恋なんだ!って分かった」
憂は見えないシャンクスの姿を想い描いた。
「失恋しちゃったけど、仕方ないよ。相手は大人だもんね!また新しい楽しい恋が出来ると良いな」
憂は言いながらも再び涙が溢れ出た。
「…………なァ」
憂の嗚咽が流れる中、エースはポツリと呟いた。
「じゃあさ、俺としねェか?」
「…………?」
エースの言葉の意味がわからずに憂は顔を上げた。
「だから!その新しい恋って奴を俺としねェか?って聞いてんだよ!!」
照れ隠しの怒鳴り声と共にエースは机を拳でダンッと叩いた。
「…………」
憂は驚いた顔のまま固まった。
「…………」
「…………」
2人の間に沈黙が流れる。
すると、みるみる内に憂の顔が真っ赤に染まっていく。
「え?え?え?」
ようやく出した声は震えていた。
「お前、首まで真っ赤じゃねェか」
エースはにやりと笑うと自分の首を指差した。
「っ!!」
憂は自分の首を押さえた。
「で?どうするんだ?」
エースはじっと真剣な顔をした。
初恋は実らない「…………あ!私そろそろ帰らなきゃ!」
「あ!こら!逃げんな!」
「だ、だって!いきなり言われても困るよ!」
「いきなりじゃねェよ!教科書忘れたふりして机くっ付けるとかベタ過ぎだろ!気付け!」
「っ!!気付かないよ!」
「シャンクスしか見てなかったもんな」
「あ、当たり前でしょ!」
「なら、」
「っ!!」
「これからは俺を見ろ、な?」
「ーー!!!」
「あ!こら!逃げんなっての!!」
[ 5/6 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]