04
それから憂は現国の時間が楽しくなった。
シャンクスが背を向けて板書している時は熱い視線を向ける。しかしシャンクスが振り返るとどうしても照れと恥ずかしさで自分のノートを睨み付けた。
指されると噛みまくり、名前を呼ばれると声が裏返る。
シャンクスと少しでも接点が欲しいが、いざそうなると尻込みをしてしまう。
それでも憂の世界はキラキラと輝いた。
そんな日々が続いたある日の事。
「あ、□□!良いところに!」
「シャンクス先生!どうしたんですか?」
シャンクスに呼び止められ憂は緊張気味に振り返る。
「これさ、国語準備室に運んでおいてくれねェか?これから会議なんだよ」
シャンクスは申し訳なさそうに国語辞典を数冊見せた。
「良いですよ」
憂は笑顔満開で頷いた。
「悪いな!頼んだ」
シャンクスはそう言うと急ぎ足で職員室の方へと歩き出した。
「ふふ!シャンクス先生に頼まれちゃった!」
憂は嬉しそうに笑うと辞書を持ち上げた。
「お、重い……」
憂は何とか持つと国語準備室へと向かった。
よろよろと歩いていると曲がり角で誰かとぶつかった。
「うおっと!」
「わぁ!」
ばらばらと落ちる辞書を慌てて拾う。
「悪ィな。なんだ、憂か」
ぶつかったエースが辞書を拾いながら憂を見た。
「あ、エースくん。ありがとう」
辞書を受け取りながら憂は礼を言う。
「借りてきたのか?」
エースが辞書を一冊持ったまま聞く。
「ううん。これを国語準備室に運ぶの頼まれちゃって」
憂はあははと笑った。
「……ったく、シャンクスのヤローは人使い荒いな」
エースは笑った。
「ほら、貸せ!憂が運んでたら明日になっちまう」
エースはにやりと笑うと憂から辞書を奪った。
「え?エースくん!部活じゃ?」
憂は歩き出すエースに声をかける。
「だから、早くしろっての」
エースはそれだけ言うと再び歩き出す。
「え?あ、うん!」
憂は慌ててエースの後を追った。
「ほい!終了!」
エースは国語準備室の机の上にどさりと辞書を置いた。
「ありがとう!エースくん!助かったよ!」
憂は辞書を整えながら笑顔で礼を言う。
「…………そんなに好きなのかよ」
「へ?」
エースの言葉に驚いて振り返る。
「お前シャンクスの事見過ぎ。見てりゃ誰だって解る」
エースは呆れたように憂を見た。
「え?え?いや、そんな!」
憂は照れと恥ずかしさから赤くなる顔を両手で抑えた。
「…………止めとけ」
「へ?」
「止めとけっつったんだ」
エースを見ると先程までと一転して真剣な表情で憂を見た。
「…………な、なんで、そんな事エースくんに言われなきゃ」
憂は怒りと悲しみでエースを見上げた。
「お前が傷付くのが目に見えてるからだ」
「…………」
エースの言葉に憂は黙り込む。
「…………わ、私が生徒で、シャンクス先生が大人だから?」
憂はうつ向いて拳を握った。
「それだけじゃねェ」
エースはじっと憂を見る。
「っ!私が誰を想おうとエースくんには関係ないじゃない!」
憂はそう叫ぶと国語準備室を飛び出した。
「…………チッ」
エースは顔を歪めて舌打ちをした。
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