貴方を抱き締めるだけで


「え?黒にゃんさんって煙草吸わないの?」

仕事の休み時間、先輩女性に誘われて黒にゃんは喫煙所にやって来た。

「はい」

黒にゃんはこくりと頷いた。

「ごめんね、知らなかった!いつも煙草の匂いさせてたからてっきり」

先輩は紫煙を吐き出した。

「ははーん。彼氏?煙草吸うの」

先輩はニヤリと笑った。

「え?いえ」

「何だ、家族か」

先輩は興味無さそうに煙草を吹かした。

「ところでさ、合コン行く?」

先輩は煙草の灰を灰皿に落とした。

「合コンはちょっと」

黒にゃんは申し訳なさそうに笑った。

「あら、良い出会いが無いと結婚出来ないわよ」

先輩はクスクスと笑った。

「まぁ良いわ。ここまで付き合わせて悪かったわね」

「いいえ!そんな事ありません!こうしてご一緒できるのも楽しいです」

黒にゃんはにこりと笑った。

「そ?なら良かったわ」

先輩はにこりと笑った。









「ただいま」

黒にゃんが玄関のドアを開けると部屋は明るかった。

「お帰り。遅かったな」

部屋の奥からは夫であるベックマンが出てきた。

「うん。今日は伝票処理やってたから」

黒にゃんはにこりと笑うとベックマンに近付いた。

「ねぇ」

「どうした?」

「えっと、その」

いざ、ベックマンを目の前にすると慣れない。



ベックマンと黒にゃんは夫婦と言ってもまだ新婚だ。
学生時代に付き合っていたが、プラトニックな関係であった。
黒にゃんの就職先が地方になってしまい「次に会ったら結婚しよう」と言って別れた。

数年の月日を経て黒にゃんが赤髪へ転職をして2人は再会したのだ。

そして、約束通り2人は籍を入れるだけの結婚をした。



「ハグして良い?」

「何故英語」

真っ赤な顔で聞く黒にゃんにベックマンはニヤリと意地悪く笑った。

「…………だ、抱き付いても良いですか?」

黒にゃんは意を決して聞く。

「どうぞ」

ベックマンは笑いを噛み殺して手を広げた。

「…………」

黒にゃんはおずおずとその中へ入った。
筋肉質の胸板は固く、抱き心地はそんなに良くない。
心臓がドキドキと速くなるが、何故か安心した。

「あ、あれ?ベックなんか、煙草の匂いがしない」

くんくんと嗅ぐがやはりいつもの様なキツイ煙草臭はしなかった。

「黒にゃんが喫煙者に間違えられるのは嫌だろ」

ベックマンはそっと黒にゃんの頭を撫でた。

「え?……な、なんで知ってるの?」

黒にゃんは不思議そうにベックマンを見上げた。

「あの場にいたからな」

ベックマンはくすりと笑った。

「そ、そうだったんだ。喫煙所広いし入りくんでるから気付かなかった」

黒にゃんは困った様に言う。

「夫の存在は秘密なのか?」

ベックマンは意地悪く笑う。

「え?あ!違うよ『彼氏?』って聞かれたから違うって」

黒にゃんは慌てて弁解する。

「指輪は次の休みに買いに行くか」

ベックマンは黒にゃんの左手を取り、口付ける。

「……いや、悪いよ」

黒にゃんは首を左右に振る。

「そこで遠慮はするな、稼ぎは良い方だ。そうでもしないとお前は結婚した事も納得してないだろ」

ベックマンは苦笑した。

「な!納得してない訳じゃないよ!ただ、不思議で」

「不思議?」

「…………だって、大学の時別れて諦めてたから。結婚出来るなんて思ってなかったし……」

黒にゃんはポツポツと話す。

「俺は別れたつもりはなかったな」

「……連絡も無かったのに?」

「お前からも無かったな」

ベックマンの手はつい煙草を探す。

「どうすれば納得する?」

ベックマンは黒にゃんを抱き寄せる。

「…………こうして抱き合ってれば実感する」

黒にゃんは顔を真っ赤にしてベックマンに幸せそうに抱き付いた。

「…………そうか」

「へ?」

ベックマンは黒にゃんを抱き上げた。

「な、なに?怖いから下ろしてよ」

急に抱き上げられ慌ててベックマンにしがみつく。

「俺がどれだけ黒にゃんを愛しているか教えてやれば良いんだろう?」

ベックマンはにやりと黒にゃんを見下ろした。

「っ!!」








貴方を抱き締めるだけで









「あら、黒にゃんさん!結婚しするの?」

「あ、いえ、結婚してました」

「なんだ!そうだったの!だから合コン誘っても来なかったのね」

「そ、そうなんです」

「そう言えばそれあそこの宝石店の新作よね?」

「え?ええ」

「副社長も付けてたわね」

「え?」

「ふふ、詳しく話なさい」

「え、えぇ?!」



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