05

美しい教会、参列者の卑しい笑顔、新郎の下卑な顔、新婦の無表情。


神父の穏やかな声が響き、結婚式は滞りなく進む。

「新郎、貴方はこの女性を生涯愛すと誓いますか?」

「誓う」

7回目ともなると神父が何を言うかなど分かる領主は声を出す。

「新婦、貴方はこの男性を生涯愛すと誓いますか?」

「…………」

神父の言葉にどうしても頷けない黎。

「新婦?」

「………………はい」

黎は小さく頷いた。

「この2人の結婚に異議があるものは名乗りでなさい。無ければ永遠に口を閉ざしなさい」

神父は会場内を見渡した。誰も返事をする者はいない。

「ならば」


ーーギー……


教会の重い扉が開かれた。

「異議を申し立てよう」

低い堂々とした男の声にその場の全員が振り返る。

「なんだ?」

領主は何事かと眉間にシワを寄せた。

「あ……」

黎は小さく呟き、ドアから目映い光と共に現れたベックマンを見た。

ばたんとドアが閉まると訪れるのは静粛。

「黎。お前はその領主等にくれてやるには惜しい存在だ。俺と共に来い」

ベックマンの低い声がしーんとした教会内に響く。

「っ」

「何を戯けた事を言う!!貴様に渡すために今まで手塩に育てて来たのではない!」

老婆が立ち上がりベックマンを睨み付けた。

「……少し、調べさせてもらった。黎の両親を殺したのは海賊では無いようだな」

「な、何を言うか!」

ベックマンの言葉に老婆は顔を醜く歪めて叫んだ。

「黎、お前は幼い頃から陶芸をしていたな」

急にベックマンに話を振られ、黎は戸惑いながら頷いた。

「その作品がとある王国の王族に気に入られたらしい。是非お前を王国専門の陶芸師にと言われた。だが、お前の親は黎を無理矢理働かせるのを嫌い、お前と生活する為にそれを断った」

ベックマンは煙草に火をつけた。

「それをどこからか聞き付けた馬鹿な女がいた」

ベックマンは老婆を睨み付けた。

「そいつは黎の両親を殺した。しかし、誤算は黎の親戚が彼女を手放さなかった事だ。彼らはお前の存在を薄々感じていた。危険なお前には渡せないと。だからお前は黎を連れてこの島にやって来た。黎へ助けが届かない所へな」

ベックマンは煙草を吹かした。

「な!何をぬけぬけと!!しょ、証拠はあるんだろうな?!」

老婆は怒りに任せて叫んだ。

「既に黎の親戚を見つけ出した」

「嘘言え!全部殺したはずだ!!!」

老婆の言葉にざわついていた会場が再びしーんなる。

「馬鹿な女は扱いやすいな」

ベックマンは侮蔑の笑みを浮かべ、煙草を足元に捨て、足の裏で踏みつけた。

「ち、違っ!わしは!わしは!」

老婆はそのまま崩れ落ちた。

「もう一度言う。黎、俺と来い」

ベックマンは右手を掲げた。

「……」

黎はベックマンに導かれる様に足を一歩出す。

「待て!」

領主が銃を向ける。

「ふざけるな!今更この女を諦めるなど出来るか!お前が他の男の所へ行くと言うたらここでお前を殺す!」

領主は黎の背中に銃口を突き付けた。
黎の体は恐怖で止まった。

「安心しろ。お前が俺を選ぶなら、俺は俺の全力を持ってお前を守ろう」

ベックマンは手を再び掲げる。

「っ!ベックマンさん!」

黎はベックマンに走り出す。

「クソ女ぁぁぁ!!!!」

領主は引き金に指をかける。

ベックマンは伸ばされた黎の手を取り、抱え込む。


ーーガァァァン


領主の銃から発泡された弾はベックマンの腕を掠めただけだった。

「くそっ!」

「ま、待て!奴はべ、ベン・ベックマンだ!!」

参列者の一人が叫んだ。

「あ、赤髪海賊団の副船長?!」

「ひ、ひぃぃぃ!!!殺される!!!」

教会内がパニックに陥る。

「悪いが花嫁は奪わせてもらう」

ベックマンはニヤリと笑うと黎を横抱きにして連れ去った。

「ま、待て!」

「止めておけ!」

「領主を押さえろ!」

ベックマンとやり合おうとする領主を参列者達が必死に止めた。

老婆は生ける屍となり、牢屋へとぶちこまれた。








「…………ありがとうございます」

浜辺に着いて黎はベックマンに礼を言う。

「礼を言われる筋合いはない。俺はお前を手離す気もない」

ベックマンの言葉に黎は顔を真っ赤にした。

「だが、残念ながら俺は海賊だ。このまま俺と来ればお前もお尋ね者の仲間入りだ」

ベックマンは煙草に火をつけた。

「それでも良いか?」

ベックマンはニヤリと笑った。

「…………はい。私はすでにベックマンさんのものです」

黎は顔を赤くしながら目を反らせた。

「そうか」

ベックマンは目を細めて煙草を吹かした。

「黎」

「はい?」

「俺はお前を傷付ける全てのモノから守ってやる。ただし、俺以外のな」

ベックマンはニヤリと笑った。








コップと煙草









「私、ベックマンさんの仲間の方たちにも何か作ります」

「何故?」

「私にはそれしか出来ないから」

「……そんな事はない。それに船には陶芸用の釜もない」

「……そうですね」

「それに黎は俺のものだ。他の奴の事など気にしなくて良い」

「……はい。ベックマンさん、不束者ですが宜しくお願いいたします」

「あァ」






「良いなぁ、ベンの奴」

「だっはっはっ!!今夜は宴だな!!」

「新しい仲間に!」

「ベックの春に!!!」

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