03
「領主とはどんな男だ?」
ベックマンは酒場の店主に聞いた。
「領主ねぇ。もう50近い男だが気前の良い男だ。しかし妙な噂がある」
「妙な噂?」
「あぁ」
店主は小さく声を落としてベックマンに顔を近付けた。
「これがまた、女癖の悪い男でな。これまでに6人女房をもらってるんだが、内3人はぼろ切れの様に疲れはて過労で死に、2人は殴られた跡があって死に、一人は行方不明だとよ」
「……それはそれは」
ベックマンは眉間にシワを寄せた。
「まぁ、あくまで噂だが、立て続けに若い嫁さんを6人も亡くしてるんだ。変な噂は立つさ」
ハハハハ!と豪快に笑った。
「……そうか」
ベックマンは新しい煙草に火をつけた。
「それが本当なら海賊よりたち悪いおっさんだな」
シャンクスが酒を飲みながら言う。
「そうだな。あんたらは同じ海賊でも行儀は良い方だ!」
店主は「気に入った!」と笑った。
「どうした?ベック」
外に出たベックマンをシャンクスが追いかけた。
「少しな」
ベックマンは迷いなく一番大きな屋敷に着いた。
「ここが領主の屋敷か」
シャンクスが「でけー」と見上げた。
「少し様子を伺ってくる」
ベックマンはさっと柵によじ登った。
「あ!俺も!」
シャンクスは楽しそうだとベックマンにくっ付いて行った。
ベックマンとシャンクスは足音もなく屋敷を伺う。
「黎はまだなのか?」
男が発した名前にベックマンは足を止めた。
「領主様。あの婆とは話を着けてあります。もう少しお待ちください」
そっと中を伺うと初老の男2人が話し合っていた。一人が領主でもう一人は執事のようだ。
「ふん、大金をせがんで来た強欲ババアめ」
領主はふんと鼻を鳴らした。
「しかし、あの娘は殺さない方が賢明です。何と言ってもあの娘の技術は金になります」
執事は無感情に言う。
「そうだな。今度はうっかり殺してしまわない様に気を付けよう。一生死ぬまでわしに仕えればよい」
領主は下卑に笑った。
ベックマンとシャンクスは静かにその場を後にした。
「俺、何かあの領主とか嫌だ」
シャンクスは怒りながら腕を組んだ。
「……そうだな」
ベックマンは頷いた。
「ん?どうしたベック?」
突然立ち止まったベックマンを不思議そうにシャンクスは振り返る。
「なァ、お頭」
「なんだ?」
「仲間がもう一人増えても良いか?」
ベックマンは真剣な顔で煙草を吹かした。
「もちろん」
シャンクスは一瞬キョトンとしたが、ニヤリと笑った。
「恩に着る」
ベックマンもニヤリと笑った。
「気にすんな、相棒!」
シャンクスはにかりと笑った。
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