01

そこは風の強い島だった。

ベックマンの足元にリンゴが一つ転がって来た。
それを何気無く持ち上げる。

「……」

少し距離を取って、リンゴが入ったかごを持ち困った様にこちらを見る女がいた。

「これはお前のか?」

ベックマンがリンゴを掲げる。

「……」

女はこくりと頷いた。心なしか顔が赤い。

「ほら、この風じゃ投げてもまた転がるだろう」

ベックマンが手を伸ばした。

「……」

どうするか迷ってから女はおずおずと近付いて来た。

「ん?」

「あ、ありがとう、ございます」

女はようやくそれだけ言うとリンゴを手に足早にその場から立ち去った。

「…………」

ベックマンはその女の後ろ姿が角を曲がるまで見送った。








赤髪海賊団が停泊する事になった初めての夜。
いつもの様に酒場を貸切状態にしていた。

「ふうん、良い手触りだな」

ベックマンは手にした陶器のコップをしげしげと見た。

「お前そう言うの好きだよな」

シャンクスは笑いながらベックマンを見た。

「それかい?良いだろ?この島の職人が作ったんだぜ」

酒場の店主が我が事の様に胸を張った。

「へェ。職人か!頑固?」

シャンクスが店主を見る。

「頑固?頑固……頑固ねぇ」

店主は頭を捻る。

「どこにいる?」

ベックマンがことりとコップを置いた。

「職人がかい?悪い事は言わねぇ止めときな」

ハハハハ!と店主は豪快に笑った。

「そんなに気難しいのか?」

ベックマンも気になり聞く。

「うーん、あんたら海賊だろ?会っても貰えないんじゃねぇかな?」

店主は苦笑した。

「…………行くだけ行ってみたいな。出来れば一つ欲しい」

ベックマンは店主を見る。

「そうかい?そんなに気に入ったんなら、頑張って口説き落としてみな」

ハハハハ!と豪快に笑うと下手くそな地図を書いた。









翌日、ベックマンは一人地図を頼りに町を歩いていた。
昨日の酒場では「俺も行く!」と言い張っていたシャンクスは二日酔いでダウンしていた。
出掛ける時は麦わら帽子を目深にかぶり、ぐったりとしていた。

「……ここか」

風で飛ばされない様に持っていた地図をポケットにしまうと、ベックマンは風の音に負けないように少々乱暴にドアを叩いた。


ーーゴンゴン


木のドアがベックマンのノックに合わせて揺れる。

反応がなく2、3度叩く。

ギギーッと言う音と共にドアが開く。
背の低いしわくちゃの老婆が出てきた。

「何か用かい?」

老婆はベックマンを値踏みするように上から下まで見た。

「昨日酒場で飲んだコップが良くてな。あんたが作ったのか?」

ベックマンは老婆を見ながら言う。

「私じゃないよ。貧乏人に用はない」

老婆はベックマンを鼻で笑う。

「金ならある。その職人とやらに会わせてくれ」

ベックマンは札束をちらつかせる。

「ほぅ、入りなされ」

老婆は卑しく笑うとベックマンを家の中へ入れた。

ドアがしまると外の風が嘘の様に静かになる。

「職人は?」

「今は買い物に出ている」

ベックマンの質問に老婆はニヤリと笑った。

「あの子はダメな子でね。陶器作りしか能がない」

老婆は茶を出しながら言う。

「器量も悪ければ料理も不味い。頭も悪ければ気も利かない」

老婆は職人を卑下した。

「……」

ベックマンは老婆の話を聞き流しながら仕事場を見た。
綺麗に並べられた道具は良く手入れをされている。
仕事場も全体的に綺麗に片付けられていた。

ベックマンは何とはなしに昨日見たリンゴの女を思い出していた。

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