02
○○は朝起きると朝食の用意に取りかかった。
腹が減っては判断が鈍る。
「むしろ、もう鈍ってる……」
○○は小さくため息をつくと今は扉の閉まる四畳半の部屋に目をやる。
結局、昨夜の赤髪の男を連れて帰ってきてしまったのだ。
今、冷静になると何故警察に届けなかったのかと思う。
不審者、しかも男を一人暮らしの部屋に入れるとはおかしいんじゃないかと自分の頭を疑う。
(昨日は酔ってたし、あんな変な事も起こったし……)
○○はまたため息をついた。
ーーガタン
思わずびくりと体を動かしてしまった。
まだ扉は開けられていない。
ただ、目が覚めたのだろう。
(平常心。冷静に……)
○○は大きく深呼吸をした。
(赤髪の人もきっと驚いているんだ。しかも、起きたら知らない部屋。きっと不安もあるよね)
○○は扉を見てから朝食の準備を再開した。
ーーカチャ
音がしてから10分くらいだろうか、扉が開き、赤髪の男が居間へと顔を出した。
「気分はいかが?」
○○は台所から笑顔で声をかける。
「あ、ああ。腹が減った」
赤髪の男は一瞬驚いてからそう声を出した。
動揺も緊張も無い、自然な声だ。
「ちょっと座って待ってて」
○○の言葉に男は素直にダイニングテーブルへ座った。
すぐに食事の用意が出来てテーブルへ並べる。
○○にとっては休日の朝。楽しい一日の始まりのはずだったのだ。
ホームベーカリーで焼いた焼き立てのパン、手作りのイチゴジャムに目玉焼き、そしてミルクティーを並べた。
「いただきます」
○○は手を合せた。
「つーか、ここどこだ?」
男は開口一番にそう訊ねた。
「私の家、と言うかアパート」
○○はやれやれと答える。
「島か?波の音もしないな」
男は不思議そうに窓の外を見た。
「島?島……。まぁ、日本は島国だけど……」
○○は答える。
「貴方は何者?どこから来たの?」
○○はパンにジャムを塗りながら聞く。
「俺はシャンクス。イーストブルーを航海中だったんだが」
男ーーシャンクスは目玉焼きに手をつけながらそう答えた。
「イースト……航海中って事は東の海って事?」
○○はパンをかじる。
「ああ、そうだ」
シャンクスは頷いた。
「……イーストブルーねぇ。どこら辺なのかしら?」
○○はずいぶんと曖昧な答えに眉を寄せる。
「あ?えーっと、確か航海士の話だたともうすぐドーン島とか言ってたか」
シャンクスは思い出しながら言う。
「ドーン……。聞いた事ない」
○○は率直に言う。
「……俺はそんなに流されたのか?」
シャンクスは不思議そうに○○を見る。
「と、言うか。貴方は触れない津波に乗ってきたんだけど……」
「触れない津波?」
○○は仕方なく昨晩の出来事を話した。
シャンクスはふんふんと聞いていたが、話し終わると突然立ち上がり窓の外を見た。
「……昔話だが、大波は時として異なる世界へと人を迷い混ませる」
シャンクスは真剣な顔で声を出した。
「異なる……世界?」
○○は「何か変な事を言い始めた」と思ったがあまりにも真剣な眼差しなのでそう繰り返すに止めた。
「ああ。それは、あのロジャー船長でも未体験だったらしい」
「ロジャー船長?」
「ゴール・D・ロジャー。唯一海賊王と呼ばれた男さ」
シャンクスは憂いを帯びた目で振り返る。
「知らないわ」
○○は首を横に振る。
「……この名前はガキでも知ってる名前さ。って事は俺は本当に違う世界に……」
シャンクスは小さく体を震えさせる。
「……そ、その話が本当なら、不安なのも分かるけど」
○○はシャンクスが不安で泣き出したのかと思い、慌てて慰めようとする。
「凄いぞ!!ロジャー船長でもした事無い事を俺がしてる!!」
シャンクスは目を輝かせた。
「は?」
「そうだ、あんた名前は?」
「……○○だけど……」
○○は呆気に取られたままそう声を出した。
「そうか!○○!短い間だが宜しく頼む!」
シャンクスはにかりと笑うと手を差し出した。
「え?いや!待って!面倒見るとか言ってないし」
○○は慌てて否定する。
「なんだよー。こうして異世界から来た俺を助けてくれたんだ!最後まで面倒見てくれよ!」
シャンクスは子供っぽく口を尖らせた。
「え?いや、あの……」
大の男が見せるあまりにも可愛らしいその表情に○○はどぎまぎしながら口ごもる。
「なぁ、頼むよ。○○だけが頼りなんだ!」
シャンクスはぱちんと手を合わせた。
「……帰る当てはあるの?」
○○はため息をついた。
「あ?ああ。津波ってのは襲うばかりじゃなくて、引くんだ。その時に帰れるはずさ」
シャンクスは思い出しながら声を出した。
「……分かった。拾った手前、最後まで面倒見てあげるよ」
「やった!!ありがとうな」
シャンクスはガッツポーズを決めた。
「そう言えばシャンクスは向こうで何をしてたの?」
○○が不思議そうに聞く。
「海賊だ!赤髪海賊団の船長だぜ」
シャンクスはニヤリと笑った。
「…………やっぱり警察に……」
○○は困った顔をしながら呟いた。
「なら、この家を奪うまでだな。海賊らしく」
シャンクスはニヤリと笑った。
「っく!!」
○○はニヤリと笑った顔に思わず頬を赤くした。
(ちょっと……カッコイイ)
***
何番煎じの赤髪のシャンクス逆トリップです。
設定はルフィと出会う直前と言った所で流されて来ました。
ヒロインが二十代社会人ですので、当然艶っぽい話も出てきます。
そして、流血とかも出てきます。
苦手な方はお気をつけください。
楽しんでいただけたら幸いです♪
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[mokuji]
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