4月1日

○○がこちらの世界に来て、数ヵ月が過ぎた。

今日も今日とて赤髪海賊団は宴の真っ最中だった。

「あ、あれ?」

いつもの様にシャンクスの隣でお酒を飲んでいて気が付いた。

「ヤソップさんがいない……」

いつもなら騒ぎの中心にいるヤソップの姿が見えない。

キョロキョロと見回すが見える範囲にやはりいなかった。

「ん?どうした?」

急にキョロキョロし始めた○○をシャンクスは不思議そうに見た。

「え?あ、うん。ヤソップさんは?」

○○は不思議そうにシャンクスに聞く。

「あ?…………あー、ちょっとな」

「私、見てくるね」

「あ、おい!」

シャンクスが止める間もなくにこりと笑った○○は立ち上がった。






○○は宴の喧騒を離れて船頭へやって来た。
暗い海と月明かりに照らされる竜の頭が見れた。

○○はてくてくと歩いていると面白い音がした。


ーーヒュンッ


何の音だろうと竜の逆側に行くとお目当ての人を見付けた。

黙って見ていると、ヤソップは小さなパチンコを夜空に向けて打っていた。

ヒュンッと言う音と共に玉が手元から離れ、夜空に浮かぶ海鳥にぶつかる。

海鳥はぼとりと甲板へ落ちてきた。

「ヤソップさん」

「お、○○!いたのか」

ヤソップが驚いて振り返る。

○○はヤソップが気付いていなかった事に驚いた。

「どうしたんですか?」

○○はいつものヤソップと雰囲気が違い戸惑う。

「鳥。何かさ、食いたくなるんだよな」

ヤソップは笑いながら鳥を掲げた。

「…………じゃ、無くて……」

○○は誤魔化されたので、仕方なくパチンコを見た。

「珍しいですね、パチンコなんて」

○○はパチンコを指差した。

「あ?あァ。俺は武器を選ばないんだよ!スゲェだろ?」

ヤソップはニヤリと笑った。

「……年期入ってそうですね」

どこまでも話を反らそうとするヤソップを不思議そうに見る。

「…………あァ、まァな」

「何か、思い入れでも?」

「…………」

彼にしては珍しく黙り込んだ。

「……すみません。立ち入った事を聞きました」

○○は申し訳なさそうに言うと踵を返す。

「今日さ」

「はい?」

「息子の誕生日なんだよ」

ヤソップが柵に体を預け、暗い海を見ながら声を出した。

「ヤソップさんって結婚してたんですか?!」

○○は驚いてヤソップを見た。

「あァ。島にかみさんと息子を置いて俺は海に出たのさ」

ヤソップは静かに話し出した。
○○はヤソップの隣に並び、暗い海を見た。

「……奥さんは?」

「死んじまってる」

ヤソップは小さく笑った。

「情けないよな。俺」

「…………もしかして」

○○はぐっとヤソップを見上げる。

「息子さんが原因で、その出産で奥さんは亡くなられたんですか?それで家を飛び出して?」

○○が真剣な顔をする。

「○○って結構ドリーマーなんだな」

ヤソップが感心した様に言う。

「あ、あれ?違いました?」

「違う違う」

ヤソップは薄く笑った。

「俺さ、昔から射撃の腕だけは上手くてさ。弱虫だったけど、海賊に憧れててさ。勇敢な海の男って奴に憧れてさ。そしたら、お頭が俺の島に来た」

ヤソップは懐かしそうに目を細めた。

「最初は結婚したてだったしよ、断ったんだよ。しつこかったけど」

ヤソップは楽しそうに笑った。

「子どもも産まれてこれからって時にあいつがさ『後悔してるでしょ』ってよ。俺はどきりとしたよ」

ヤソップは真剣な顔をした。

「普通はさ、女って奴は安定を求めるだろ?なのにさ、『自分の生きたいように生きない貴方なんて私は知らない』ってさ」

ヤソップは淡々と続ける。

「そんな事言ってる時にお頭がまた俺を誘いに来て、俺はかみさんに言ったよ『海賊旗が俺を呼んでる』ってさ」

ヤソップは口を歪ませた。

「馬鹿だよな。そしたらあいつ、病を患ってたらしくてよ、風の便りであいつが死んだのを知ったんだ。気付いてやれなかった……」

ヤソップの声は意外にしっかりとしていた。

「息子はさ、俺に似てパチンコが好きでさ。あいつに似て芸術肌で鼻が長ェ」

ヤソップは笑った。

「俺の事、恨んでるかな、ウソップ」

ヤソップはそう言うと海を眺めた。

「…………ウソップ?鼻が長い?」

○○は驚いてヤソップを見上げた。

「ヤソップさん!ウソップ君は海に出てますよ!」

「は?」

「私、会いましたよ!ルフィ君の船に乗って、狙撃手だと言ってました!そうだ!それにパチンコ!」

○○は興奮気味にヤソップの手の中のパチンコを指差す。

「持ってましたよ!」

○○はにこりと笑った。

「…………そうか」

ヤソップはそれだけ呟いた。


「○○」

「シャンクス?」

○○が何かを言う前にシャンクスが声をかけた。

「ほら、ヤソップ」

「お!悪ィね!お頭自ら」

シャンクスが酒瓶をヤソップに押し付ける。
ヤソップはニヤリと笑って受け取った。

「行くぞ」

「え?」

「良いから」

シャンクスは○○を連れて立ち去った。


「別に昔じゃねェんだ。泣きはしねェさ」

ヤソップの言葉は暗い海へと吸い込まれた。












「「「ウソップ誕生日おめでとう!!!」」」

ガンガンとグラスがぶつかり、ゴールデン・メリー号の甲板は盛り上がっていた。

「おう!ありがとよ!このキャプテンウソップ様を崇めよ!」

「キャー!キャプテンウソップカッコイイ!!」

チョッパーが喜びの声をあげる。

「ふふ、おめでとう!ウソップ!!今日は貸しは無しにしてあげる!」

ナミが笑いながらグラスを傾けた。

「ほら!テメェ飲め!」

ゾロが酒をウソップにつぐ。

「潰す気か!ほら!テメェの好きなもんいっぱい作ったぜ」

サンジが紫煙を吐きながら言う。

「ありがとよ!ウソップ歌います!」

ウソップはパチンコを掲げた。

「そう言や、ヤソップもそれ持ってたな」

ルフィがウソップのパチンコを指差す。

「本当か?これな、親父に貰ったんだよ」

ウソップが笑った。

「…………元気かな、カヤ」

「「「そっちかよ!!!」」」

ウソップの言葉に全員が突っ込みを入れた。








「キャプテンの誕生日かぁ」

「何だよ、たまねぎ!しんみりして」

「だってよ、にんじん!キャプテンがいた時は無駄にうるさくてさ!」

「そうだよな!ピーマン」

「どうしたの?みんな元気ないね」

「「「カヤさん!」」」

「せっかくのウソップさんの誕生日なんだもの!本人が居なくてもお祝いしてあげなきゃ!」

(((キャプテンカヤさん泣かせたら怒る!!!)))








***







HAPPY Birthday ウソップ!!





※もちろん、ヤソップのお話は捏造です。

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