01

仲の良い友達もいて、仕事もまあまあ順調。彼氏とは最近疎遠。

そんな現代日本で生活していた。


まさか、この先にあんな大変な事が待ち受けているとは知らず。






「はぁ!今日もお疲れ様!」

○○は仲の良い友人と安い居酒屋で花金を楽しんでいた。

「お疲れ様!!」

カンッと気持ちの良い音を立ててグラスが重なる。

「週末のこの時間の為に働いてるみたいなものよね!」

○○は嬉しそう小さなビールくグラスを飲む。

「それで酔えるんだから、安上がりね」

友人はニヤニヤと笑った。

「へへ、羨ましいでしょ」

○○は笑った。

「そう言えば彼氏とはどうなの?」

「ん?全然会ってないから知らない」

○○の言葉に友人は眉を寄せる。

「……それって大丈夫なの?」

「ダメでしょ。自然消滅」

○○はニヤリと笑った。

「長かったのにね」

「……長すぎたよ。昔は遊ぶ人じゃなかったのにね」


○○の彼氏は大学時代からの付き合いだった。
真面目で大人しく一途だった。

が、社会人になり、営業の仕事についたせいか、外見を気にし、明るくなろうと努力をした。
○○も応援し、結果、とても大学時代とは変わった好青年になった。

しかし、客だけでなく、女性にもモテるようになり、ズルズルと断れず……と言う関係を持った女性が多数存在した。


そして、いつの間にか来るもの拒めずの最低男が出来上がってしまったのだ。



「初めは自分の彼氏がモテるのはそれなりに嬉しかったんだけどね。浮気はつらいよ」

○○は悲しそうにビールを飲んだ。

「……○○。飲め!飲んで忘れてしまえ!!」

友人はニヤリと笑うとビールをついだ。

「うん!今日は飲める気がする!!」

○○はビールを一気に空けた。







「んー……さすがに……酔った……」

○○は一人暮らすアパートへと歩いている。

久し振りのアルコールは足元をふらつかせた。

「っ!!痛ーい!何なの?もー!!」

何かに蹴躓いて転んだ。
文句を言いながら振り向くと

「っ!!な、何これ?!」

ただの石ころに躓いたようだが、驚いたのはそれではなく、目の前に津波の様な水の壁が突然現れたのだ。

「に、逃げなっ!」

逃げようと立ち上がる間もなく、○○はその津波に飲まれる。

が、水は○○に当たる感触がない。

「え?何これ?!」

息も出きる、声も出せる、濡れる感触もない。

視覚だけが津波に飲み込まれているのだ。

「っ!人!」

周りの物も津波とは関係ない様に立っているが、その人だけは確実に津波によって流されていた。

「こっちに来る」

○○はその人が纏っていたマントの様な物を必死で掴んだ。

「っく!!」

濡れたマントは重く、流される人間も凄い勢いで引っ張られる。

「んー!!」

それでも○○はその人を必死で掴んだ。

そして、津波はその人を残して過ぎ去った。

「っはぁっはぁ……」

息が上がり、肩が震える。久し振り全力で綱引きをした疲労感で○○は息を荒くした。

やはり濡れていない。
自分も道路も何もかも。
確かに津波はここに来たのに、だ。

「この人……」

人は濡れていた。
その人とその人が触れた部分だけが濡れていたのだった。

「も、もしもし?」

○○はその人を仰向けに転がすと頬を軽く叩いた。

「もしもーし!大丈夫ですか?!」

反応がないので、慌てて大きな声で呼び掛ける。

「……ん……」

小さな反応があった。
息も穏やかで、脈もある。

○○はホッとしてその人を覗き込む。

年の頃は二十代後半といったところだろうか。
赤い髪と左目に大きな三本の傷がある男だ。
良い年をして麦わら帽子を被っている。

「っ……どうしよう?」

○○は途方にくれた。
ただ寝ているか、気を失っているだけなので救急車を呼ぶのも気が引ける。
だが、ここで転がして置く訳にもいかない。

それに何より

「今の出来事を誰が信じるの?」

○○は今しがた体験した事を誰かに話した所で信じて貰えないと確信した。

非常識過ぎる。


「はぁ……」

真夜中、誰も他に通らず力を借りる事も出来ない。

○○は赤髪の男を見て途方にくれた。

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