20

夕食は本当に戦争であった。



洗濯物を取り込み、たたみ、各部屋に届けてる。それだけの作業にとても手間取ってしまった。

与えられた仕事も満足に出来ないのは自分でもつらいが、そう思う間も無く時間は過ぎた。

決して広い船内で食堂を探してさ迷った訳ではない……。



「……どうしよう?」

一人、食堂の入り口で固まる○○。

人数分ちゃんと有ろうと言う机や椅子はあるのだ。あるのだが、食事や酒を奪い合い、取り合い、楽しそうに(?)食事をしているのだ。

(さすが、海賊……。さすが、男ばかり)

○○はこちらの世界ではレストランと鷹の目との食事だけだったので、驚きながら見ていた。

(あ、バラティエのみんな元気かな?私の事心配……してるかな?)

○○は少し不安になる。
何も言えないまま拐われて来てしまったのだ。

(手紙でも書こうかな?)

○○は疲れて、特に落ち着いて食事も出来なさそうだと、食堂を後にした。





「ふぅ……」

○○は部屋のベッドに寝転がる。
手紙を書こうにも、紙もなければペンもない。

「良いや、後で副船長に聞いてみよう」

○○は夕食が終わったら来いと言われたので、少し時間を潰す事にした。


広い船内には大きなパラソルやヤシの木なども植えられていた。
それだけで陽気な海賊団だと思われる。


遠くの方から笑い声や喧騒がする。

なのに、部屋にただ一人でいると、堪らなく孤独を感じた。

「……私、何の為にこの世界に来たんだっけ」

○○は急に全てが恋しくなった。
残して来た家族、友達、部屋。
それら全てに会いたくなったのだ。

「……っ……」

○○は声を殺して泣いた。



そんなに懐かしがる年でもない。

もうしっかりとした大人なんだ!泣くな!

自分が選んだ道なんだ!


そう心で叱咤しても、涙は止めどなく流れ続ける。




ーーコンコン


「っ!!は、はい!!」

急に響いたノック音に○○は慌てて目を擦る。

「おう、○○!いるか?」

それは陽気な陽気な海賊大頭の声だ。

「っ!待っ!ちょっと待って下さい!!」

○○は慌てて声を出し、涙を引っ込め様と努力する。


ーーガチャ


「どうした?疲れたか?飯食ってないだろ?」

シャンクスは○○の涙に驚く事なく言葉を紡ぐ。

「っちょ、まだ良いとは……」

○○は困った顔をしながら左目を手で覆う。

「なんだよ、この船は俺の船だ!ちゃんと声かけただけ良いだろ?」

シャンクスはニヤリと笑う。

「え?いや、あの、着替えとか!女には色々あるんです!」

○○は少しだけ不満を言う。

「その時はちゃんと見てやるから」

「見ないで下さい!」

「つれないな」

がっはっはっ!とシャンクスは笑う。

シャンクスは手に持っていた握り飯の乗った皿を机に置くと、ドアを閉めた。

狭い部屋に二人きりでいると、否応なくドキドキと胸が高鳴る。

それではいけないと○○は握り飯に目をやる。

「……それは?」

「ああ、お前、食堂から逃げたろ?」

「っ!ご、ごめんなさい」

シャンクスの言葉に○○は驚き、謝る。

(そうか!私のした事は赤髪海賊団から逃げた事になるのか!)

○○はきつく手を握った。

「いや、別に気付いてる奴も居なかったから平気だろ。それにお前は女だからな。驚くのは仕方ないさ」

シャンクスはポスンとベッドに腰を下ろす。

「……せっかく、皆さんが仲間にしてくれそうなのに……私はそれを裏切ったのですね」

○○は目が潤むのを感じる。

(ダメだ!泣くな!)

思えば思うほど目には涙が溜まる。

「そんなに深く考えなくて良いぞ」

シャンクスは苦笑しながら○○を見上げる。

「ここの奴らは気の良い奴等だ。それに、お前がこの船に乗るのには俺にも責任が」

「せ、責任なんて言わないで下さい!!!」

シャンクスの言葉に耐えきれなくなった○○は涙と共に大声を出した。

「私は私の意思で貴方に付いて行こうと決めたんです!だから、その後どうなろうと私は私の責任でここにいるんです!!!」

「……」

○○はボロボロと涙を流す。

「それに、貴方にとってはもう10年も前の事でしょ?船に乗せて貰うのは感謝します。でも、責任だなんて……」

「○○」

シャンクスは右手で○○の手を掴む。

「後悔しているのか?」

「後悔なんか……」

「帰りたいのか?」

「っ!!」

シャンクスの言葉に○○はショックを受ける。

「…………この、船から下ろされても良い……でも…………帰れだなんて……言わないで……下さい」

○○の心は悲鳴を上げる。

「私は!私にとっては貴方がいるからここに来た!貴方がいるから全てを捨ててここに来たんです!!」

○○はずるずると床に座り込む。

「せめて………………せめて貴方と同じ世界にいたい。貴方の事を知る人がいる世界に……」

○○はぐずぐずとすすり泣く。

シャンクスの手が離れ、言う事だけ言うと冷静になる。

(……って、これじゃあ、ダメな女じゃないか!重い!重た過ぎる!)

○○は無言のままのシャンクスを見れないまま、頭の中は大パニックを起こしていた。


今までのホームシックを見破られたせいで、自分の想いまで暴露してしまった。
○○はがばりとシャンクスを見上げる。

シャンクスは右手で顔の多くを隠し、眉間にシワを寄せていた。

○○は気付かなかったが、シャンクスは嬉しくてニヤけそうになる顔を隠していたのだ。

「…………あの、すみません。言い過ぎました。あ!私、せっかくですから、おにぎり持って食堂に行きますね!ありがとうございます!!」

○○は恥ずかしさから早口で捲し立てた。

「待て、待て」

シャンクスは右手で○○の手をもう一度掴んだ。

「ご、ごめんなさい!許して下さい!帰れって言われたら帰ります!帰り方なんて知らないけど……」

○○は慌てるように先程の言葉を否定する。

「帰らないんだろ?俺のそばにいたいんだろ?」

シャンクスは余裕そうに笑う。

「いえいえ、そんな事は」

慌てて否定する○○。

「そんなに意固地になるなよ」

「っ!!み、耳は止めて!!」

耳元で話すシャンクスに○○は慌てる。

いつの間にか間合いを詰められ、○○の耳元にシャンクスの口があった。

「そういや、耳弱かったよな」

「な、何を言ってっ!!」

シャンクスの楽しそうな声に○○はぞくりと嫌な予感がした。

シャンクスはベロりと○○の耳を舐める。

「っ!や、やだ!止めて下さい」

○○は自分の置かれた状況に今更ながら顔を赤くする。
逃げようと体を引くと、そのままドアに体を押さえ付けられた。



抱かれたら、絶対に離れられない。

彼女持ちの男なんて、結局は体目的なんだ。

昔の女に会って、ちょっと興奮してるだけなんだ。



と、言い聞かせ様とするが、体はシャンクスに反応してしまう。

「止める必要なんてないだろ?」

艶っぽく紡がれる言葉にクラクラと頭は白くなる。

シャンクスのただ一本の手が○○の頬に触れる。

「なぁ、俺の事好きなんだろ?」

その手がゆっくりと首へ滑る。

「んっ……や」

「良い声だ」

撫でながら手はなおも下に行く。

「んんっ」

胸まで行くと声が漏れるので、慌てて口を押さえる。

「はっ、いつまで我慢するつもりだ?」

シャンクスはニヤリと笑う。

手はまだ下がり、腰を触り、尻に行く。

「っ!!」

○○は顔を真っ赤にし、シャンクスを睨み付ける。

「その顔も良いな」

シャンクスはニヤリと笑うと顔をゆっくり近付ける。

(っ!ダメ!!)

○○は目をギュッと瞑る。


ーーゴンゴン


「書庫で待ってる」

○○の体がドアにくっ付いているので、低いノック音と共にベックマンの低い声も響く。

「お頭も、程ほどにな」

「なんにゃろ……」

シャンクスはベックマンのニヤリと笑う顔が容易に想像でき、眉間にシワを寄せた。

「お、お頭!私、食堂でおにぎり食べてくる!」

○○はシャンクスの手の力が緩んだ瞬間にするりと腕から抜け出すと、握り飯の乗った皿を持ち、部屋を素早く出た。

「…………」

シャンクスは一人○○の部屋に残された。

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