17

「ーーつー、訳だから、ちゃんと○○は置いていけよな」

シャンクスは極上の酒を鷹の目に注ぎながら睨む様に言う。

「ふん」

鷹の目は鼻を鳴らすと、注がれた酒をあおる。

「うむ、良い味だ」

鷹の目はご満悦に舌鼓を打った。

「だろ?」

シャンクスは鷹の目の反応に嬉しそうに笑った。

「元より置いていく気だ。良い暇潰しになった」

鷹の目は横で眠る○○の頬に指を這わせた。

「ん……」

くすぐったいのか、○○の口から小さく声が漏れる。
しかし、起きる気配はない。

「…………お頭、顔が怖ェよ」

ヤソップが呆れた様に○○を凝視し、喉を鳴らすシャンクスに言う。

「だってよ!おい!鷹の目!○○に触るな!!」

シャンクスは不機嫌さを隠さずに声を出す。

「黙れ、起きる」

鷹の目は酒を飲みながら静かに言う。
鷹の目の指は、○○に触れたままだ。

「くっ!!」

シャンクスは悔しそうに口を閉じた。

「……阿呆か」

ベックマンがシャンクスと鷹の目のやり取りを見て、小さく呟いた。







いつの間にか寝ていたらしい○○はゆっくりと目を覚ました。

「…………ここは?」

知らない部屋に一気に覚醒する。
狭い部屋にはベッドが一台に洋服ダンスと小さな机だけ。

「私の荷物?」

机には○○が鷹の目に買って貰った荷物が置かれていた。

「…………っ!!ここは船?!」

小さな丸窓には海が広がっていた。

○○は慌てて身支度を整えると、部屋を出る。

「ど、どこ?」

左手には廊下が広がり、右手には少し行った所に階段があった。
○○は少し迷ってから階段を上がる事にした。

適当に歩くと船の甲板に出る。

「おう!おはようさん!よく眠れたか?」

ドレッドヘアのヤソップがそう話しかけて来た。

「お、おはようございます。……あの」

○○は鷹の目が見えない事に不安を感じながら何を聞けば良いのか迷っていた。

「どうした?」

「えっと……鷹の目は?」

「お頭じゃねーのかよ!」

ヤソップはわははと大笑いする。

「ほれ、あそこ」

ヤソップは船の縁へ連れて行き、地平線近くに見えるーーか見えないかの小船を指差した。

「…………えーっと、これは……。私はこの船に預けられたのでしょうか?」

帽子で太陽を遮りながら、目を細めて昨日まで一緒に乗ってた小さな船を見た。

「そうだな!置いてかれたな!」

ヤソップは楽しそうに笑った。

「……はぁ」

○○は取り合えず頷いた。

「お!○○!起きたか!」

振り返るとこの1ヶ月会いたくて仕方が無かった男が立っていた。

「おはようございます」

○○はこの船の船長である赤髪こと、シャンクスに挨拶をする。

「おう!」

「あの、赤髪さん?」

「固い!」

「は?」

シャンクスの言葉の意味が解らず間抜けな声を出す。

「固いって言ったんだよ。話し方」

シャンクスはムッとしながら言う。

「……いや、でも」

「口答えするな」

「………………赤髪」

「違う」

シャンクスは不機嫌そうに首を振る。

「船長さん?」

「固い」

「船長?」

「違う」

「……お頭?」

「違う」

「………………頭?」

「お前、わざとやってるのか?」

シャンクスは口を尖らせる。

「………………はい」

○○は頷いた。

「あはは!弄ばれてるな!お頭!」

ヤソップは大笑いした。

「あの、赤髪の船長さん」

○○はシャンクスを見上げる。

「……………………なんだ?」

シャンクスは不機嫌そうにしながらも見られるのが嬉しかったらしく、先を促した。

「私、鷹の目に置いていかれたみたいですね」

○○はシャンクスへ対する想いを心にしまい込んで声を出す。

「当たり前だ」

シャンクスは頷いた。

「えっと、私はどうしたら良いですか?船に乗せて貰うんですし」

○○は船長であるシャンクスに指示を仰ごうとする。

「のんびりしてて良いぞ?いや、俺の部屋のベッドの上で一緒に」

「分かりました、雑用として働きます」

シャンクスの言葉を遮ると○○はにっこりと笑った。

「………………はぁ」

シャンクスはひとつため息をもらす。

「おい!みんな!!」

くるりと体を翻すとシャンクスは乗組員に大声を出す。

海賊達はなんだなんたと甲板に出てきた。

(いっぱいいる!)

○○は呆気に取られながらその様子を見る。

「新しく入った○○だ!仲良くしてやってくれ!女だが、手は出すなよ!!」

シャンクスは大声を張り上げた。

「ほら」

シャンクスはぽんと右手で○○の背を叩いた。

「っ!!○○です!!宜しくお願いします!!」

○○はぺこりとお辞儀をした。

「おーー!!」

「宜しく!!」

「あれ?鷹の目の女じゃなかったのか?」

「女だぁ!!!」

海賊達は声を出して歓迎をした。

誰も嫌な顔ひとつしなかった事に○○はホッと安心した。

「で?それだけかよ?何か特技はないのか?特技は!」

ヤソップが○○を見る。

「え?特技?…………あの」

○○は不安そうにヤソップとシャンクスを見上げる。

「なんだ?」

「……う、売らないで下さいね」

○○は鷹の目の言葉を思い出して言う。

「売らねーよ!」

シャンクスが怒った様に言う。

「ちゃんと買ってやるよ」

ヤソップが笑った。

「……なら」

○○はほうきを探し、手に持つ。

皆、なんだなんだと見る。

「では!」

○○はほうきに跨がると、ふわりと浮き上がる。

「っ!!」

「能力者?!」

海賊達は驚いて○○を見る。

レッド・フォース号を一回りすると、静かに元の位置に降り立った。

「えっと、私は異世界人で、悪魔の実は食べてないのに何故か飛べます。これを知られたら売られると言われたのですが、皆さんに信用して貰いたくて見せました!」

○○は緊張しながら大きな声を出す。

「これから、迷惑ばかりかけると思いますが、宜しくお願いいたします!!」

○○は深く頭を下げた。


シーンと船は静まり返る。


(やっぱり、ダメ……かな)

○○が不安そうに顔を上げる。


「す、すげぇ!!!」

「え?悪魔の実じゃねーの?」

「異世界ってなんだ?!」

海賊達は驚きに沸いていた。

「すげーな!飛べるとか良いな!」

ヤソップも○○の肩を楽しそうにバシバシと叩いた。

「え?あ、はい。私もそう思います」

予想以上に歓迎されて○○は驚きに目を丸くした。

「○○」

「赤髪さん?」

シャンクスの声に○○は振り返る。

「よく話してくれたな」

優しい笑顔で頭を撫でた。

「っ!!」

○○は声にならない涙を流した。

「あー!お頭が泣かしてるよ!」

「ひでー!」

海賊達が囃し立てる。

「違っ!」

シャンクスは焦りながらも○○の背中を撫でる。

○○は自分が受け入れられた嬉そさに涙を流した。

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