06
食事はホテルのレストランで済ませる様だ。
「こ、こちらへどうぞ」
レストランのウェイターが鷹の目に怯えながらもきちんと案内をした。
メニューを開くがやはり分からない。
レストランバルティエで働いていたが、メニューがまるで違う様で、意味をなさなかった。
「どうした?」
鷹の目がメニューを閉じた○○に聞く。
「……メニューが分からなくて……」
そう言えば鷹の目にはまだ異世界人だと話していないなと○○は思っていた。
「……そうか」
鷹の目はそれだけ言うとウェイターを呼ぶ。
オーダーはワインと適当に見繕え、との事。
(そ、そんな頼み方もあるよね……普通の人は使えないけど……)
○○は驚いた様な、尊敬したような眼差しを鷹の目に向けた。
「ぬし、名は?」
運ばれて来たワインに口をつけながら鷹の目は聞く。
「そ、そう言えば……。○○です」
○○はそう名乗った。
「そうか」
特に興味も無いようで、その話題は終わった。
(そ、それだけ?)
○○は少し転けていた。
そこから話を膨らませようなどと言う気持ちは鷹の目には無かった。
「飲まないのか?」
○○が呆けていると、鷹の目がワインに手をつけない○○を見た。
「あ、いや、えっと…………少し」
鷹の目の鋭い目線に○○はワインに口をつけた。
酒は弱いが好きだ。
しかし、ワインはどうも好きではなかった。
が、
「………………美味しい」
○○は驚きながら自分の飲んだワインを見る。
「ワインってこんなに美味しかったんだ」
○○は不思議そうに声を出す。
今まで飲んだ事のあるワインはなんだったのか?
飲みにくく、香りも浅い。
これは、酒の味は濃いが飲みやすく、香りが深い。
「そうだな」
鷹の目は満足そうに頷いた。
○○は不思議な感覚に陥っていた。
拐った相手と何故かほのぼのと食事をしている。
しかも、服の世話までされた。
このまま付いて行けばシャンクスにも会えるかもしれない。
○○は鷹の目の機嫌を損ね無いようにしようと心で強く決意した。
「…………」
鷹の目は目の前でテーブルに突っ伏して寝ている○○を見た。
酒に弱いのか、それとも極度の緊張から酒により解放されて寝てしまったのか?
鷹の目は手元のワインのボトルが空になると、席を立つ。
ウェイターが素早く近付く。
「お運びしましょうか?」
ウェイターは○○の横に立つ。
「無用だ」
鷹の目は鋭い視線をウェイターに向ける。
「し、失礼いたしました」
ウェイターは慌てて○○から離れると壁際まで下がった。
鷹の目は○○をひょいと抱き上げると、長い足を動かし、部屋へと帰った。
鷹の目は○○をベッドへ下ろす。
「ん……」
ベッドに下ろされた衝撃で小さく声を出し、もぞもぞと動く。
「……」
起きるかと見ていたが、体勢が落ち着くとそのまま眠った。
「……○○……か」
鷹の目はそう呟きながら○○の頬を撫でる。
これが赤髪の言っていた異世界から連れて来たと言う女だろう。
もちろん確証は無いが、鷹の目の勘がそう告げていた。
あの時の赤髪の慌てた様子はただ事では無かった。
一年も同じ所に留まり、女を探すために航海を繰り返したと聞く。
「ん……あ」
酒のせい、眠っていても鷹の目の手に赤い顔をした○○の口からは甘い吐息が漏れる。
「ーー」
誰かの名を呼ぼうと口を開いたが、声にはならなかった。
「ふん」
鷹の目は鼻をならすと、ベッドを後にした。
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