出会い編01

「あー、悪ィんだけど、俺他に好きな人出来たから」







久し振りに電車を使う事になったシャンクスは、新幹線をホームで待っていた。

「お土産も買ったしな。時間わかんねェから指定は買わなかったが、座れるかな?」

新幹線のグリーン車に乗る余裕すらある男はこの日に限って、何となく自由席に座ろうと思ったのだった。

新幹線が入線し、止まる。

他の客に続けて乗り込んだ。

「あァ、やっぱ一人は無理か」

シャンクスはキョロキョロと辺りを見回して、女性一人が座っている席を見付けた。

「すみません、隣良いかな?」

シャンクスは声をかけてからしまったと思った。

「ぐす、どうぞ」

女性は声を殺して泣いていたのだ。

「失礼」

シャンクスは声をかけた手前、仕方無くそこに腰を下ろした。

女性はシャンクスに気を使う様に窓の方を向いた。
小さな音だが嗚咽が漏れていた。

車内アナウンスが到着時刻を知らせる。
チラリと時計を見ると、まだかなりの時間があった。

シャンクスは小さくため息をつくと目を閉じた。

目を閉じてしまうと、余計に隣の音が気になった。

辺りは既に席は埋まっていて、立ち客もチラホラ出始めていた。

(グリーン車に乗れば良かったか)

シャンクスはそう思いながらちらりと女の方を見た。

「…………」

静かに流れる涙も、必死に殺す声も、全てが何故か愛しく感じた。

(いや、意味が解らねェ)

シャンクスはそうとう疲れてるなと自分に言い聞かせ、目を閉じる。

だが、どうしても気になってしまう。

シャンクスは荷物とコートをその場に残し、席を立つ。





「これ」

「……?」

シャンクスは自動販売機で買ってきた水のペットボトルを女に渡す。

「目を冷やした方が良い」

シャンクスの言葉に女は驚いた。

「す、すみません……。すぐ、泣き止みますから」

うぅ、と小さく言いながら深呼吸をする。

「遠慮するな」

シャンクスは彼女の手に無理矢理ペットボトルを握らせた。

「……あ、ありがとうございます」

彼女は笑顔になりきらない顔で頭を下げた。

「何があった?」

シャンクスは自分の言葉に自分で驚いていた。
何故仕事で疲れた自分が知らない女の身の上話など聞かなくてはならないのか。

「……お話して楽しい内容じゃないです」

女はふるふると首を左右に振った。

「溜め込むよりマシだ。俺は終点まで乗ってて暇だからな。少しは役に立つんじゃないか?それに赤の他人の方が良いだろ」

安心させる様にシャンクスはにかりと笑った。

「…………さっき、付き合っていた人に振られてしまって」

女はポツリポツリと話し出した。

「ほぅ」

シャンクスは頷いた。

「あ、朝あって、その、ホテルに行って、お昼を食べて。そこで『他に好きな人が出来た』と」

「は?」

女の言葉にシャンクスは呆けた顔をした。

「え?ホテルって事はつまり、ヤってから別れを言われた?」

シャンクスは眉間にシワを寄せた。

「………………」

女はこくりと頷くと目からポロリと涙が溢れた。

「それは、ひでェな」

シャンクスは苦虫を噛んだ顔をする。

「わ、私は重過ぎると言われました」

小さな声だった。

「邪魔にならない様に彼の暇な時に会いに行って、彼の仕事の時はメールだけにして、あ、会いたいって言われたらこうして新幹線で」

「…………」

都合の良い女になっていたのかとシャンクスは腕を組んだ。

「わ、私はどこがダメだったのでしょうか?」

それはシャンクスに問いかけると言うよりも、自分自身に問いかけた言葉だった。

「いや、あんたは頑張ったんだろ?なら、男の方が見る目がなかったな」

シャンクスは真剣な目で女を見た。

「…………真面目そうな人だったのに」

女は項垂れていた。

「よし!えっと、悪ィ名前は?」

「…………やすです」

女ーーやすは素直に名乗った。

「やすさんな?俺はシャンクス。こうなったら、飲もう!すみません!」

ちょうど来ていた物品販売のアテンダントを呼ぶ。

「ビールとつまみを」

シャンクスはたくさん買い込むと金を払う。

「よし!飲むぞ!」

シャンクスは缶ビールを開けた。

「わ、私、ビールは」

「つべこべ言わず、飲め!」

シャンクスは強引にやすに缶ビールを持たせる。

「…………」

やすはしばらく缶を見ていたが、意を決してグイッと飲んだ。

「おっ!良い飲みっプリじゃねェか!つまみもあるからな!飲め!そんな男こっちから棄ててやれ!」

シャンクスはにかりと笑った。

「…………そうですよね、そうします!」

やすは缶ビールをグイグイと飲み続けた。

「あー、悪ィ。ハンカチとかないな」

シャンクスがごそごそとポケットをまさぐった。

「あ!すみません!大丈夫です」

やすは良く配っているポケットティッシュを取り出した。

「よし!なら、飲め!」

シャンクスはどんどん缶ビールを開けた。

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