03

「やす!こっち!」

沢山の人が行き交う中、やすは友人の姿を見付けて一安心した。

「久し振り!」

やすは嬉しそうに笑った。

「おー!綺麗になったね!やす!」

「え?本当に?」

やすは嬉しそうに笑う。

「新しい彼氏が良いのかしら?」

クスリと妖艶に笑った。

「か、カッコイイよ!優しいし!」

やすは顔を赤くして言う。

「あーあ、これはやっぱり無理ね」

「ん?何が?」

やすは不思議そうに友人にの言葉を聞く。

「ううん!さ!イタリアン行こ!」

「うん!」

2人は笑顔で近くの店に入っていく。




「今晩は!」

店の席にはすでに男が2人座っていた。

「……えっと、確か彼氏さん」

やすは男の一人を見た事があった。友人の彼氏だ。

「そう。それで、こいつは俺達と同じ会社」

彼氏がもう一人の男を紹介する。

「へぇ!じゃあ、赤髪なんですね!優秀なんですね」

「へ、へへ、まぁ」

やすの言葉に男は照れながら頷いた。

「とにかく、注文しよう!腹へった」

彼氏が店員を呼ぶ。

「お任せで頼むけど、やすは何かある?」

「あ!ワインはロゼで!」

友人の言葉にやすは答えた。



和やかに食事が終わり、席を立ち、店の外へ出る。

「じゃやすさんは俺が送るから」

男はにこりとやすに笑いかけた。

「え?」

「ほら、恋人同士の時間を邪魔したくないだろ?」

男は小声で言う。

「そっか。じゃあ、今日はご馳走様でした!またね!」

やすはにこりと笑った。

「え?大丈夫?」

友人が驚いて少し酔ったやすを見る。

「うん!また遊ぼうね!」

やすと男はその場から歩き出した。

「……大丈夫かしら」

友人が少し不安そうに言う。

「子供じゃないんだ。それに彼氏もいるしな。間違った事にはならないだろ」

彼氏が笑った。

「……あの子、押しに弱いと言うか、流されやすいって言うか」

友人は心配そうだ。









「…………」

まずいと思った時には既に遅く、やすはラブホテルが並ぶ繁華街を歩いていた。

「ねぇねぇ、どこが良いかな?」

酔った男はニヤニヤとやすの肩を抱いた。

「……私、帰りたいです」

やすは怖がりながら声を出す。

「何だっけ?町の工場で働いてるんだろ?」

男は低い声を出す。

「え?う、うん」

やすは頷いた。

「そんな男と一緒になっても将来心配じゃね?」

「か、彼氏は町の工場じゃない」

「うるせェな!」

完全に酔った男はやすの腰を強く引き寄せた。

「お前みたいな程度の低い女は黙って男に付いてくれば良いんだよ!!」

「っ!!」

そんな風に見られたのかとやすは悲しくなった。

「ほら、行くぞ!」

男はやすをホテルに連れ込もうと引いた。


「俺の女をどこへ連れて行く気だ?」

低い声にやすは驚いて顔をあげる。

「しゃ、社長?!!!」

やすが声を出すより先に男の驚く声が響いた。

「やすが程度の低い女だと?お前は人の何を見てる?外見か?それとも学歴?働いてる会社か?」

シャンクスの声は低く恐ろしいものだった。

「いえ、その、あの」

男は酔いが冷めたのか、顔面蒼白でやすから手を離し、後ずさった。

「行け。酒のせいにしてやるからやすの事は忘れて消えろ」

「す!すみませんでしたぁぁ!!!」

男は一目散に逃げ出した。

「はぁ、やすお前も」

「社長?」

シャンクスがため息混じりにやすを振り返ると呆然としたようにそう呟いた。

「あァ」

シャンクスが頷く。

「しゃ、シャンクスが、しゃ、社長?」

「あァ」

「どこの?」

やすの口の中はカラカラに乾いていた。

「赤髪」

シャンクスは事実だけを口にする。

「それが何だって言う」

「騙したの?」

シャンクスの言葉を遮る様に小さく声を出す。

「……」

「わ、私がなつくから楽しんでたの?」

「やす?」

シャンクスは眉間にシワを寄せる。

「私は流されやすくて、都合の良い女だから?」

「誰がそんなこと」

「だって!」

やすはポロリと涙を落とした。

「大会社の社長があんなワンルームのボロアパートにこんな女と一緒にいるなんて、思いもしないじゃない!」

やすは叫んだ。

「前も言ったが自分をそんなに安く見るな」

シャンクスは低い声を出した。

「っ!馬鹿にしてたの?やっぱり責任感じてただけなんでしょ?!貧乏ごっこは楽しかった?!」

やすは泣きながらくるりと踵を返した。

「やす!」

「さよなら!」

やすは走り出した。

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