02
「お!お頭今日も機嫌良さそうだな!」
ヤソップがニヤニヤと笑いかけて来た。
「まァな」
シャンクスは機嫌良く手を振る。
「やすって言ったっけ?」
「あァ」
「のめり込みやがって」
ヤソップがケラケラと笑う。
「仕方無いだろ。可愛いんだぞ!」
ふんっと鼻息を荒くするシャンクス。
「溺愛か!!」
ヤソップが笑いながら突っ込む。
「でも、あんたが『赤髪の社長』だって知らないんだろ?」
「お!ベック」
隣に並んだベックマンが言う。
「は?ベンそれ、本当か?」
ヤソップが驚く様に声を出す。
「あァ」
ベックマンが紫煙を吐き出した。
「なんだそれ!信じらんねェ!」
ヤソップが顔をしかめる。
「そうか?」
シャンクスが不思議そうに頭を傾げる。
「そりゃそうだ!お頭、早く言ってやれよ」
じゃあな!とヤソップは自分の仕事へと向かった。
「なぁ!頼むよ!」
そんな男の声が聞こえたのは給湯室の前を通りかかった時だ。
「やすは最近前の彼と別れて、彼氏が出来たって言ってたわ」
相手の女の声に思わず足を止めたシャンクス。
(同じ名前か、やす本人か)
本人だったら自分の事を友人に話してくれたのかと嬉しくなる。
「でもさ!俺一目惚れなんだよ!頼むよ!な?一回だけだから」
男はなおも食い下がる。
「……まぁ、頼むだけ頼んでみるわ。期待はしない事ね」
女はため息混じりに言う。
「恩に着る!」
男は嬉しそうにこちらへやって来る。
「っ!しゃ、社長!お疲れ様です!!」
男はシャンクスを見ると驚いた顔をして慌てて頭を下げた。
「あァ、お疲れさん」
シャンクスはしっかりと男の顔を見て薄く笑ってその場を後にした。
「かー!やっぱシャンクス社長カッコイイ!!」
男はシャンクスの後ろ姿を見送った。
「ねぇ!社長の彼女とか羨ましいわ!一晩でも、一回だけでも相手にしてくれないかしら?」
女は艶っぽい顔でシャンクスの後ろ姿を見送った。
その夜、やすの携帯電話が着信を知らせた。
「はい!あ!久し振り!」
やすが嬉しそうにその電話に出た。
それをシャンクスが横目に見る。
狭い部屋で2人並んでベッドに腰掛け、小さなテレビを見て寛いでいた。
「え?明日?」
やすは壁にかかるカレンダーに目をやる。
「えっと……特にないけど……」
やすはシャンクスに目を合わせる。
「どうした?」
シャンクスが声をかける。
「明日の夜なんだけど、友達が一緒に飲まないか?って。行って来ても良い?」
携帯電話を手で押さえて可愛らしくおねだりをする。
「…………良いよ、行っておいで」
シャンクスは穏やかでない内心を隠してにこりと笑った。
「うん!大丈夫!じゃあ、駅で!」
やすは嬉しそうに笑うと携帯電話を切った。
「どこに行くんだ?」
シャンクスは何の気なしに聞く。
「ん?駅の近くのイタリアンだって!ワインが美味しいって言ってた」
やすは嬉しそうにカレンダーに時間と場所を書いた。
これは彼女の癖で、手帳は持たず、カレンダーに色々と書き込むのだ。
「ふーん。友達ってどんな?」
シャンクスは無関心を装って聞く。
「えーっと、小学校から一緒で、頭良くて!美人で!凄いんだよ!あの赤髪に勤めてるんだよ!大会社!凄いよね!」
やすは目をキラキラさせてシャンクスに近付いた。
「赤髪が大会社?」
シャンクスがニヤリと笑った。
「え?シャンクス知らないの?」
やすはキョトンとする。
「……知ってるよ?」
シャンクスは少し困った顔をする。
「世界でもトップクラスだし!友達が言うには社長って人が凄いんだって」
「へェ……。どんな風に?」
シャンクスはやすを膝の上に乗せて髪を撫でる。
「友達がね、まだ社長としては若くて、カッコ良くて、お金持ちで、女の人が放っておかないって!」
「ふーん?」
「それにね……」
言おうとして押し黙る。
「なんだよ」
「な、何でもない」
「何でもない事ないだろ。言ってみな」
シャンクスはニヤリと笑う。
「ひ、一晩でもお相手して欲しいなぁーって言ってた」
顔を赤くしてやすは小さく言った。
「へェ。やすは?」
ぐっとシャンクスはやすを抱き締め、唇がギリギリ重ならない位置で止まる。
「わ、私?」
やすは間近で見るシャンクスの熱い視線にどぎまぎとする。
「あァ、仕事が出来て、金持ちで、カッコイイ?だっけか?そんな男が良いか?」
唇同士が付きそうで付かない。
シャンクスの息遣いにやすは体が熱くなる。
「う、ううん!シャンクス以上にカッコイイ人なんていないよ!」
やすは首を左右に振った。
「そうか?なら、ご褒美だ」
シャンクスはやすに口付けた。
「っは、やす」
「ん、しゃんく、す」
やすとシャンクスは崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
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