01
あれから4年。
ローとかなは一緒に暮らしていた。
「ただいまー!疲れたー!」
かなは靴を脱ぎ、部屋へ上がる。
「べポー!ただいまー!」
いつもならすぐに駆け付ける白猫ベポの姿はなかった。
「あれ?ローいたの?」
リビングにいたローを見て驚く。
ソファーに横になるローの腹の上にはベポが気持ち良さそうに寝ていた。
「俺の家だ。いちゃ悪ィか?」
ローはコーヒーを飲みながら不機嫌そうに言う。
「ううん。そうじゃなくて、珍しくて」
かなはふるふると首を左右に振る。
「……これから夜勤があるからまたとんぼ返りだ」
ローはため息混りにベポを撫でた。
「そっか。疲れてる?大丈夫?」
かなはローを気遣わしげに見る。
「大した事ねェよ」
ローは少し機嫌を直した様だ。
「良かった!あ!すぐ夕飯するよ!」
「時間ねェ」
「火入れるだけだから!」
かなは台所に入る。ちょうど炊飯器が炊き上がりの音を鳴らした。
「凄いタイミング!」
かなは鍋を火にかける。
炊き上がったご飯を軽くかき混ぜ、卵を冷蔵庫から出して小さなボールに割り入れる。
鍋が沸騰して来たところへ卵をときながら入れ、丼にご飯をよそる。
卵が半熟になり、それをご飯の上に乗せた。
「出来たよ!」
「…………なんだ、これ?」
ローは丼を覗き込み目を細めた。
「豚丼!」
かなはにこりと笑った。
「俺の目にはまた訳のわからないニンジンやらキノコやらが盛りだくさんに見えるんだが……」
ローは呆れ気味に言う。
「栄養あるでしょ?ローはいつも大変なんだから!」
かなは嬉しそうに笑った。
「…………そうか」
そこでローはテーブルに丼がひとつしかない事に気付いた。
「なァ、かなの分は?」
ローは不思議そうにした。
ベポはローの上から降り、毛繕いをしている。
「あぁ、明日ね。健康診断なの」
かなは「貴重な休みなのに!」と口を尖らせた。
「……一食抜かしたくらいで変わらねェよ」
ローが呆れた様に自称豚丼を口に運ぶ。
「明日の朝もだから2食だよ!」
かなはピースを作った。
「…………そうかよ」
ローはぱくぱくと食べ進める。
「終わった?洗っちゃう」
「あァ」
かなは丼を片付け熱いお茶を2人分用意した。
「はい」
「あァ」
かながふーふーと熱いお茶を冷ますように吹き掛ける。
「…………なァ」
「なに?」
ローを見るとニヤリと笑っていた。
「ヤるか?」
「………………いやいやいや、だから明日は健康診断」
「だからだ」
ローはニヤリと笑いかなの手を引いた。
急に手を引かれバランスを崩したせいでソファーに押し倒された。
「え?え?え!」
かなは慌ててローを押し返そうとする。
「騒ぐな」
ローはニヤリと笑うと口付ける。
「っん、は、ろ、やき、ん」
いきなりの激しさにかなはクラクラと流されそうになりながらも声を出そうと試みる。
「そう言う割にはエロい顔してるな」
「ばっ!」
ローの言葉にかなは顔を赤くして睨み付ける。
「いつになったら慣れるんだ」
「ローに?一生無理だよ!」
かなは負けじと笑った。
「ふ、可愛い奴」
ローはかなのブラウスのボタンを器用に外す。
「ちょっ!」
かなは慌てる。チラリと時計を確認すると出掛ける時間になる。
「ロー!本当に時間無いよ?」
かなはローの背中をバシバシと叩いた。
「あ?あァ」
ローは気にせず下着をたくし上げた。
「っあっ」
「そんな声出すな」
「っ!だっ、て!」
ローが胸に噛み付くように痕を残した。
「あー!痕なんて付けないでよ!明日健康診断って言ってるのに!!」
かなは非難がましく付けられた痕を擦る。
「どうせ見えない位置だ。気にするな」
「気にするよ!」
ローはさっさとかなの上から退くと出掛ける準備をする。
「ちゃんと風呂入れよ」
「入るよ」
ローは上着を着ると玄関へと向かう。
かなはベポを抱き上げてローの後に続いた。
「水分はまめに取れ」
ローのこの言葉は懐かしい響きがある。
「ふふ、分かってる」
かなは出会った頃を少し思い出した。
「じゃあ、行ってくる」
「あ!ロー!」
「なんだ?」
「忘れ物ですよー」
かながにこりと笑って自分の唇を指差す。
「……言ってて恥ずかしくないか?」
「失礼な!」
ローの言葉にかなが怒る。
「ほら」
ローはかなの頭を引き寄せると優しく口付けた。
「戸締まりしろ」
「はーい!」
「じゃあな」
ぱたんとドアが閉まった。
「気を付けてね、ロー」
かなは閉まったドアに手を振った。
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