02
「ただいまー!結局こんな時間になっちまった!」
シャンクスが帰って来たのは午後をとっくに回っていた。
本来なら休みで一緒に健診に行くつもりが休日出勤。
しかも、2時間程だと思ったら、午前中では終わらなかったのだ。
「ちー?何かあったのか?」
シャンクスがベッドにも入らずソファーにいたちーに話しかける。
「…………少し、疲れちゃって」
ちーは消え入りそうな声で答えた。
「そうか。寝てて良いんだぞ?気持ち悪いなら仕方ないからな!」
シャンクスはネクタイを指で外しながら言う。
「ううん。お昼まだ作ってないの」
ちーは立ち上がろうとするのをシャンクスが止めた。
「良いって!自分で作るよ」
シャンクスは「待ってな」と言うと台所へ消えた。
「出来たぞー!」
シャンクスはパスタの入った皿を持ってきた。
「トマトパスタなら食えるだろ?ハマってたろ?」
シャンクスは気遣う様にちーの前に湯気のたつパスタを置いた。
「…………いらない」
「そう言うなよ!ほら、フォーク」
シャンクスがちーの隣にしゃがむとフォークを差し出す。
「いらないってば!!!」
パシンっとちーはシャンクスの手を払った。
フォークが飛んで静かな部屋に転がる音が響いた。
「…………」
シャンクスが驚いた顔をする。
「……」
シャンクスが立ち上がり、フォークを拾う姿をちーは少し後悔した顔で見る。
「どうした?」
シャンクスが再びちーの隣にしゃがむ。
「……」
「言ってくれなきゃ解らない」
シャンクスは大きく息を吐いた。
「おい、ちー!どうし」
シャンクスがちーの肩を引いてこちらに振り向かせた。
ちーの目から大粒の涙がボロボロと流れていた。
「調子悪いのか?腹痛いのか?救急車呼ぶか?!」
おどおどとするシャンクス。
「シャンクス」
「ん?」
「わ、私……やっぱりシャンクスと別れた方が良い?」
泣きながらも声を出す。
「は?なんで?」
シャンクスはキョトンとする。
「……」
「ちー。言ってみろ」
シャンクスの低い声がちーを促す。
「あの時の人が、赤ちゃんが赤髪で」
ちーはボロボロと泣きながら口を開く。
「待て、わかるように!」
シャンクスに促され、ちーはポツポツと話し出した。
「あァ、母子手帳の女、な」
ちーの話を聞き終わるとシャンクスは眉間にシワを寄せた。
「……………………今ならまだ間に合うよ?」
「なにがだ?」
「…………まだ、安定期に入るま」
「何言ってる!!!」
シャンクスはちーの言葉を叫び声で遮った。
「俺はお前と付き合ってから他の女に手ェ出してねェって言ったろ?何で俺を信じねェ」
シャンクスは真剣に言う。
「でも」
「なんだよ?」
「赤かったの、髪」
ちーは不安に満ちた顔でシャンクスを見上げた。
「……私、この子産んで良いのかな?産んで育てられるかな?」
頑張って涙を我慢しようとするが、涙は止めどなく流れる。
「大丈夫だ。俺もちゃんといる」
シャンクスなゆっくりと声を出す。
「お前が不安に思う事なんて何ひとつもねェんだよ」
シャンクスはちーをぎゅっと抱き締める。
「…………」
「わかったのか?」
シャンクスの声にちーは頷く。
「ちゃんと声を出してくれ」
「……うん。シャンクスを信じるよ」
ちーはシャンクスの肩に顔を埋めた。
(……マタニティーブルーって奴か?いや、故意にやりやがったな、その女)
シャンクスは抱き締める手に力が籠る。
(ただでさえ悪阻で体調悪ィのに、飯まで食えなくなったら入院だぞ?離れてたまるか)
シャンクスはちーの首に鼻を付ける。
(…………ヤベェ……)
シャンクスはこんな時にもちーの匂いに反応する自分に苦笑した。
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