01
ちーは悪阻に苦しんでいた。
「食べたい物あるか?」
シャンクスはなるべく仕事を早く終え、ちーといる時間を長くしていた。
「……ううん。いらない」
ちーは首を左右に振った。
「そうか」
シャンクスはそっとちーの頭を撫でた。
いつものちーならその行為も嬉しいのだが、気持ちの悪い彼女には逆効果だった。
「…………」
しかし、ちーも何も言えず撫でられていた。
「風呂には入るだろ?洗ってくる」
シャンクスはその場から立ち上がる。
「…………シャンクス」
「ん?」
足を止めちーを振り返る。
「ありがとう。…………ごめんね」
ちーは自分の不甲斐なさに泣けて来ていた。
「良いんだよ。ちーは寝てな」
シャンクスはにかりと笑うと風呂場へと向かった。
普段悪阻と戦うちーの唯一の楽しみは健診の日だった。
まだ見えぬ我が子にエコーを通して会えるからだ。
たまたまその日はシャンクスが忙しく、産婦人科へちーを送ると仕事へと行く事になっていた。
「2時間位で終わるから、そしたらタクシーで帰っても良いし、俺が終わるまでそこの喫茶店にいても良い。連絡はくれよ?」
シャンクスはそうちーに念を押した。
「分かったから!後でね」
ちーはシャンクスの過保護ぶりに笑いながら手を振った。
シャンクスの車が見えなくなるまで見送ると産婦人科へと入る。
ここは予約が無いため、並んだ者順だった。
受付を済ませ、尿検査と血圧、体重を測り順番を待つ。
前には何人かがいた。
待合室に置いてあるた○ごクラブを読みながら順番を大人しく待つ。
名前が呼ばれ、看護師が腹囲と子宮底を図ると再び待合室で待つ。
悪阻対策にノンシュガーの飴玉を口に入れる。
再び名前が呼ばれ、今度は医師に健診を受ける。
エコーで子供の頭の大きさと大腿骨の長さでだいたいの体重を図ってもらい、順調とのお墨付きをいただいた。
何点か質問をして終わる。
支払いを終えて産婦人科を出ると一時間半が過ぎていた。
「時間かかるよね」
ちーは気分も良いし、タクシーが捕まるまで歩く事にした。
天気も良く、もうしぶんない。
ちーはシャンクスに帰る事だけをメールで伝えた。
前から女性がベビーカーを押しながらやって来た。
「あら!」
すれ違う時に女はにこりと笑った。
「ちーさんよね?お久し振り」
女はにこにこと笑った。
「…………」
ちーは嫌な汗をかいた。
(この人…………あの時の!)
それはちーが離婚を決意した原因になった母子手帳の女だった。
「見て!この子!父親似だと思わない?」
嬉しそうに笑うと女。
(私は結局この人の本当の旦那を知らないんだけど)
ちらりと子供を見て驚いた。
「…………あ、赤」
ちーは呆然と口を開いた。
「ね?見事な赤い髪でしょ?シャンクスにそっくり」
クスクスと女は笑った。
「あら、貴女も妊婦なのね?」
女はちーの鞄に付いた妊婦マークを見付けた。
「仲良くしましょう?同じ父親なんだしね」
クスリと女は妖艶に笑った。
ちーは会釈をするとその場から足早に立ち去った。
「クスクス。社長を独り占めするんだもの。これくらいされてもバチは当たらないわよね?」
女はちーの背をニヤリと見送った。
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