03

杏樹は一人でモビーディック号へと帰ってきた。

「一人?マルコは?」

見張り番だったらしいハルタが甲板から声が声をかける。

「さぁ、知りません」

杏樹は不機嫌さを隠しきれずに言った。

「えー?なんで?いつも一緒じゃん!なに?喧嘩?」

クスクスと笑うハルタ。

杏樹は縄ばしごを上りきる。

「別に私とマルコ隊長が何かある訳じゃないですし?」

「?」

杏樹の言葉にハルタはきょとんとした。

「え?だって、マルコと杏樹って、付き合ってるんでしょ?」

ハルタは不思議そうに首を傾げた。

「……さぁ」

杏樹はプイッとそっぽを向く。

「えー?じゃあ何で杏樹は海兵止めて海賊になったの?マルコに惚れたからでしょ?」

「……あの時はどうかしてたんじゃないですか?」

「……」

「あ!でも、今は親父さんの船に乗れて楽しいですよ!」

杏樹は慌ててにこりと笑った。

「ふーん?」

ハルタは納得いかない様子で頷いた。

「スミマセン。少し休みます」

杏樹はそれだけ言うと自分の部屋へと帰った。









杏樹の部屋はナースと同じ部屋だ。

「あれ?杏樹!どうしたの?」

やはり、真っ直ぐ自分の部屋に帰って来たのが珍しいのか、看護婦達は不思議そうに目を見開いた。

「何がですか?」

杏樹は少し不機嫌そうに聞き返す。

「えー!だって、停泊中はほとんどマルコ隊長と宿屋にいるじゃない!マルコ隊長が離さないって感じで!」

「戻って来るなんて珍しいわね!」

「しかも、一人で!」

キャッキャッと楽しそうに杏樹に椅子を進め、お茶を出す。

完全に杏樹の話をお茶のお供にしようとしていた。

「……いえ、あの、ここの島には以前も?」

杏樹は部屋の中央に置かれたテーブルにつき、お茶を受け取った。

「ん?そうよ!ずいぶん前だけど」

ナースの一人が考えながら声を出す。

「その時、マルコ隊長と酒場の女店主は?」

杏樹はずいっと聞いた。

「え?あぁ、あのケバい女ね」

クスクスとナース達が笑った。

「男受けする顔だけど、性格がねぇ」

「マルコ隊長もずいぶん言い寄られてたわよね!」

「その前はイゾウ隊長」

「そうそう!イゾウ隊長は毒舌だし、相手にしてなかったから、すぐに諦めてたけど」

ナース達は楽しそうに口を開く。

「で?どうしたの?」

「あの女とマルコ隊長が何かあったの?」

「…………」

ナースの質問に杏樹は黙る。

「言っちゃいなさいよ!」

「不満があるなら、ここで吐き出しちゃいなさい!」

「そうよ?お腹に溜めておくなんて健康に悪いわ!」

ナース達は心配そうに言う。

「わ、私……」










「えー!マルコ隊長が?」

ぱりぽりと煎餅を頬張る音が響く。

「ないでしょ」

「だって!」

「杏樹が来てからマルコ隊長他の子に手出してないもの」

ナースはお茶をすすった。

「前は本当に一夜限りなんて多かったし」

「一夜すら長いんじゃない?数時間よ」

ケラケラと笑うナース達。

「あんなにいつも一緒にいるのに気付かないの?」

「マルコ隊長は貴女にぞっこんよ」

「でも……なら、一体……」

杏樹は服をぎゅっと掴んだ。

「確かめてみなさいよ!マルコ隊長に!」

「問い詰めてやりなさい!」

「……」

「ほら!行く!」

ナース達に無理矢理立たされ、杏樹は部屋を追い出された。

「「「じゃ、マルコ隊長に宜しくー!」」」

パタンと部屋のドアが閉まった。

「…………そうね。行くか」

杏樹は覚悟を決めて歩き出した。











「で、どうなると思う?」

「杏樹の勘違いだと思う」

「案外本当に手とか出してたりして!」

「えー!なら、修羅場?!」

「マルコ隊長杏樹を連れてきた時は良い趣味だと思ったけどなぁ」

「あの女なら私いじめちゃう!」

「私もー!」

「「「あははははは!」」」

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