02

「うわぁ!」

マルコに遅れて甲板へ出ると、既にたくさんのクルー達が到着を今か今かと待っていた。

島はもうすぐ近くで、大きさはまぁまぁ。

この島には前に来た事のある、白髭海賊団の縄張りだ。

「じゃあ、各々仕事をしてからが自由だ。気を抜くんじゃねェよい」

「「「おぉ!!!!」」」

マルコの一声でクルー達は慌ただしく動き出す。

「んじゃ、俺達も動くよい」

「「「おう!」」」

今回の1番隊の役目は夜の宴用の場所確保。

ただ、既に目星は付けている様で、マルコに付いて行くだけだ。










「よう、邪魔するぜい」

マルコは声をかけながら大きな酒場へと入る。

「っ!!マルコさん!来てくれたのね!」

そこには美しい美人女店主がいた。

「急で悪いが、今夜ここで呑みたいんだが」

マルコはいつもと変わらない調子で美人女店主に言う。

「もちろん!白髭の親父様のご一行なら喜んで」

にこりと妖艶に笑う。

「助かるよい」

マルコが言うと、女はそっとマルコに抱き付いた。

「ねぇ、これからお暇かしら?」

女店主の妖艶さに、抱き付かれていない男達はだらしない顔をした。

「悪いが、先約だい」

マルコはやんわりと抱き付く腕をほどいた。

「あら、残念」

女店主はマルコの耳に色っぽい唇を寄せて「今夜ね」と笑った。








「何をむくれてやがる?」

宴の場所も確保出来、1番隊は各々好きな時間を過ごしていた。

「別に?何でもありせんけど」

マルコの声に杏樹は答える。
だが、何でもないと言う顔はしていない。

「そうかよい」

マルコはそれだけ言った。

「先約があるんじゃないんですか?」

「あァ?」

「行かなくて良いんですか?」

首の後ろに手をついていたマルコを杏樹が不機嫌そうに見上げる。

「少し散策をと思ったが」

「へ?」

がしりとマルコの大きな手が杏樹の細い腕を掴んだ。

「さっそくとは、お前もお盛んだねい」

ニヤリと笑うマルコの顔がとても悪く見えた。









夜、先程の酒場へと行くと、既に宴は始まっていた。

「出遅れた!」

杏樹は疲れた体を押して、やっとここまでたどり着いたのだ。

酒場入りきょろりと見回すと、マルコの隣にはあの美人女店主がいた。

「……」

杏樹はズキリと胸が痛くなる。

動くのがつらい杏樹を宿屋に残し、自分はさっさと行ってしまったのだ。
確かにマルコは今回の宴の責任者ではあるが、杏樹には美人女店主に会うためにだとしか思えなかった。

杏樹はマルコの逆側の椅子にちょこんと座った。

「お!杏樹!遅かったな」

サッチがニヤリと笑った。

「誰かさんのせいで」

杏樹は酒を受け取るとグイッと流し込んだ。

「そいつは、まァ、羨ましいなァ」

わざと言葉を切りながらサッチはマルコにニヤニヤと笑った。

「マルコさん。ラム酒もっと飲む?」

妖艶に笑う女店主がマルコに酒を進めた。

「あァ」

マルコはグラスを空にして渡した。

必要以上にべったりと体を寄り添っていて、杏樹は不愉快になっていた。













気が付くと杏樹は他のクルーと共に宴の後のまま机に突っ伏して寝ていた。

「……あれ?マルコ隊長?」

いつもなら必ず起こすか、部屋に運んでくれるマルコの姿は無かった。

「…………」

おかしいと思い、杏樹は静かに立ち上がると酒場の奥へと足を忍ばせた。

「……あ、」

微かに、それは微かにたが、女の艶っぽい声だった。
まるで、事情の時のような。

「……」

杏樹は意を決してドアに耳を付けた。

「んあ!ま、マルコ、さん」

「っ?!!」

杏樹は思わず叫びそうになる口を手で塞いだ。冷や汗が背中を流れる。

「いい加減にしろい」

明らかに怒るマルコの声。

「ふふ、可愛いのね、ん!」

「とっととイけよい」

艶やかな女の声と、低い男の声。

杏樹はその場から逃げ出した。










杏樹の愛した青い炎はそこには無かった。

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