01

杏樹が白髭の船に乗って半年が経つ。

初めこそ、1番隊隊長不死鳥マルコに拐われる様にこの船に乗ったが、今ではすっかり白髭海賊団の一員になっていた。

元海兵で、初めてグランドラインに入った時に乗っていた船をマルコに沈められているのだ。
その相手が今は自分の恋人の様なものになっている。
人生とは不思議なものだった。


「っま、まって」

「この状況で待てとは相変わらず酷ェ女だよい」

自分のベッドは与えられていたが、夜に一度も寝た事はなかった。

「な、なら、ん、少しは、優しく、して、下さい」

途切れ途切れに繰り出される言葉にマルコは熱を増すばかりだ。

「なら、そんなに俺を煽るなよい」

マルコはにやりと笑った。

「俺は海賊だからな。海賊は欲しいもんを奪うだけだよい」








「おはようございます」

朝食を取らないマルコを放って杏樹は食堂へやって来た。
とは言ってもいつも朝食の時間には起きられず、ブランチの時間になってしまう。

それに文句を言う者は誰もいなかった。

何故なら杏樹はマルコの女だと誰もが知っていたからだ。


「お!杏樹ちゃんおはよ!」

「サッチ隊長」

キッチンから4番隊隊長のサッチがにかりと笑った。

「すみません。何か食べる物貰えますか?」

気まずそうに言うが、誰も彼女をとがめたりしない。

「おゥ!もちろん!今朝はクロワッサンにスクランブルエッグのフルーツ添えだぜ!」

サッチは手早く美しい朝食を杏樹の前に出した。

「ありがとうございます!良い匂い!」

「召し上がれ!」

「いただきます!」

杏樹は丁寧に手を合わせるとフォークでスクランブルエッグをすくった。

「んー!美味しいー!!サッチ隊長天才です!!」

杏樹は嬉しそうに頬を手で押さえて笑った。

「だろー?俺様天才だろー?!」

サッチは嬉しそうに鼻を鳴らした。

「はい!もー!大天才です!!!」

杏樹は素直にサッチを囃し立てた。

「もーさ、杏樹ちゃんマルコなんか辞めて俺にすれば?毎日美味しい物君のためだけに作るぜ?」

サッチはずいっとカウンター越しに体を近付けた。

「ふふ、ありがとうございます」

杏樹はクスクスと笑ってクロワッサンを口に運んだ。

「サクサク!もちもち!サッチ隊長天才過ぎ!!!」

「ハッハッハッ!もっと褒めて良いぜ!」

「サッチ隊長男前!紅茶お代わり下さい!」

「よしきた!」

サッチは言われるまま紅茶をポットから注いだ。

「そういや、そろそろ島に着くらしいぜ」

サッチが自分の珈琲を持ち上げた。

「そうなんですか」

杏樹はいれたての熱い紅茶にふーと息を吹き掛けた。

「久しぶりの島だ!やっと女をぐふふ」

「サッチ隊長がおモテにならない理由を垣間見ました!」

「あのな?杏樹ちゃん。男ってもんは常に新しい出会いを欲する生き物なの」

サッチは力説する。

「わかるか?マルコだってな、そりゃ!」


ーーズガーン


サッチの元に弾丸が撃ち込まれる。

「さ、サッチ隊長!!」

「だ、大丈夫、大丈夫」

ギリギリで避けたらしいサッチは顔を青くして倒れていた。

「チッ、やっぱり銃は苦手だよい」

マルコが舌打ちをしながら現れた。

「ま、マルコ隊長……」

杏樹は恐る恐るマルコを振り返る。

「島に着く。獲物を手離すなよい」

マルコは杏樹に彼女の愛銃を握らせた。

「は、はい」

「行くぞ」

「はい!」

マルコの後を杏樹がついていく。

「あ、サッチ隊長!ご馳走さまでしたー」

まだ倒れているサッチに杏樹は手を振った。



「杏樹」

「はい?」

「あいつと2人で会うな」

マルコの低い声が船内に響いた。

「あいつって、サッチ隊長ですか?」

「……サッチが言う事も気にするな」

「…………マルコ隊長」

杏樹は言葉を切った。

「嫉妬ですか?」

「……」

「っ!」

杏樹の言葉に、無言のマルコが杏樹を壁に押し付けた。

「っく!」

マルコが杏樹の襟元を無理矢理引っ張り、鎖骨辺りに噛みつく。

「お前は俺の女だ。他の誰であろうとお前を奪わせない」

鋭い目付きに間近で睨まれながらも、杏樹の胸は高鳴った。

「お前は俺を信じれば良いんだよい」

いつもの眠そうな目に戻ると、マルコは甲板へ続く道を歩き出した。

どくどくと脈打つ体を抑えようと杏樹はその場へ座り込んだ。

「なら、言葉くらいくれれば良いのに」

杏樹は未だにマルコから「好きだ」とか「愛してる」などの言葉を言われてはいなかった。

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