01
「ちょっと良いかな?」
声をかけられて振り返ると立派なお髭の男が立っていた。
「あ、はい」
少し強面の男にびっくりしながらもくるとんはしっかりと頷いた。
雰囲気が何故か良いなと思ったのだ。
「悪いんだけど、ここの大学知ってるかい?」
渡された紙を見るとそこはくるとんも通う大学だ。
「ここなら私の通う大学です。今から行きますが、宜しければご案内しましょうか?」
「え?良いのか?」
くるとんの申し出に驚きながら聞く。
「はい!もちろん」
「そうか!それは助かる。おーい!ルージュ!!」
男はにかりと笑いながら手招きをした。
「どう?ロジャー。道解った?」
道の端にある地図を真剣に見ていた女性がととと、と近付いて来た。
「あァ!このお嬢さんが案内してくれると!」
男ーーロジャーはくるとんを見てにかりと笑った。
「まァ!ありがとう!」
女ーールージュもにこりと笑った。
「いいえ!では、こちらです」
(親子かな?あ!娘さんの学校見学?!なら、先輩としてしっかり案内しなくちゃね!)
くるとんは心の中で気合いを入れると案内を始めた。
「駅からは遠いの?」
ルージュは少しウェーブのかかった長い髪を揺らしながら聞いた。
「そうですね、歩きで15分程です」
くるとんはなるべく簡単な道を行く。
(ふわふわの美少女だなぁ。守ってあげたくなっちゃう)
くるとんのルージュに対する感想だ。
「大学は車通学はあるのか?」
今度はロジャーが聞く。
「いえ、学生用駐車場はありません。でも、自転車とかバイク通学してる人は多いです」
(エースはバイクだし、確かペンギンくんとシャチくんはマウンテンバイクだったなぁ)
くるとんは思い出したがら言う。
「そうだわ!前にバイク買ったって言ってたし」
ルージュは嬉しそうにロジャーを見上げた。
「確かにそんな事言ってたな」
ロジャーもうんうんと頷いた。
(誰か知り合いが行ってるのかしら?)
くるとんは2人の会話には入らない様にした。
「ねェ、ここら辺には美味しいお店もあるの?」
ルージュがうきうきと目を輝かせる。
「そうですね。学生街って言うのもあって、安くて量の多い所が多いですね。学校向こうのラーメン屋さんはサーカス見たいで可愛いですよ!あ、あそこ」
くるとんが指をさす先はオシャレなカフェがあった。
ロジャーとルージュは2人揃ってそちらを向く。
「あそこは女子に人気のカフェで、デートにも最適です」
くるとんがにこりと笑う。
「あら!可愛い!ロジャー、後で行きましょう!」
「そうだな」
親子の様な外見で恋人のようだとくるとんは思った。
「貴方も使ったの?デートで」
ルージュがにこりと笑った。
「『量が少ねェ』と言われただけでした」
「まァ!」
2人はクスクスと笑った。
「後は、あそこの居酒屋が」
くるとんは2人を飽きさせない様にと大学までの道のりを案内した。
「ありがとう。お陰で助かった!」
大学に着いて、ロジャーがにかりと笑った。
「いえ!お役に立てて良かったです」
くるとんも嬉しそうに笑った。
「本当にありがとう!楽しかったわ!」
ルージュも嬉しそうに笑った。
「はい!私も!それでは私は授業がありますので、ここで失礼させて頂きます」
くるとんは丁寧に頭を下げた。
「…………立派な髭に、ウェーブの長い髪……ねェ……」
学食で待ち合わせをしていたエースに今朝の事を話したのだ。
「うん!何か、楽しかった」
くるとんはにこにこと楽しそうに笑った。
だが、エースは浮かぬ顔だ。
「くるとん、今日は休講だっつったな?」
「え?うん」
「よし。大学から出るぞ」
エースは荷物を肩にかけると席を立つ。
「どうしたの?今日は用がないからゆっくりするんじゃなかったの?それにエースは午後講義ひとつあるでしょ?」
くるとんは不思議そうにしながらも席を立つ。
「それどころじゃねェ。とにかく今日は家にも帰れねェな」
エースは嫌そうにくるとんの手を取る。
「あ!エースさっき話してた人だ!」
学食の入り口を見ると先ほどの2人がいた。
「げ」
エースは、それはそれは物凄く嫌そうな顔をした。
「「あ!」」
2人はこちらを見て声をあげた。
「っ、行くぞ!」
「え?!」
エースがぐんっとくるとんの手を引いて走り出した。
「あ!待て!」
ロジャーが声をあげる。
「ロジャー!頑張って!」
後ろから可愛らしいルージュの声がした。
「な、どうしたの?!エース!」
前を走るエースに声をかける。
「捕まったら終わりだ」
なにがと聞こうとすると、
「待てぇぇぇ!逃げるなぁァァァ!!!」
ドドドドドと凄まじい速さでロジャーが追いかけて来た。
「えぇぇぇ?!」
くるとんはあまりにも怖いロジャーの勢いに驚いた。
「くそ!」
「わっ!!」
エースはくるとんの足を素早く蹴り、その反動を利用して横抱きにした。
「エース!止まれ!」
ロジャーが叫ぶ。
「エースの知り合い?」
「…………」
ロジャーの声にもくるとんの声にもエースは黙ったままだ。
「っ!しめた!シャチ!ペンギン!!」
エースは前方にいる2人を見付けた。
「よう!エース!」
「何してる?」
シャチとペンギンがくるとんを抱えたまま物凄い速さで走るエースを不思議そうにみる。
「悪ィ!追われてる!」
「は?」
「え?」
エースは素早い動きでシャチとペンギンをロジャーの前に差し出す。
「邪魔するなぁァァ!!!」
ロジャーはシャチとペンギンへ向かう。
シャチとペンギンもロジャーの気迫に腰を落として応戦しようと構える。
だが、ひょいっと、それは本当に軽々と2人まとめて放り投げた。
「「っ!!」」
投げられた2人は訳がわからず受け身もせずにそのまま垣根に突っ込んだ。
「ちっ、やっぱあいつらじゃダメか」
エースはちらりと後ろの様子を見る。
「え?強っ!!!」
くるとんは驚いて声を出した。
「キャー!ロジャーカッコイイ!!」
ルージュの声にロジャーは手を振って答える余裕を見せた。
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