07
一度帰る事になり、○○は自分の部屋へと帰ってきた。
「……はぁ、良かった」
大切な親友。
何故か突然いなくなり、旦那と名乗る大男が現れ、彼女の両親は亡くなり、○○は一人ぼっちになったのだ。
「大丈夫だって!俺様が一緒にいてやるって言ってるだろ!」
「…………うん」
「そんな顔するなよ。女友達はいつか結婚したら離れるんだぞ?だけどな、彼氏は旦那になって一生一緒にいるんだぞ!」
「…………そうなるのは一握りだよ」
「お前、相変わらず冷めてんな」
「別に冷めてる訳じゃない。ただ、愛情なんて解んない」
「だーかーらー!俺が与えてるでしょ?」
「………………」
「何で無言?!」
「…………ばーか」
「お前っ!馬鹿ってなに?!この色男捕まえて!」
「どこ?色男?」
「このがきゃあ!こうしてくれる!」
「え?いや!くすぐった!あはははははははは!!」
「よし!そうやって笑ってろ!幸せなんてのは、笑ってたら向こうから来るんだよ!」
「…………うん」
○○は目を覚ました。ずいぶんと懐かしい夢を見た。
まだ白髭の傘下に勤めていて、彼氏と付き合い始めた頃の事。
あの頃はまだ荒んでいたが、ずいぶんと丸くなったものだ。
○○は時計を確認する。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
○○は重い腰を上げた。
夕方と言う時間帯。
人が大勢歩いてある。
「えっとー、住所はこの辺なんだけどなぁ」
○○はキョロキョロと携帯電話の地図と近くの地形とを見比べながら歩く。
「うわっ。スミマセン」
よそ見をしていたら曲がり角で人にぶつかってしまった。
「ごめんよい、…………って○○かい?」
「え?マルコさん!」
聞き覚えのある語尾に顔を上げるとそこには白髭のマルコがいた。
「お、○○じゃねェか。久し振りだなァ」
「イゾウさんも」
驚きつつ見回すと隊長と呼ばれる白髭の幹部たちが数名いた。
「元気だったか?サッチの野郎が探してたぞ?」
“サッチ”と言う名前にビクリと体が震えるのを感じた。
「あ、あの、その」
「○○さー!ずいぶん変わったね!化粧とか?」
ハルタが無邪気に言う。
「そ、そうですか?」
「そうですか?って、他人行儀!」
ケラケラとハルタが笑う。
「暇ならこれから飲みに行くところだ。一緒に行くか?」
ジョズが店のある方を指差す。
「いえ、これから友達の所に行くんです」
スミマセンと○○は断りを入れる。
「そうかよい。サッチが残念がるねい」
マルコは煙草をくわえる。
「…………サッチにも宜しく伝えて下さい」
○○は頭を下げた。
「あァ、ひき止めてわるかったなァ」
イゾウが妖艶に笑う。
「いえ」
○○は頭を軽く振った。
「白髭辞めてもお前の場合は家族だからな」
ビスタが髭を撫でた。
「あ、ありがとう、ございます」
○○は溢れだしそうな感情を押し殺してその場を離れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
○○は離れた路地でしゃがみ込んだ。
自分勝手に辞めた会社。
中学を卒業したと同時に働いていた会社。
本物の家族みたいに接してくれた人達。
「う、うー」
出来れば戻りたい。戻れない。
そんな感情が溢れてしまった。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「っ!!!」
いつも近くで聞いていた声が後ろからした。
「え?気分悪いの?大丈夫?」
その声に首を激しく左右に振った。
「ちょっ、本当に平気?」
その声はいつの間にか近くにしゃがみ込んできた。
「っ!」
「…………○○…………?」
「…………サ、ッチ」
サッチが○○を確認すると驚きに固まった。
「どうした?調子悪いのか?」
言いたい事を全て押し殺してサッチは○○の肩に手を置いた。
「だいじょうぶ」
○○は頭を下げた。
「……大丈夫じゃねェ声出しやがって!……何だこれ」
サッチが○○の手に付いた痣を見付ける。
「これが痛いのか?」
「ううん、違」
○○は涙を止めて頭を振った。
「なんだ、お前変な男に引っ掛かったのか?」
サッチが少し怒った様に声を出す。
「良いから戻って来い」
サッチが低い声で言った。
「っ!!戻らない!」
○○は立ち上がり、キッとサッチを睨み付けた。
「お前な、いつまで拗ねて」
「□□?」
「あ……」
サッチの言葉に被せる様に低い声が後ろから聞こえた。
「なかなか来ないからな。心配してたぞ」
サッチを無視する様にベックマンが声を出してきた。
「す、スミマセン」
○○は涙を流したままの情けない顔でベックマンに謝る。
ベックマンは状況を把握しようと煙草をくわえた。
「誰かと思ったら赤髪んとこの副社長じゃねェか!…………お前か?これ」
サッチがベックマンを睨み付ける様に立ち上がり、○○の痣の付いた腕を掲げた。
「ちょっと、止めてよ」
○○が腕を引こうと暴れるがびくともしなかった。
「…………なるほどな」
ベックマンは小さく呟いた。
何だろうと○○が思っているとベックマンが一瞬近付いて本当に小さな声で「助けて欲しいか」と聞いてきた。
○○はベックマンを驚いた顔で見上げてからコクンと頷いた。
「行くぞ」
ベックマンが○○の肩を抱いて連れていこうとする。
「待て、待て!」
サッチがベックマンの肩を手で掴む。
「何か用か?」
ベックマンが○○を自分の陰に隠すように振り返る。
「用か?じゃねェよ。お前、なんなの?今俺が○○と話してたんだろ?」
サッチが不機嫌さを押し出して言う。
「こいつはお前と話したく無いとよ」
ベックマンがニヤリと笑う。
「お前は○○の何なの?」
サッチが噛み付く様に声出す。
「先週俺の家に泊まったな」
ベックマンがしれっと言う。
(……確かに)
サッチにちらりと見られた○○はコクンと頷いた。
「チッ」
サッチがイライラと舌打ちをした。
「行くぞ」
ベックマンが○○を促して歩き出した。
2人の背中が見えなくなるまでサッチはそこにいた。
「おう、サッチ遅かったな」
「……おう」
「何だ?偉く沈んでるじゃねェか」
「まァな」
「そう言や、さっき○○に会ったぞ」
「…………俺も」
「「「それでか」」」
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