03

「う……痛い……」

○○は痛みで目を覚ました。
自分の酒臭さに昨日の飲み会を思い出す。

「そっか、昨日は会社の飲み会で……」

痛い頭を抱えながら上半身を起こした。

「臭っ…………」

もわっと香る煙草臭さに思わず呟いた。

「…………」

そこから痛む頭で考え始める。


ーー昨日の記憶がない。

え?どうやって帰って来たっけ?

何で煙草の臭いがするの?


「……服」

スーツのまま眠ったらしく、シワになっていた。


ーー何で、スーツのまま?


混乱しきった頭でぐるぐると想いを巡らせた。

少し冷静さを取り戻そうと今自分のいる部屋を見回した。

「…………知らない」

広い部屋、所狭しと並んだ大きな本棚には入りきらなくなった本が向きを横にして無理矢理詰め込まれていた。

ベッドサイドには灰皿、煙草のカートン、マッチ。

「…………」

○○は痛む頭を動かして自分の体を探る。
服はキチンと着ていて乱れた様子もなく、下着もずれていない。
念のため覗いたゴミ箱も特に特徴のあるゴミはなかった。

ホッとしながらも次に考えるのは「ここは誰の部屋か?」である。

難しそうな本や煙草が置いてある時点で、別れた彼氏ではない事はすぐにわかる。


ーーじゃあ、一体…………。


○○は眉間にシワを寄せながら考えるが答えは出ない。

「まさか、あのセクハラじじいじゃないわよね」

それは最悪パターンだと思いながら否定する。



ーーガタン


隣の部屋から物音がし始め、○○の体がびくりと震える。

誰もいないのが最善のパターンだったが、やはりそれもあり得なかった。

腕時計を確認すると8時半。

今日は仕事も休みだと確認する。

「……ここでこうしてても仕方無い。……行くか」

○○は意を決してベッドから立ち上がる。






「起きたか」

静かにドアを開け様子を伺おうとしたら、低い声に声をかけられた。

「ふ、副社長…………」

色々考えた人物をことごとく破り、一度も想像しなかった相手がそこにいた。

「お前が酔ってトイレに籠城していたからな。タクシーでも起きなかったから連れて来た」

ベックマンは椅子に座りながら新聞をばさりと捲った。

「っ!!す、スミマセン!!ご迷惑をおかけしました!!!」

○○は自分の失態を直ぐ様理解すると慌てて頭を下げた。

「お前は俺のベッドを使っただけだ」

ベックマンは煙草を吹かした。

「す、スミマセン。…………えっと、それでは私は……これで」

○○は逃げようと荷物を抱える。

「……………………その顔でか?」

ベックマンは新聞を膝の上に置くと○○の顔を見た。

「え?」

「バスルームはそっちだ」

「……ま、まさか」

「バスタオルもある。適当に使って構わない」

「っ!!お、お借りします!!」

ベックマンの言葉に○○は慌ててバスルームへと飛び込んだ。

ベックマンが後ろで楽しそうな笑い声をあげたのも知らずに。





「うわ、酷い顔……」

大きな洗面台の鏡で見ると、化粧が崩れ、アルコールのせいでむくんだ酷い顔をした自分が映った。

好きに使って良いと言われたが、さすがにシャワーを使うのは気が引けた。


スーツの上着を脱いでワイシャツを腕捲りする。
お湯を出させてもらう間に持ち歩いている化粧ポーチから試供品の化粧落としと洗顔クリームを出す。

「こう言う時に試供品って役立つわね」

○○は丁寧に化粧を落とすと洗顔をし、化粧水や乳液もたっぷりとする。

「……あれ?」

化粧もしてしまおうと思ったが、下地クリームがない。


先程の部屋に落としたのだろうか?

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