エピローグ
シャンクスは倒れた○○を●●に任せて会社に戻ってきていた。
あまりにも早い足取りに周りの者は声もかけられずに、その威圧感に一歩退いた。
ばたんと勢いよく幹部室の扉を開く。
「おう!お頭!どこ行ってたんだよ?」
ヤソップがシャンクスを見て口を開く。
「ちょっとな。おい、ベック」
シャンクスはヤソップに適当に答えると煙草の吸い殻を山にしたベックマンに顔を向ける。
こりゃいかんと思ったヤソップだったが、逃げ道をシャンクスが塞いでいたので大人しくデスクに座ったままにした。
「何だ」
ベックマンは紫煙を吐き出しながら言う。
「何だじゃねェだろ。○○さんの事だ」
シャンクスは苛立たし気に声を出した。
「あァ、その事か。あいつの事ならクビにする」
「は?意味が解らねェ」
ベックマンの言葉に驚いたのはヤソップだった。
「あいつは白ひげのスパイだった。ただ、それだけの事だ」
ベックマンは無感情に言葉を紡ぐ。
「それだけの割りには煙草吸うの速ェんじゃねェか?」
シャンクスは侮蔑を込めてベックマンを見る。
「それはそうだろう」
ベックマンは吸い殻を満杯の灰皿に突き刺した。
「お前、○○さんの事好きだったんだろ?なら」
シャンクスは不機嫌さを押し出して聞く。
「もちろんだ。まァそれも向こうの思惑通りだったんだろう」
「お前は!何で信じない?」
シャンクスは自分より長身のベックマンの胸ぐらを掴んだ。
「……恋心と言う奴は厄介だ。相手の全てを信じたくなる」
「良いじゃねェか!」
「それで?気付いた時には全てが終わり。お人好しの集まりみてェなこの会社だ。武力行使じゃ通用しねェ相手もいる。なら、誰かがやらなきゃいけねェ時もある」
「で?テメェが汚れ役ってか?愛した女一人守りきれねェで良くもそんな事が言えたな」
ベックマンはシャンクスの手を弾いて距離をおく。
「女一人に狂わされて会社潰しても良いのか?」
ベックマンはシャンクスを睨むように低い声を出した。
「っ!」
シャンクスは小さく諦めたように息を吐いた。それにベックマンの肩の緊張が緩む。
シャンクスはワンステップで思いきりベックマンの顔を殴った。
「上等だ!!潰してみろってんだ!!それくらい出来ねェ男に●●の親友を渡せるか!!!」
シャンクスは声を有らん限り張り上げた。
「っ!」
ベックマンは油断していたせいで口の中を切ったらしく、血を吐き出した。
「お前指輪も用意してあるんだろ?だったらぶつかってこい。俺の知ってるベン・ベックマンはカッコイイ男だ!惚れた女の話を聞いてちゃんと理解できる男だ!今のテメェはただの弱虫だろ?そんな奴に俺の会社が潰される訳がねェ!!!」
シャンクスはベックマンのスーツのポケットを指差しながら叫んだ。
「…………」
ベックマンはスーツの上からポケットを確認した。
「…………お頭」
「なんだよ」
「テメェに言われるとムカつくな」
「あァ?!」
シャンクスは思いきりベックマンを睨む。
「悪いが用ができた」
ベックマンはしっかりと声を出した。
「仕方ねェから送ってやるよ。そんな顔じゃ運転も出来ねェだろ。ヤソップ」
「あ、あァ。何だ」
急に振られて慌てて返事をするヤソップ。
「後は任せた」
「あァ。早く行ってやれ」
ヤソップはにやりとベックマンを見た。
「…………悪いな、ヤソップ」
ベックマンはそうしてシャンクスと共にマンションへ向かったのだ。
次の日、●●と別れた○○はベックマンの家に来ていた。
「何か飲む物を用意する」
ベックマンはそう言うとキッチンへ入って行った。
数分して珈琲を持ってベックマンが居間に来た。
「……ありがとうございます」
受け取った○○の左手の薬指にはベックマンが渡した指輪が輝いていた。
「ひとつ聞きたいのですが」
○○は珈琲を一口飲んでからベックマンを見た。
「何だ?」
「あの、私が寝てしまった時、何でここじゃなくてホテルだったんですか?」
ベックマンの家ではなく外だった事をサッチが知った時「優しくされてるのか?」と言うのが気になっていたのだ。
「……ここだとお手軽に見られるかと思ってな」
ベックマンが煙草を吹かした。
「…………なるほど」
○○はホッとしながら頷いた。
優しくされていなかった訳ではなかったのだ。
「他には?」
ベックマンが○○を促す。
「……副社長は私の事が好きと言う事で宜しいでしょうか?」
○○は難しい顔で聞く。
「あァ」
ベックマンが真剣に頷いた。
「結婚前提のお付き合いで宜しいですか?」
○○は同じ顔のまま聞く。
「……あァ」
ベックマンもはやり真剣なまま頷いた。
「そうですか」
○○は少し考え込む。
「あの」
「なんだ?」
「我が儘を言っても良いですか?」
○○は美しい顔で口を開く。
「あァ」
「今聞いた事を副社長の言葉で聞きたいです」
○○はベックマンを笑顔で見つめた。
「……」
ベックマンは咳払いをひとつした。
「好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい」
ベックマンはまっすぐ○○を見つめ返した。
「こちらこそ、宜しくお願いいたします」
○○は美しい笑顔でそれに答えた。
これからは永久の素敵な時間を
貴方と2人で
「ところで、いつまで副社長なんだ?」
「ふふ、副社長が副社長でなくなるまで」
「…………そうか」
「ええ」
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