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「あ、シャンクスだ。迎えに行ってくる!」
携帯が鳴り、●●が玄関へ向かう。
泊まって行けと言われたが、それは申し訳無いと○○は帰る準備をする。
因みに●●の旅行支度は整っていた。
「あ、私帰るから、お邪魔しま」
人の気配に振り返るとベックマンが立っていた。
「ふ、副社長?!ど、どうしたんですか?その顔!」
嫌われてしまった事も忘れて思わず叫んだ。
ベックマンの顔の右側が青黒く腫れていた。
「ちょっと、な」
ベックマンはそれだけ口にした。
右側が腫れていると言う事は左利きの人間にやられた事を意味する。
「…………か、会社の運営について仲違いですか?」
ベックマンにこれ程の痛手を負わせる事の出来る左利きで思い当たるのは社長であるシャンクスのみ。
○○はそう聞いた。
「…………」
ベックマンは無言だ。
「……いえ、何でもありません。あの、失礼します」
○○はまたやってしまったと、ベックマンの横を通り過ぎた。
「?な、なにか」
しかし、ベックマンに腕を掴まれた。
「俺に何か言う事はないか」
ベックマンの鋭い目が○○を射抜く。
「…………何も」
○○は静かに首を左右に振った。
「無いのか?」
ベックマンはもう一度聞く。
「…………今更みっともなくすがったりしません」
泣きそうになるのを何とか堪え気丈に声を出す。
「では、俺がみっともなくなろう」
ベックマンは○○を引き寄せた。
「ふ、副社長!」
「2週間前、お前はどこにいた」
ベックマンが○○を腕の中に閉じ込めたまま聞く。
「2…………。あ、サッチに拐われていました」
思い当たるのはそれしかない。
「……自分の意思で付いて行ったんじゃないのか?」
ベックマンの表情は分からなかった。
「はい。サッチにはちゃんと家族としては好きだと言いました。私が好きなのは副社長なので」
○○はきちんと声を出した。
「私は副社長が好きです。男性として」
○○はベックマンの腕を逃れてベックマンの顔を見た。
「ですが。……こうなってしまっては、一度失った信用を取り返す方法を私は知りません」
○○は頭を深く下げた。
「ありがとうございました。私に取っては夢の様な素敵な時間でした」
○○はにこりと笑った。
「…………それは俺の信用も取り返せないと言う事か?」
ベックマンが声を出した。
「……前にも言いましたが、裏切られるのが怖いんです」
○○は泣きそうになる。
「もう、一人になるのが怖いんです」
○○の目から我慢していた涙が溢れた。
一人になるのが怖いから、裏切られるのは辛いから。ならば、初めから何もなければ一人だと気付かない。裏切られる程近寄らなければ裏切られる事もない。
○○は今までそうして生きてきたのだ。
「では、俺がお前を一人にしない」
ベックマンは○○を優しく抱き締めた。
「でも」
「お前の残りの人生を俺にくれ」
ベックマンは○○の左手の薬指に指輪をはめた。
「…………あ、あの」
○○は混乱してベックマンを見上げた。
「結婚してくれ。俺の為に生きて欲しい」
ベックマンの真剣な目が○○を貫いた。
「で?なんで逃げてきちゃったの?」
温泉に浸かりながら●●が呆れたように聞いた。
「だ、だって!付き合ってすら無かったのに、いきなり結婚なんて!意味分からないじゃない!」
同じく湯に浸かりながら○○は怒りながら声を出す。
あのまま何も言えず、ベックマンの手から逃げる様にマンションを飛び出し、付いて来た●●と共に温泉地へとやって来たのだ。
「案外付き合って無かったと思ってるのは○○だけなんじゃない?」
●●はクスクスと笑った。
「え?どう言う意味よ?」
「私がシャンクスからベックマンさんと○○がくっ付いたって聞いてたから」
●●が○○をにやりと見る。
「で、でもさ!ちゃんと言って欲しくない?私、我が儘?」
○○はおろおろとする。
やはり化粧が落ちてしまうと今一迫力は出ない。
「ううん!そんな事ない!私も最初シャンクスに問いただしたもの!」
●●はクスクスと楽しそうに笑った。
「……だよね」
○○はぶくぶくと顔半分まで湯に浸かる。
露天風呂は広く気持ちが落ち着く。
「とにかく、さ?帰ったらちゃんとベックマンさんと話し合うんだよ?」
●●はにこりと笑った。
「…………うん」
○○は小さく頷いた。
「……なんで●●まで出て行くんだよ?」
「…………すまん」
「お前がとっとと告白してりゃ良かったんだよ!」
「……そうだな」
「せっかく今日は早く帰れて●●の飯をだな!」
「……」
「うぅ、●●ー」
「……」
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