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「あ!もしもし、●●か?今日は早く帰れそうだ」

シャンクスは社長室で歩きながら愛しの妻に電話をかけていた。
ちょうど、暗くなってきた部屋の電気を増やす為にスイッチを押したところだった。

『本当?じゃあ、今日は張り切ってご飯作るね』

●●は嬉しそうに笑らう声が電話越しでも心地よく感じられた。
シャンクスは大きなデスクの上に行儀悪く腰をつける。

「あァ。楽しみにして」


ーーコンコン


「ちょっと待ってな。入って良いぞー」

シャンクスは●●に断りを入れるとノックが聞こえたドアに向かって叫んだ。

少しして、ゆっくりと扉が開いた。

「おぅ!○○さんか、どうした?」

シャンクスは電話を持ったままにかりと笑った。
一応いつものメンバーではないのでデスクから腰を浮かせた。

「…………」

○○は無言で茶封筒を差し出す。
それにおかしさを感じながらもシャンクスは彼女に近付いた。

「あ?あァヤソップに頼んでたヤツか。……どうした?」

シャンクスが無言で俯いたままの○○に心配そうに声をかける。
俯いたままなので顔色は伺えない。

『シャンクス?○○がいるの?どうしたの?』

電話口から●●の声がした。
シャンクスの声色とそれしか聞こえない状況に不思議に思った様だ。

「それがさ」

シャンクスが電話を持ち直し、状況を知らせようと口を開いた。

「お、おい?」

しかし、その電話を○○が奪った。

『○○?どうしたの?』

○○の耳に親友の●●の声が響いた。
それが今まで我慢していた物を壊した。

「…………けて」

『え?何?聞こえない!』

○○の絞り出す様な小さな声は電話越しの●●には聞き取りずらかった。

「……たす、けて」

『○○?!何があったの?』

○○の尋常ではない掠れた声に●●が焦る。

「助けて●●。私、もう、どうしたら良いかわからない!!」

○○は涙を流しながら訴えた。
呼吸は乱れ、混乱しきった声が響いた。

『○○!大丈夫だから!ちゃんと息して!』

●●の焦った声を聞きながら○○の体はフラりと倒れる。

「っと!危ねェ!!」

シャンクスが○○を抱き留め、床との衝突を避けた。

『シャンクス!○○大丈夫?生きてる?』

「それは問題ねェよ」

電話から聞こえる●●の声にシャンクスは頷いた。

『シャンクス、○○を連れて帰って来て』

「ベックに言った方が」

『それは止めておいた方が良い気する』

シャンクスの言葉を遮る様に○○が言う。
こう言う時の女の勘と言うものは恐ろしく鋭い。

「……わかった。じゃあ、一回切るぞ」

シャンクスはそう言うと携帯をポケットにしまって、○○を抱き上げた。








○○を抱いたまま地下駐車場へ行き、車に乗せ、自宅マンションへと帰って来た。
重役用エレベーターにはシャンクス以外いなかったので、その姿を目撃される事はなかった。

「シャンクス!」

マンション駐車場のエレベーターには●●が待っていた。

「おう!ただいま」

シャンクスは○○を抱いたままにかりと笑った。

「早く部屋へ」

●●は心配そうに○○を覗き込んだ。

「おう」

自分に見向きもしない●●にシャンクスは苦笑しながら部屋へと向かった。




「悪いけど、仕事片付けて来るから、一度社に行ってくるよ」

ベッドに○○を寝かすとシャンクスは立ち上がった。

「あ!そうなの?」

●●は心配そうに○○を見てから立ち上がった。

「付いててやりな」

シャンクスは●●の頭を優しく撫でた。

「……うん。……シャンクス」

「ん?」

「ありがとう」

●●はシャンクスに困った顔のまま礼を言った。

「あァ。愛する●●の親友の為だ。じゃあ、行ってくる」

シャンクスは○○のおでこに口付けを落とすと、足早に玄関から出て行った。








「○○!起きたの?」

客間に帰ると○○が目を覚ましていた。

「……うん」

○○が居たたまれない表情で頷いた。

「ごめんね。私がここにいるって事は社長に助けて貰ったのよね?」

○○は申し訳なさそうに●●を見た。

「うん!シャンクスの目の前で倒れたって」

●●が心配そうにベッドに寄り添う。

「……ごめんね。いくらそうでも、自分の旦那が他の女抱いてたらイヤよね」

○○は小さく項垂れた。

「…………ぷっ!」

●●は思わず吹き出した。

「確かに、少し妬けたかな?でも、○○は美人だからシャンクスと絵になってたよ」

●●がクスクスと笑った。

「…………そう」

○○は小さく頷いた。

「ねぇ、何があったの?」

●●はベッドに座った。

「……」

○○は押し黙る。

「『言いたく無ければ言わなくて良いよ』とか優しい事は言ってあげないよ?」

●●は優しく言葉を紡いだ。

「…………あのね」

○○はポツリと呟いた。








「ベックマンさんと付き合ってたって事なの?」

話を聞き終わった●●は○○に聞く。

「…………ううん。わからない」

○○はふるふると首を左右に振った。

「そっか。○○はさ、ベックマンさんが好きなんだね」

●●は穏やかに笑った。

「……うん。正直、仕事無くすより副社長に信用して貰えなかったのが一番キツい」

○○はため息をついた。

「そっか。…………初めてだね」

「え?」

「いや、こうして何年も一緒にいたのに恋ばなって初めてだよね?」

●●はにこりと笑った。

「恋ばなって……。若いつもり?」

○○は力なく笑った。

「ふふ、うん!」

●●は嬉しそうに笑った。

「ふふ、ありがとう。何か、元気出た」

○○がにこりと笑った。何かを吹っ切る様に深呼吸をした。

「失恋なんて、サッチの時もしたのに。馬鹿みたいね、私」

○○は自傷気味に笑った。

「そんな事……」

「人に信じて貰えないのも、裏切られるのも慣れてる筈なのにな」

○○は自虐的に笑った。

「はぁ。少し仕事探すの後にして旅にでも出ようかな?」

○○は息を吐いた。

「旅?」

「うん。傷心旅行」

○○は頷いた。

「良いね。私も行こうかな!」

●●は良い案だと手を叩いた。

「何言ってるの?●●は奥さんなんだからダメでしょ」

○○は呆れた様に言う。

「親友が傷付いてるのに、放っておけ何て言う旦那はこっちから願い下げよ!あ!なら、今から行く?シャンクスに内緒で」

●●は目を輝かせた。

「ふふ、●●にそれが出来るとは思えないよ」

○○はクスクスと笑った。

「そんな事ない!じゃあ、準備する!」

●●は立ち上がると本当に支度をするのか、部屋を出て行った。









「●●」

「ん?」

「ありがとう」

「ふふ、うん!」

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