21
仕事が思ったより早く終わり、ベックマンは○○のアパートへと向かった。
アパート近くで○○が別の車から降りるのを見た。
「…………あれは」
ベックマンは運転手がサッチであり、○○の元恋人だと解った。
「…………」
あまりなにも穏やかな2人。それはまるで恋人同士か家族のような雰囲気であった。
ベックマンは乱暴に吸いかけの煙草を灰皿に突っ込むとまた新しい煙草に火をつけて、その場を後にした。
そしてまた激動の1週間が過ぎた。
「…………疲れた……」
大分慣れてきたとは言え、○○はぐったりとエレベーターを待っていた。
「……」
そこにベックマンが無言でやって来た。
「あ、お疲れ様です!」
○○はベックマンに嬉しそうに笑った。
「…………あァ」
ベックマンは無表情に頷いた。
「……?」
ベックマンの不機嫌さを感じ取った○○は不思議そうにエレベーターに乗った。
エレベーターの中も終始無言で、そのまま誘われる事なく○○は一階で降りた。
「疲れてたのかな?」
○○は不思議に思ったが、あまり気にしなかった。
しかし、事態は良くならなかった。
いつもは普段のベックマンはと同じだが、○○と話す時だけ無視、無表情、どうしても話す時は辛く当たった。
更に1週間が経っていた。
「…………」
恋心を抱くベックマンからの冷たい態度に○○の精神状態は辛くなっていた。
「おいおい、大丈夫か?」
ヤソップが○○に話し掛ける。
「え?はい。これ、終わりました」
○○が無表情にヤソップに終わった書類を渡した。
「よし。良くできてる。しかし、なんだ?お前といい、ベンといい。最近変だぞ?」
ヤソップの言葉に○○の体がびくりと震える。
「何があったか知らねェが、早いとこ謝っちまえよな」
ヤソップがやれやれと声を出す。
「…………やっぱり私が何かしてしまったのでしょうか……」
○○はポツリと呟いた。
「……さぁな。あいつも元は悪い奴じゃねェからさ。早く仲直りしろよ」
ヤソップが笑いながら○○の肩を叩いた。
「…………はい」
○○は頷いた。
「それはそうと。これ、お頭に届けてくれ」
「え?」
ヤソップは茶封筒を渡す。
「頼んだぜ?」
ヤソップはウインクする。
社長室にはベックマンのいる確率も高い。
「はい!行ってきます!」
○○は意を決して立ち上がる。
「あァ、ゆっくりで良いぞ」
ヤソップがニヤリと笑った。
○○は茶封筒を大事に持つと部屋を後にした。
○○ははやる気持ちを抑え社長室まで速足で歩く。
すると、向こうからお目当ての人が歩いてきた。
○○が立ち止まる。
しかし、ベックマンは目配せもなく○○の横を通り過ぎる。
「ま、待って下さい!」
○○は嫌な音を立てる心臓を無視してベックマンを呼び止める。
ベックマンは無言で立ち止まる。
「あ、あの!私何か気にさわる様な事をしましたか?」
「…………」
「あの、それなら謝ります」
○○は頭を深く下げた。
「…………謝るなら初めからするな」
ベックマンの無感情の声が響いた。
「…………すみません」
○○はやはり自分が何か悪い事をしたのだと悟った。
しかし、何の事かさっぱり分からなかった。
「俺はお前を信用していた。だが、まさか白ひげのスパイだったとはな。畏れ入った」
「え?」
「悪いが幹部候補も無かった事にする。俺の前にも二度と姿を見せるな」
ギロリと一度向けられた瞳に侮蔑の念が込められていた。
「…………」
○○は何を言われたのかを理解できずにその場で固まってしまった。
ただ、胸が張り裂けそうに辛かった。
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