20
どさりと乱暴にベッドに落とされる。
「さ、」
乱暴に唇を重ねられ、口を強く吸われた。
止めてと押し退けとようと手を伸ばすと今度はサッチの大きな手が胸を覆った。
驚いて口を開けると、そのまま舌を入れられ、乱暴に口付けられる。
○○は自然と気持ちが冷静になり抵抗を止め、サッチのされるがままになった。
「……サッチ」
サッチの舌を首に感じながら○○はサッチの名を呼んだ。
「私、サッチが好き」
○○はポツリと呟く。
「なら、戻って」
「でも」
サッチの言葉を遮る様に続ける。
「でもね、副社長の事は違う意味で好きみたい、私」
○○がそっと涙を流し目を閉じる。
「……○○」
異変を感じたサッチは○○に股がったまま上体を上げた。
思い詰めた様な顔をしたが目を閉じている○○には見る事が出来なかった。
「私のサッチへの好きって家族への好き、みたい。血の繋がった家族がいないからわからないけど」
○○はうわ言の様に呟く。
目はぼんやりと開いたが焦点は合ってない様に見れた。
「サッチが近くにいると安心する、楽しい。でも、副社長が近くにいるとドキドキする、嬉しい、胸がきゅんてなる。サッチとキスするより副社長とキスした方が胸が、体が熱くなる」
○○はゆっくりとサッチへ視線を合わせた。
目はしっかりとしていた。
「ねぇ、サッチ。もしかして、これが恋なのかな?」
「……○○」
○○の言葉にサッチは胸が締め付けられた。
サッチは分かっていたのだ。
○○が白ひげに入って来た時は荒んでいて、誰も信じません。と言う態度だった。
それにサッチは昔の自分を重ねた。孤独を和らげようと近付き、気付いた時には惚れていた。
○○は親の愛情が欲しかったのだ。しかし、サッチはそれを利用して恋と愛を知らない○○の恋人になったのだ。
いつか、本当に好きな人間が○○に出来るのではないか?それがサッチの不安だった。
そして、それは現実のものとなった。
「でも、サッチが私から離れて行くのが凄く苦しかったよ。サッチは私にとってお兄ちゃんなんだと思う。家族なんだろうなぁって思うの」
○○は自分が思った事を口に出す。
「……サッチが私から離れるなら、する?続き」
○○の悲しそうな顔にサッチは○○から降りる。
これ以上○○の苦しそうな顔は見たくは無かった。
「出来ねェよ」
サッチは小さく呟いた。
「大切な妹の初恋なら兄ちゃん応援しなきゃだろ?」
サッチは悔しそうに笑った。
「…………サッチ。ごめんね」
○○は起き上がるとサッチに近付く。
「謝るのは俺の方だ。お前を一人にして悪かった。あの野郎に振られたら帰って来い。いや、ヒデェ事されたら帰って来い。わかったな?」
サッチは諦めた様に笑った。
大切な妹のために。
「……うん」
「俺はまだお前が好きだぜ、○○」
サッチはにかりと笑った。
「ありがとう、サッチ!」
○○は心から笑っていた。
「良いか?取り合えず兄ちゃんポジに甘んじてやる。何かあったら俺に相談しろ。わかったか?」
帰り道の車中でサッチが何度も口を開いた。
「クスクス解った」
○○はサッチの過保護さに笑った。
「笑うがな、俺は本当に心配なんだよ。お前しっかりしてる癖にどっか抜けてるからさ。騙されるなよ」
サッチが○○を睨む。
「そんな事ないよ。あ!そう言えば赤髪の幹部候補になったんだよ、私」
○○がにこりと笑った。
「そりゃそうだ!どこで鍛えられたと思ってる!白ひげだぞ?白ひげ!天下の白ひげ!!!」
サッチがバンバンとハンドルを叩く。
「オヤジも元気?」
○○は大きなひげを思い浮かべた。
「あァ、相変わらずだ」
サッチは少し寂しそうに笑った。
「……そっか」
○○は小さく頷いた。
白ひげの体調は良くはない。
それは離れてしまった今でも心配だった。
「まァ、とにかく!ちゃんと報告しろよな!」
サッチが○○のアパートの前で車を停めた。
「解った。じゃあね?お兄ちゃん」
○○はシートベルトを外しながらサッチを見た。
「あァ、頑張れよ、妹」
サッチはよしよしと○○の頭を撫でた。
「うん!ありがとう!」
○○はにこりと笑うと車から降りた。
「……」
「じゃあね!」
○○は無言のサッチに手を振った。
サッチはそのまま車を発進させた。
「……さよなら、サッチ。ありがとう」
○○は呟くと去り行く車に頭を深く下げた。
「あーあ、何が妹だよ。俺は馬鹿だな」
サッチはシートに深く腰を掛け、赤信号を見上げた。
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