18

心地よい低い男の話し声がした。
相手の声は聞こえないので、どうやら電話をしているらしい。

「……ん……?」

○○は目を覚まし、むくりと起き上がった。
カーテン越しの太陽が眩しかった。

「あァ、起こしたか?悪いな」

ベッドから見える所に現れたのはベックマン。

「…………っ!!!す、すみません!私!!」

○○は状況を思い出したのか、慌てて手櫛で髪を整えた。

「ん?何かやったのか?」

ベックマンが穏やかな顔で笑う。

それに思わず見惚れる○○。

「いえ、あの!寧ろ何も………………その、寝てしまったみたいで……」

○○はポツポツと青ざめながら呟く。

(誘われて爆睡とか!ど、どうしよう、これでもう誘われなかったら……)

○○は頭の中が混乱していた。

「いつも頑張ってたからだろ。無理はするな」

ベックマンは○○の頭に手を置いた。

「…………は、い」

○○は小さく頷いた。

「悪いが仕事が入った。○○はもう少し寝てからで良いぞ」

ベックマンは○○の側から離れ、スーツを着込む。

「わ、私も出ます!一緒に!」

○○は慌ててベッドを降りて支度を始める。
せめてベックマンともう少し一緒にいるために。

いつもの化粧をする時間がなく、仕方なく軽く化粧をするだけにとどめた。

「大丈夫か?」

支度を終えた○○をベックマンが振り返る。

「えぇ、行きましょう」

○○はにこりと笑った。

ベックマンはその笑顔に手を添えて唇を重ねた。

「それくらいの化粧も似合うな」

ベックマンの唇が離れニヤリと笑った。

「あ、……ありがとうございます」

○○は真っ赤な顔で頷いた。

「行くぞ」

ベックマンは○○の肩を抱いて外へ出た。








「ここで大丈夫です」

○○は車を降りた。

「悪かったな、ゆっくり出来なくて」

ベックマンは窓越しに煙草をくわえた。

「いえ、寝てしまったのは私ですし」

○○が申し訳なさそうにする。

「そうだな。出来れば次は寝ないでくれ。じゃあな」

ベックマンがニヤリと笑うと車を発進させた。

「つ、次があるんだ。良かった」

去り行く車を見てホッと一息ついた。




「っきゃ!」

家の方へ行こうとすると腕を掴まれた。
驚いてそちらを見る。

「サッチ!!!」

「こっち来い」

サッチに引きずられる様に車に乗せられた。





車の中は小さくラジオがかかるだけ。

「……どこ行ってた?」

走り始めて数分、サッチがようやく口を開いた。

「どこって」

「野郎の家か?」

「やろ、ううん。ホテル」

サッチの質問に素直に答えていく。

「ホテルぅ?!昨日の夜から居ねェから心配してたら」

サッチが小さく舌打ちをした。

「昨日の夜?夜からいたの?あそこに?」

○○は驚いてサッチを見る。

「……そうだよ!ったく、金曜の夜なら仕事に差し支えないと思ったから待ってたのに。年頃の娘が朝帰りかよ」

サッチはぷりぷりと怒りながら文句を言った。

「…………ぷはっ!」

○○は思わず吹き出した。

「な、」

「あはははは!!サッチだ!本物だ!」

○○は可笑しそうに笑った。

「ふふ、お馬鹿さんで可愛いサッチだ」

○○はクスクスと笑ったままだ。

「…………そうだよ。みんなのアイドルサッチ様だよ」

サッチは小さく呟いた。

「サッチ、久し振り」

○○は熱くなる目頭を軽く押さえた。

「…………おぅ」

サッチは拍子抜けしながら頷いた。









「おう、ベン!悪ィな」

「いや、ヤソップ。お頭は?」

「今日は嫁さんと墓参りだそうだ」

「そうか。なら、仕方ないな」

「相変わらず優しいねェ」

「さっさと、片付けるぞ」

「あいよ!」

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