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「あ、あれ?」
いつもの様に出社すると、自分のデスクに違う部署のやり手と噂の人が座っていた。
○○の荷物は既になく、その人が荷物の整理をしていた。
「あの、そこ」
○○が訝しげに聞く。
「え?辞令見てない?僕も急な事で驚いてさ。昇格おめでとう!午後から引き継ぎお願いしますね」
爽やかにそう言われ、慌てて掲示板を見に行く。
「…………『異動』?『□□○○を本日付で』…………はぁぁぁ?!」
ーーバンッ!!
「失礼いたします!」
○○はノックなしに乱暴にドアを開け、声を張り上げた。
「おぅ!○○さん、待ってたよ」
にかりと笑ったのは赤い髪が特徴的な社長シャンクスであった。
「何故急に異動なんて、しかも!ここ!」
○○は冷静に怒りを表に出していた。
『ここ』と言うのは幹部部屋だった。
そう、○○は幹部候補に昇格していたのだ。
「社長並びに俺達の判断だ」
ベックマンが静かな声を出した。
「仕事も出来る、人間性も悪くねェ、信頼出来る、この人についてける」
ヤソップがニヤリと笑ってシャンクスを親指で差す。
「先週までの昼飯が選考面接だったんだよ」
ルゥも愉しそうに笑った。
「悪いがお前さんに拒否権はねェ。ここで働きたくなけりゃ、辞めて貰って構わねェよ」
シャンクスが机に肘を乗せ、手の甲に顎を乗せて余裕の笑みを見せた。
「………………」
○○は冷静に頭を回転させようと大きく深呼吸をした。
自分の恋心に気付いてしまった○○としてはベックマンの側に居られると言う好都合。
「……私の能力を認められたと自惚れても宜しいのでしょうか?」
○○は真剣な表情を作る。
「あァ、期待してる」
シャンクスは真面目な表情で頷いた。
「それならば、こちらこそ宜しくお願いいたします」
○○は頭を深々と下げた。
「あァ!こき使うから覚悟しとけよ」
シャンクスは嬉しそうににかりと笑った。
「じゃあ、当分はヤソップとルゥに付いてくれ!ヤソップから合格点が出たらガンガン仕事回すからな!」
「は、はい!頑張ります」
○○は笑顔で頷いた。
「良く言った。じゃあ、ヤソップ任せたぞ」
「おぅ!任せとけ!じゃあ、行くぞ」
「はい!失礼します」
ヤソップとルゥについて○○は退室した。
「で?良いのか?」
「何がだ」
「お前が育てなくて」
シャンクスが苦笑しながらベックマンを見上げる。
「……俺だとどうしても甘えが出る。なら、荒波に揉まれた方が良いだろ。ヤソップならその辺上手いからな」
ベックマンは煙草に火をつけた。
「へェー、そんで泣いた所を慰めるのか、さすがだなァ」
シャンクスがニヤニヤとベックマンを見る。
「そうだな」
ベックマンはしれっと頷いた。
「認めやがったよ!」
シャンクスはだっはっはっ!と笑った。
「隠しても仕方がない事だ」
ベックマンが何でもないと口を開く。
「まァ、せいぜい頑張れよ」
シャンクスがベックマンを叩いた。
「それはそうと、とっとと仕事しろ」
ベックマンがシャンクスを叩き返した。
「んで、これが」
「はい!そこはこうですか?」
「いや、こっちで頼む」
「はい!これは」
「そうだな。物覚えが早くて助かるな!」
「いえ、そんな」
「ほら、手を動かせ!」
「は、はい!」
(ヤソップさん、凄い!)
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