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「これは?」
「こうだろ」
「え?あ、これ?」
「違うだろう」
「いえ!絶対これですって!」
「いや、こうだ」
「…………」
部屋に置いてあった木のパズルを2人は真剣にやっていた。
初めはやる事がなくテレビなどを見ていたが、○○が見付けた木のパズル。
それをあーでもない、こーでもないと言ってやっていた。
「副社長ずるい」
○○は出来上がった形を見て口を尖らせた。
「何がだ」
ベックマンは煙草を吹かした。
すでに灰皿はいっぱいになっていた。
「何でも出来るんですね」
○○はつまらなそうにパズルを動かす。
「…………そんな事はない」
ベックマンは煙草の灰を灰皿に落とす。
「その間が怪しいですが」
○○はじとっとした目で見る。
「そうだな」
ベックマンは煙草を吹かしてからその煙草を灰皿へと押し消した。
「好きな女の心はなかなか手に入らねェな」
ベックマンは新しい煙草に火をつけた。
「……だから独身?モテそうなのに」
「好きでもない女にモテても仕方無いだろう」
ベックマンが事も無げに言う。
「……うわ」
○○は少し嫌な顔をする。
「勿体無いですよ」
「なら、好きでもないのに付き合えってのか?」
「……付き合えってから好きになる事もあるんじゃないですか?」
○○は考えながら口を開く。
「…………そうだな」
ベックマンは煙草を灰皿に押し付けた。
「なら、試してみるか」
ベックマンの大きな手が○○の頬に近付く。
ーーコンコン
「失礼いたします」
「っ!はい!」
仲居の声を聞いて○○がベックマンから離れて声を出した。
「お食事の用意をさせて頂きます」
時刻は18時少し前。
「お願いします」
○○の声に合わせて仲居が食事の用意をし始めた。
ものの5分程で豪華な料理が並んだ。
「うわぁ!」
○○は嬉しそうに声を出す。
「お飲み物はいかがしましょうか?」
「ビールを」
ベックマンが席につきながら言う。
「かしこまりました」
仲居が一度下がりすぐにビールを瓶で3本とグラスを2つ持ってきた。
「失礼いたします」
仲居がいなくなると、再び2人になる。
「美味しそう!頂きます!」
○○はにこりと笑った。
「ほら」
ため息をしてからベックマンが瓶の栓を抜き、○○に差し出す。
「あ!先に」
○○が瓶を受け取るとベックマンはグラスを持ち上げる。
食事も終わり、食器も片付けられ、2人は温泉へとそれぞれ入った。
「帰って来てたのか」
部屋に帰って来るとすでに○○がいて、窓の外を見ていた。
「……はい」
○○は外を見たまま頷いた。
「どうした?」
ベックマンが缶ビールを開けた。
「……肩の荷が降りたと言うか」
○○は消え入りそうな声を出す。
「…………先程の生きる意味って奴か」
ベックマンが煙草をくわえた。
「……」
○○はこくんと頷いた。
「なら、」
タンッと軽い音と共に○○が見ていた窓の障子をベックマンが閉めた。
「俺の為に生きてみるか?」
ベックマンは言ってから○○の唇に自分のそれを重ねた。
「目を閉じる事は教わらなかったか?」
驚いた顔のままの○○にベックマンが意地悪く言う。
「……え?」
○○は口をぱくぱくとゆっくり動かす。
顔を赤くして、ぱっと顔をそらせる。
「初めから下心がないと、いくら部下でもこんな所に連れ込まないだろ」
ベックマンが○○の頬に手を添え、自分の方へと向かせた。
「…………わかり、ました」
初めて見るベックマンの熱を持つ目から避ける様に○○は目を閉じた。
ベックマンはそれに合わせて再び口付けた。
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