未来にある別れ
「ん?あ!」
エントランスにある郵便受けに行く事が日課になっていた○○は自分宛の手紙を見付けて嬉しそうに声をあげた。
「ただいまー」
シャンクスがいつもより少し遅く帰ってきた。
とは言っても前の様な忙しさは今はないので遅い時刻ではない。
「おかえり」
パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関へと出迎える○○。
「あー、疲れた」
「お疲れ様!大変だったの?」
シャンクスの言葉に○○は鞄を受け取りながら反応する。
「まァな。つーか、暑いよな」
シャンクスは息を深く吐き出した。
「うん!今日は暑かったよね。もう私も汗かいた!お風呂沸いてるよ」
○○は風呂場を指差す。
「なら、一緒に入るか?」
シャンクスはにやりと笑った。
それはもちろん断られる事前提のイタズラ心だった。
「うーん。そうね、たまには良いよ?」
「…………え?」
(失敗した。何で「冗談だよ」とか言えねェんだよ。一昨日したばっかだから無理だしな。雰囲気に流されてくれる事は皆無だし……)
シャンクスは湯船に浸かり後悔をしていた。
洗い場では○○が泡を立てて体を洗っていた。
シャンクスは久し振りに一緒にする入浴はスキンシップと割り切ろうと頑張っていた。
「ほらほら!だいぶ出てきたでしょ?」
○○は嬉しそうに笑いながら出て来たお腹を洗う。
「あ、あァ……そうだな」
シャンクスはどうしても腹より胸に視線が行ってしまう。
(……でかい)
シャンクスはため息をつきながら湯船に沈んだ。
「……あのね」
「どうした?」
広い湯船の中で向かい合う様にして入る2人。
○○はおずおずと口を開く。
「友達から結婚式の招待状が来たの」
「良かったじゃねェか」
シャンクスは窓から見える星空を見上げる。
「……それがね」
「どうした?」
言いよどむ○○を不思議そうに振り返る。
「返信葉書を出すために冠婚葬祭のマナーの本を読んだの。そしたら、『妊婦は子が母から出て別れるから、別れを意味する。なので出席には不向き』って書いてあったの」
○○は水面を下から指で弾いた。
「は?そんな事あるのか?知らなかったな」
シャンクスは驚いて声を出した。
「うん。結婚式は8ヶ月の時だから一番調子が良い時らしいの。だから楽しみにしてたんだけど……」
どうしようと○○は迷っている様だ。
「気にしすぎだろ。妊婦で結婚式出てるのだって見た事あるぜ?」
不安そうな○○を元気付けようとシャンクスは優しく言う。
「うーん……でも」
○○はすっかり落ち込んだ顔をした。
「なら、本人に聞いてみろ。相手の家や親戚にも聞いて貰え。折角のお出掛けのチャンスなんだろ?」
妊婦になってからは一人で外出をさせてもらっていない○○。久し振りの友達と会える事が楽しみなのだ。
それを知っていてシャンクスはにやりと笑った。
「……そうだね、うん!ありがとうシャンクス!」
○○は嬉しそうに笑った。
「ところで○○さん」
「さん?」
○○は不思議そうにシャンクスを見る。
「ちょっと、その、あー、……」
シャンクスが言いにくそうにちらりとお湯の中に視線を落とす。何だろうと視線を追いかけると、
「…………あの、手で良ければ……」
「ほ、本当か?」
「……あ、うん」
シャンクスは嬉しそうに○○を抱き寄せた。
「じゃあ、うん!ありがとう!結婚式楽しみにしてる!」
○○は電話を切った。
「どうだった?」
シャンクスはスッキリとした表情で晩酌をしていた。
「うん。やっぱり初めて聞いたって、旦那さんもそれぞれのご両親も気にせず出席して良いって言ってくれたよ!」
○○は嬉しそうにシャンクスの隣に腰を下ろした。
「な?疑問は一人で悩まずに聞くのが一番だ!」
シャンクスはにかりと笑った。
「そうだね。そうする」
○○は安心しきった顔で頷いた。
未来にある別れ
「ところで、○○」
「ん?なに?」
「さっきみたいにやってくれればバッティングセンター行かなくて済むんだが」
「…………」
「顔真っ赤だぞ?」
「だ、だって」
「ったく!可愛いなァ!」
「っ!!」