君のいる部屋でバレンタイン


「うーん、調子悪いなぁ」

○○はスーパーのパートが終わって着替えながらボーッとした。

「どうしたの?」

パート仲間のおばさんが声をかける。

「えぇ、最近調子悪くて」

○○は困った様に笑った。

「どんな風に?」

おばさんは心配したように聞く。

「えーっと、気持ち悪くて、こー、胃がムカムカして、臭いがダメですね」

○○は「何ですかねぇ?」と言う。

「それって。ねぇ、生理とかちゃんときてる?」

「え?…………そう言えばいつだったかな?」

○○は考えながら指を折る。

「そんなに前ならもしかして、おめでたじゃない?!」

あらやだ!とおばさんが嬉しそうに笑った。

「え…………いやいや!まさか!」

○○は背中がぞくりとした。

「まぁ、ただ単に遅れてるだけかもしれないし、一度ちゃんと病院に行った方が良いわよ」

おばさんはそれだけ言うと「じゃあね!」と帰って行った。

「…………まさか、ね」

○○はお腹を擦った。







「………………」

○○はアパートに帰り着き、トイレの前に立っていた。

途中でドラッグストアで買ってきた妊娠検査薬を片手に持っていた。

「…………もしかしたら気のせいかもしれないし」

○○は箱から細長い物を取り出した。

「……確かにシャンクスが来てからもうずいぶん経つけど生理、来てない」

○○は深く息をついた。

「とにかく、やってみるしかないよね」

○○はトイレに入った。






「…………陽性」

妊娠検査薬はプラスをはっきりと示した。

「う、嬉しい……けど」

○○は気持ちが落ち込んでいく。

「も、もしもシャンクスにいらないって言われたら……」

○○は身体中が凍るのではないかと思うほど冷たくなる。

「…………ど、どうしよう」

○○は泣きそうになるのをグッと堪える。

「ダメだ。もし、いらないって言われたらこの子を守れるのは私だけだ。しっかりしなくちゃ」

○○は立ち上がり、預金通帳や保険証などを用意した。

「とにかく、お金ってどのくらいかかるのかな?産婦人科ってどこが良いんだろう……」

あわわわと○○は一人の時間を慌ただしく過ごした。







「ただいまー」

シャンクスはアパートの玄関を開けながら声を出した。

「お、お帰りなさい」

○○はおどおどとシャンクスの前に出る。

「ほい、お土産」

「え?」

シャンクスに渡されたのは大きな紙袋3個。

「え?何このプレゼントの山……」

○○は不思議そうに袋の中を見た。

「あ?あァ、今日はバレンタインだからなァ」

シャンクスは疲れたとネクタイを外した。

「あ……あぁ!!」

「ど、どうした?!」

シャンクスは急に大きな声を出した○○に驚いた。

「バレンタイン?今日?!」

○○は慌ててカレンダーを確認する。

「お、おゥ。そうだな」

シャンクスは慌てる○○に不思議そうにする。

「ごめん、シャンクス!すっかり忘れてた!」

○○はショック気味にシャンクスを見上げた。

「…………そ、そうなのか」

思いきり残念そうな顔をしたシャンクス。

「ずいぶん前からスーパーでイベントしてたから全然解らなくて……。それどころじゃ無かったし……」

ごめんなさいと○○は謝った。

「いや、…………良いんだ、別に」

シャンクスはがっくりと項垂れた。

「ご、ごめんね、シャンクス」

「……良いよ。よし!」

シャンクスはニヤリと笑うと○○を軽々と抱き上げる。

「え?」

「仕方ないから好きにする」

シャンクスは楽しそうに○○をベッドに組み敷いた。

「あ、シャンクス!まっ」

唇を重ね、口付けを堪能するシャンクス。

「ん……」

シャンクスの手がゆっくりと胸を撫でる。

「っあ!待って!シャンクス!」

○○は慌ててシャンクスを押し退ける。

「何だよ!邪魔するな」

シャンクスが拗ねたように○○の腕を布団に縫い付ける。

「ダメなの!ダメ!嫌だ!」

○○が懸命に暴れるが、シャンクスとの力の差は歴然だ。

「そんなに嫌がるなよ。バレンタインも忘れるくらい気に病む事があったのか?」

シャンクスは泣きそうな○○の上から退かずに睨み付ける。

「あ、あのね。その」

○○が言いよどむ様子に痺れを切らしたシャンクスが○○の素肌に舌を這わせる。

「っ!やだってば!あか、」

「赤?」

「赤ちゃんが出来たかも!!」

○○はそう叫んだ。

「……は」

シャンクスの手が緩んだ。
その隙にシャンクスに向き合うようにベッドに座る。

「病院には行ってないんだけど、検査薬は陽性で」

シャンクスの反応が怖く、○○は下を向いて早口で捲し立てた。

「最近調子悪くて、生理も来てなくて、それでね」

○○は泣きながら声を出す。

「わ、私産みたいから、その、出来ない」

○○の声はだんだん小さくなる。

「もし、もしシャンクスが産んで欲しくないって言っても私はそれは聞き入れられないの。だから」

シャンクスは○○を抱き締めた。

「そんな事ある訳ないだろ」

シャンクスはグッと力を込める。

「そうか!出来たか!」

がばりと向かい合う様に顔を合わせると、にかりとシャンクスが笑っていた。

「……良いの?」

「なにがだ?」

お互いに不思議そうにする。

「私、産んで良いの?」

「当たり前だろ!俺の子だろ?」

シャンクスの言葉に激しく上下に頭を振る。

「なら!何にも問題なんてねェな!」

嬉しそうに笑うシャンクスを見て、また涙が○○の目から溢れてきた。

「泣き虫だなぁ」

シャンクスは穏やかに笑うと優しく涙を拭う。

「だって!怖かったの!」

○○が声を出す。

「ん?」

「信じてたよ?信じてたけど、もしもいらないって言われたらどうしようかって!」

○○はシャンクスにしがみついた。

「大丈夫だ。信じてくれって。この日の為に金だってかなり貯まったからな」

シャンクスが楽しそうに笑った。

「ありがとう、○○。最高のバレンタインになったよ」

シャンクスはよしよしと優しく○○の頭を撫でた。

「うぅ!シャンクスー!」

○○はシャンクスに泣き付いた。







君のいる部屋でバレンタイン








「…………こんなに可愛いのに襲えないのか」

「スヤスヤ」

「生殺しだ。これはかなりの苦行だ」

「……ん」

「ヤメロー!その声止めてくれ……」

「ん、しゃん、くす」

「…………え?ヤソップ良く耐えられたな。尊敬する」



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