人形芝居劇

「分からず屋!」

「ぐはっ」

テンションの低い、と言うよりも感情のない声と共に人形のキララが人形のカツシロウを殴る。

「カツシロウ様などもう知りません!」

「き、キララ殿ー……」

同じ声でキララの人形を追いかけるカツシロウ。

「…………」

「…………ご、ご冗談を……」

それをたまたま見てしまったヘイハチとゴロベエはまじまじとその侍を呆然と見つめる。

「…………」

キュウゾウは全く表情を変えずに人形を懐にしまう。

「キュウゾウ殿。それはご自身で?」

興味をそそられたヘイハチはキュウゾウの胸元を指差した。

「…………あぁ」

キュウゾウは無表情のまま頷く。

「それはそれは……」

「何とも、人の趣味とは不思議なものだな」

ヘイハチとゴロベエはふむふむとキュウゾウに頷きかけた。

「ここにおいででしたか。……?どうしたんです?」

槍と包を片手にシチロージが不思議そうにやって来る。

「いえね、人の趣味は実に意外性があると話していた所だよ」

ゴロベエがニヤニヤと笑った。

「はぁ、そうでげすか」

納得いかず、と言う声でシチロージは頷いた。

「ところで何かご用ですか?」

ヘイハチがシチロージに問いかける。

「そうでした!ヘイさん大好きのお米でげす」

シチロージは楽しそうに笑いながら包みを差し出した。

「おぉ!これはこれは!お粗末!」

ヘイハチが一番に握り飯へと手を出した。

「うーん!やはり神無村の米は良い!」

ヘイハチは上機嫌に握り飯を頬張った。

「ところでカンベエ殿は?」

ゴロベエも握り飯を片手にシチロージを見る。

「へえ、カンベエ様は少し出て来ると」

シチロージはキュウゾウにも握り飯を差し出す。

「かたじけない」

キュウゾウは言葉少なく握り飯を受け取る。

「すぐに戻られると思いますよ」

シチロージはニヤリとキュウゾウに笑いかけた。

「……しかし、先程の人形劇ではないが、カンベエ殿は興味があるのか?」

ゴロベエは握り飯を食いながら顎を撫でた。

「人形劇?」

「ははは、そこはお気になさらず」

シチロージの不可解な顔にゴロベエは笑って答え、ヘイハチはくすくすと笑みを漏らす。キュウゾウはただ黙って握り飯を頬張った。

「カンベエ殿の興味とは?」

シチロージは仕方なく後半部分の疑問を投げ掛ける。

「いえね、あの人は侍。戦いばかりに明け暮れたのは想像に堅くない。しかし女性に興味があったのか、とふと思いましてね?」

ゴロベエは芝居がかった口調で手のひらを見せる。

「フム、確かに少し興味はありますね」

ふむふむとヘイハチは頷いた。

「カンベエ様の、でげすか?」

シチロージはふと目を細めて昔を思い出す様に思いを馳せた。

「まぁ、戦場ではおなごはおりませんし、かの人が戦場の他生きていける方とも思えませぬな」

くすりと笑いながらシチロージも芝居がかった口調で返す。

「そうですか。引く手数多、なのかと思いました」

真面目腐った表情でヘイハチは声を出す。

「そう言うヘイさんはどうなんです?」

「と、申しますと?」

「いやだな、解っている癖に」

シチロージが下品な笑顔でうりうりと肘でヘイハチの腕を押す。

「そうですな、人懐っこいヘイハチ殿のお人柄ならば、おなごの一人や二人」

ゴロベエもニヤニヤとヘイハチを見る。

「はぁ、それがですね、何故かいつも振られてしまいまして」

ヘイハチはやれやれと声を出す。

「ほう、それは何ゆえ?」

ゴロベエは興味をそそられ聞き返す。

「いえね、私は米好き過ぎるのか、米の説明を始めると止まらない質でして。それに痺れを切らせて「もういいわ」と」

「……それはそれは」

「……実にヘイハチ殿らしい」

ヘイハチの説明にシチロージとゴロベエは苦笑いを禁じ得なかった。

「そう言うゴロベエ殿はいかがなのですか?」

ヘイハチは当然とばかりにゴロベエを仰ぎ見る。

「そうですな。どうしても怒らせたくなります」

「そりゃまた、どうして?」

ゴロベエの言葉にシチロージが不思議そうに聞く。

「おなごは怒らせると物を投げてきて。それがまた、尋常ではない速さなもので」

「……あぁ」

「……こりゃまた」

ゴロベエの説明を聞き、ヘイハチとシチロージはもはや言葉もなく苦い顔で笑うしかなかった。

「キュウゾウ殿は」

「……?」

ゴロベエはキュウゾウを振り返る。

「話の流れからおなごでげすよ」

シチロージもニヤリとキュウゾウを見下ろす。

「あぁ、それは是非とも私もお聞きしたい!」

ヘイハチもキュウゾウに興味をそそられ食い付くようにキュウゾウを見た。

「…………」

キュウゾウは無言で顔を背ける。

「別段恥ずかしがる事もあるまい」

ゴロベエがキュウゾウの肩を抱くように叩く。

「左様で!キュウゾウ殿、何事も経験ですぜ」

シチロージも逆側からキュウゾウの肩を抱くように叩く。

「そうです!で?どの様な事が?」

ちらりとゴロベエ、シチロージに目を向けたキュウゾウの正面にヘイハチが立つ。

「…………」

キュウゾウは無言で懐から先程の人形を取り出した。






「おっちゃま!あそこにいるです!」

「おっし!行くぜー!!」

「きゃあ!速いです!」

コマチを肩に担いだキクチヨがキュウゾウに群がるシチロージ、ヘイハチ、ゴロベエに近付く。

「おう!こんなところにいたでござるか!カンベエが呼んでるでござるよ!」

キクチヨの機械の体をガシャンガシャンと響かせながら近付いて来るのに男達はびくりと体を反応させた。

「こ、これはコマチ殿、キクチヨ殿!」

シチロージがくるりと2人を振り返る。

「何してんだ?」

キクチヨは不思議そうに男達を見る。

「カンベエのおっちゃまが呼んでるです!」

コマチもにこりと笑うがシチロージ、ヘイハチの顔は引きつっており、ゴロベエは苦笑するばかり。キュウゾウは相変わらずの無表情で立ち上がる。

「先に行く」

キュウゾウはそれだけを言うと刀を担いで軽く跳んだ。

「……我々も行くでげすな」

シチロージは疲れた様に立ち上がる。

「いやー、まさかキュウゾウ君が一番の手練れとは……」

ヘイハチが無理矢理笑顔で呟いた。

「何なんです?あ!お人形!」

コマチはキュウゾウのいた場所に落ちていた人形に気付くとキクチヨから降りて拾おうとする。

「待て!触るな!」

「ひっ!」

思いの外大きなゴロベエの声にコマチは怯えたように手を引っ込める。

「あぁ、大きな声を出してすまなかった。これは俺から返しておこう」

ゴロベエは人形を拾い上げると懐に入れる。

「……それが良い」

シチロージは人形から目を反らして頷いた。

「……なんなんですか?」

「…………さぁ」

コマチとキクチヨは訳もわからず男3人を見送った。




人形芝居劇





「さすがキュウゾウ殿と行ったところか」

「確かに実力も容姿も整っていますからね」

「ふむ。我らも見習うとしますか」

「…………それは無理でげす」

「…………ですね」

「…………ご冗談を」

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