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クラウスはアシタノ城を走っていた。


急ぎだと言う手紙を受け取ったシュウは珍しく表情が歪み、クラウスにフリックを呼ぶように命じた。


U主がビクトール、ナナミ、カミュー、マイクロトフ、スタリオンとコウユウと共にティントへ行って、数日。
スタリオンがビクトールから預かったと言う手紙の内容はまだ知らされていないがシュウの顔を見れば緊急事態だとすぐに解った。


ーーコンコンコン


「フリックさん!クラウスです!居ますか?」

クラウスには似合わず少し乱暴にドアを叩く。


ーーコンコンコン


「フリックさん!フリックさ」


ーーガチャ


しつこいノック音にズボンだげを身に付けた気だるそうなフリックがドアを開けて顔を出した。

「クラウスか、どうした?」

少し掠れたフリックの声がクラウスの上から降ってくる。

「……!き、緊急事態です」

フリックの艶っぽい雰囲気に同性のクラウスがカッと顔に熱を帯びる。
が、何とかそう緊迫した声を出す。

「待ってろ、支度する」

一瞬でいつもの鋭い目になると、フリックは部屋へ入ろうとする。

「あ、○○さんもいらっしゃいますか?シュウ軍師が一緒にと」

「○○も?」

クラウスの言葉にフリックは眉間にシワを寄せ声を低くする。

「はい」

フリックに気圧されながら、何とか毅然とした態度でクラウスは頷いた。

「わかった」

フリックは部屋のドアを開けたまま中に入る。

クラウスは大人しくその場で待つ。

「おい、○○、起きろ」

聞き耳を立てている訳でもなく、開いているドアからフリックの声がクラウスに届く。

「ん……」

「シュウに呼ばれたぞ」

「うん?」

「起きろって、シュウに呼ばれた。何かあったらしいぜ」

「え?あ、起きる」

「とりあえず、服を着ろ服を」


ーーバタンッ


クラウスは顔を真っ赤にして慌てて部屋のドアを閉めた。

「ーーーっ!!!フリックの馬鹿ぁぁぁ!!!!」

部屋の中から○○がフリックを怒る声が聞こえてきた。







「で?どうしたんだ?」

えれべーたーに乗りながらフリックがクラウスを見る。

「ええ、ティントへ行ったビクトールさんからスタリオンが手紙を届けに一人で帰って来たんです。内容はまだ、フリックさん達が来てからと言う事です」

クラウスはそう声を出す。

「…………嫌な予感がするな」

フリックは厳しい顔で言った。


「はい。……すみません……」

○○の様子をチラリと見たクラウスが声を出す。

「え?あ!う、ううん!こっちこそごめんね。見たくもないもの見せて」

○○は少し恥ずかしそうに笑った。

「い、いえ!見てませんから!!」

見えないはずなのに、肌色の背中を想像してしまったクラウスは強く否定する。

「クラウス君は悪くないよ!フリックが悪いんだからね!」

○○は少し怒りながらフリックをチラリと睨む。

「はいはい、俺が悪かったよ」

フリックは表情を変えずに口を開いた。

「…………思ってないでしょ?」

○○は呆れた様にフリックを見上げる。

「そんな事ねーよ」

「…………まぁ、良いや」

(良くない!!)

クラウスは心の中で○○に突っ込みを入れた。


ーーチーン


えれべーたーを降りてシュウの部屋へと入る。

「来たか。…………どうした?クラウス」

「い、いえ、何も」

シュウは赤い顔のクラウスを不思議そうに見た。

「これを」

シュウはそれだけ言うと手紙をクラウス、フリック、○○に見える様に差し出す。

「っ!!これは!」

クラウスが真っ先に反応した。

「耐え切れなかったか……」

フリックは小さくため息をついた。

「………………」

○○は不安そうな顔をしながらも、ホッと胸を撫で下ろす。


手紙の内容は、ナナミとU主は戦いに疲れたのでリーダーを辞めると書かれていた。
どうやらナナミの書いた物らしい。


○○は子供のU主がこの戦争のリーダーとして重圧を感じない訳わないと思っていた。ので、正直少しホッとしたのだ。


「で?どうするんだい、軍師さん?」

フリックは腕組みをするとシュウを見る。

「ティントにはすでにいないだろうが、まだ近くの村にはいるだろう。説得に行く」

「まぁ、そうだろうな」

力強い言葉にフリックが頷いた。

「事はとてもデリケートだ。出来る限りの少人数で行きたい。フリック、私とアップルを連れて行けるか?」

シュウは表情を変える事なく、フリックに言う。

「愚問だな。良いぜ」

フリックは間髪入れずに頷いた。

「それから○○。お前はU主さまの居場所が隠れていても分かるんだったな?」

「あ、はい」

急に話をふられた○○は慌てて頷いた。

「ならばお前も来てくれ」

「………………」

シュウの言葉に○○は反応できずにいた。

「○○さん?」

アップルは不思議そうに○○を見た。

「やる気が無いのならば要らん。今の事は忘れて部屋へ戻れ」

シュウはそう冷たく声を出す。

「……私は一般人なので、戦争に疲れた子供を無理に戦場に戻すのはどうかと思います」

○○は意を決して背の高いシュウを見上げる。

「それでも彼はリーダーだ。リーダーとして責任もある。年端も行かない子供が戦場に出るのは珍しくもない」

シュウは当たり前の様に冷たく言い放つ。

「それでも、こんなに大きな軍の、国を動かす軍のリーダーだもの。重圧に耐え切れない子供だからこうなったのでは?」

○○も疑問をシュウにぶつける。

「それでも彼は自分でリーダーとなる事を選んだ。ならば、子供であろうと大人であろうと関係はない」

「…………それでも軍師、あなたがそうなる様に仕組んだ事ですよね?」

○○は冷たい目のシュウを睨むように見上げる。

「…………そうだ。だから、私は彼以外のリーダーで、この軍の軍師に居座る気はない」

シュウは少し間を置いてからきっぱりと言い放つ。

「……ぷっ!ぷくく」

シュウの言葉に一瞬キョトンとした表情を浮かべた○○だったが、急に吹き出し、笑い出した。

それまでハラハラと見ていたアップル、クラウスはキョトンと。
様子を伺っていたフリックはため息をついた。

「分かりました!私もU主さまを連れ戻す為に協力させて下さい!」

○○は楽しそうに笑うとシュウへと頭を下げた。

「あぁ、宜しく頼む」

シュウも小さく笑い、そう声を出した。





「シュウ軍師も意外と可愛い所あるじゃないですか」

○○が小さな声でシュウへと笑った。

「調子に乗るな」

シュウは軽く拳を握り、○○の頭を小突く。

その様子をアップルはとても不思議そうに眺めていた。

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