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「大丈夫だって、俺様がついてるんだ!」
コウユウと言う少年が助けを求めに来た。
どうやら、ゾンビが出るらしく、手も足も出ないと言う。
そして、ネクロードの可能性もあると言う事で、U主、ナナミ、マイクロトフ、カミュー、コウユウそしてビクトールの6人でティント地方へ行く事になった。
「じゃあ、準備が出来たらビッキー前に集合ね!」
U主の号令でビクトールは一度部屋に帰る事にした。
「お、○○、珍しいなこんな時間にお前が部屋にいるなんて」
ビクトールが部屋の中で荷造りをしていると、○○が自分の部屋から出てきた。
「うん、お酒をかけられちゃって、着替えてたの」
何でも、お酒を運んでいたウェイトレスが誤って転んだらしい。そこに運悪く○○がいたせいで、服に酒がかかったのだ。
「そいつは災難だったな」
ビクトールは笑いながら言った。
「ん?どこか行くの?」
○○がビクトールに近付いた。
「あ?ああ、ティントへな」
○○はビクトールの瞳が揺れるのを見てしまった。
「……ティントで何があったの?」
○○は心配そうな顔をする。
「さあな、それをこれから調査しに行くんだよ」
ビクトールは荷物を肩にかける。
「…………ビクトール。大丈夫?」
「俺か?やる気満々だぜ」
ビクトールはニヤリと笑うと○○に背を向ける。
「ま、待ってビクトール」
「どうした?」
「も、もしかして、ネクロード?」
「……かもな」
○○の胸がどくんと鳴る。
「わ、私も!」
「行ってどうする」
ビクトールが静かな声を出す。
「……えっと、囮とか?」
「囮になって、噛まれてゾンビになってたら誰がお前を斬るんだよ」
「………………」
「俺はごめんだぜ。二度も大切な女を斬れってか?」
「…………っ」
ビクトールはネクロードの手によって造り出されたディジーの首を斬り落としている。
「………………」
無神経な自分に○○は腹をたてた。
「これが境界線だ」
ビクトールはテーブルに置いてあった水差しを手に取る。
そして、床に水こぼし、線を書く。
「境界線?」
○○はビクトールを不思議そうに見上げる。
「お前が付いて来たければここを越えれば良い。ただし」
ビクトールの声は低くなる。
「お前はフリックを裏切る事になる」
「え……?」
○○はビクトールの言葉に驚いて言葉を無くす。
「俺はお前に言えない思いがある。もし、俺の事が心配で、この線を越えるのであれば、その思いを受け入れてもらう」
「な…………」
○○は冗談かとも思ったが、今まで見た事の無いあまりにも真剣な目がビクトールの本気を物語っていた。
「ただし、俺はあいつに大切な女を失う事に慣れて欲しくない。俺みたいに……な」
ビクトールは笑いながら言った。
「ビクトール…………」
「だが、それでももしお前がここを越えて来れば俺は地獄に堕ちてでもお前を守り通してやるよ」
ビクトールの笑顔が今まで見た事の無い物だった。
いや、一度コロネの町の近くで見た。ただし、それは自分に向けられた物ではなかった。
○○は足が、手が、唇が震える。
「ごめ……私……」
○○はスカートを握り締め、うつ向いた。
「……そうか、それで良い。帰って来たら、これまで通りお前は俺の大切な仲間だ」
ビクトールは手を伸ばし、いつもの様に頭をぽんぽんと叩いた。
「……うん」
○○は堪えていた涙を流す。
「はは、帰って来たら、笑ってくれな」
ビクトールはいつもの笑顔に戻ると部屋の扉を開けた。
「ビクトール!」
「ん?」
「気を付けてね!無事で……帰って来て」
ビクトールを呼び止めた○○は涙を堪えて笑顔を見せる。
「ああ!任せておけ!」
ビクトールは穏やかに笑った。
ーーパタン
部屋には○○と水で書かれた線だけが残された。
「おや、遅かったね」
レオナはやっと帰って来た○○に言った。
「うん、ちょっとね」
○○は笑顔で言ったが、少しだけ暗かった。
「…………どうかしたか?」
カウンターで酒を飲んでいたフリックが○○を見る。
「ううん、何でもないの」
○○はフリックを見れずに笑顔で言った。
「………………そうか」
フリックはそれだけ言うと酒を飲んだ。
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