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○○達は大広間へとやって来た。
大広間にはシュウとリドリーがいた。
U主とテレーズはジョウイの要求通りミューズに赴く事になったらしく、アップルと共に一緒に行く人の選出と旅支度をしに出て行ったようだ。
○○は今あった出来事をシュウ達に話した。
「なるほど、な」
シュウは考える様に頷いた。
「罠である事は解るが、何故敵の将がお前にそんな手紙を?まさか、スパイ?」
リドリーは怪しむ様に○○を見る。
「す、スパイ?!い、いえ!まさか!お疑いなら、その剣でこの首をはねていただいても!」
○○は驚くが、心外だとばかりにそうリドリーに詰め寄る。
「おい、バカな事を言うな!」
フリックが○○を睨む。
「まぁまぁ、リドリーの旦那。敵がわざわざ罠だと知らせるのはシードが○○を欲しいからさ」
ビクトールはニヤリと笑った。
「び、ビクトール……」
○○は困った様にビクトールを見る。
「シードは猛将としてではなく、一人の男としてその手紙を書いたんだろうさ。まぁ、それのお陰でこいつは今まで危険な目にも合ってきた。ただのコックがな」
ビクトールは真剣な目付きで言った。
「………………うむ」
リドリーがチラリとシュウを見る。
「○○はあちらにしてみれば厄介な存在だ。それをレオン・シルバーバーグが知らないと見える。まぁ、知将が隠しているのだろうな」
シュウはそう頷いた。
「考えていても仕方がない。罠と思い、策を練れば良いだけの話だ」
シュウは淀みない口調だ。
「そうだな。疑って悪かった」
リドリーは素直に謝罪し、手紙を返した。
「い、いえ」
○○は困った顔をしながら、手紙を受け取った。
U主達がミューズへ着くと、やはり平和条約等ではなく、全面降伏をしろとの事だった。
シュウの策により、ビクトールがピリカをジョウイに返し、ジョウイはピリカの前では殺せないとU主達は無事に帰って来たのだった。
夜、酒場ではビクトールとフリック、ハンフリーが酒を飲んでいた。
すでに客足は途絶え、ビクトール達の他はアマダ達がいるだけだった。
「○○、余ったつまみをあいつ等にやって来てくれるかい?」
レオナは大皿一枚を差し出して来た。
「あ、はい」
○○は調理器具の片付けを終え、レオナに向き直る。
「私はあいつらに渡してくるよ。それで、今日の仕事はおしまいだ」
レオナはにこりと笑った。
「はい」
○○は頷くと、ビクトール達のテーブルへとやって来た。
「これ、レオナから」
○○はそう皿を差し出す。
「お、悪いな。どうだ?○○も」
ビクトールが空いてる椅子を引いた。
チラリとレオナを見ると、向こうも座っていたので、自分も座る事にする。
「うん、じゃあ少し」
○○はビクトールとフリックの隣に腰かけた。
「結局平和条約は成り立たなかったんだね」
○○は寂しそうに声を出す。
「だな」
フリックは頷くと酒を流し込んだ。
「………………ルカ・ブライトがいなくなれば終わると思ったのにな……」
○○はポツリと呟いた。
「このまま終わってもわだかまりが残り、余計にこじれる」
ハンフリーは静かに口を開いた。
「お互いに譲れない物があるから戦うのだな」
ハンフリーは酒を飲んだ。
「…………譲れない物……」
○○はハンフリーをじっと見た。
「そ、そう言えばハンフリーさんも解放軍の初期メンバーと聞きましたが、何故?」
○○は不思議に思っていた事を聞いた。
「………………」
ハンフリーは無言である。
「す、すみません……」
○○はドキドキと戸惑いながら謝る。
「ははは、急に喋るから驚いたが、やっぱり無口なんだな」
ビクトールはハンフリーを見て笑った。
「こいつは昔から無口なんだ。だから、怒ってる訳じゃない」
フリックが○○に説明する。
「無口?」
○○は興味深そうにハンフリーを見た。
「…………昔、カレッカと言う村で虐殺が起きた。敵であったジョンストン都市同盟が攻めてきたと聞いていたが、ただの村人だった。結局、兵の士気を上げるためと、敵を作るために自国の一般人を虐殺したのだ。それに嫌気がさしてな」
ハンフリーは淡々と話すと酒を流し込んだ。
「……ハンフリーさんも帝国軍で参加したと?」
○○はポロリと口から出た言葉に慌てて口を押さえる。
「………………気付いた時には上司であった男を切り殺していた」
「………………」
壮絶なハンフリーの過去を聞いて○○は黙ってしまった。
「悪いな、俺は先に休ませてもらう」
ハンフリーはそう席を立った。
「あ、ハンフリーさん!」
「気にする事はない。昔の話だ」
○○が焦って声をかけると、ハンフリーは静かに言って、酒場を後にした。
「珍しいな。あいつがあんなに喋るのなんて」
フリックは驚きながら声を出す。
「○○の事気に入ったのかもな」
ビクトールが穏やかに笑った。
「それなら嬉しいけど」
○○はハンフリーの背中を静かに見送った。
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