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「では、私はこれで」
同盟軍リーダーU主とその姉ナナミがクスクスまで散歩に出ていたところ、ハイランド軍知将クルガンに出会った。
ルカ・ブライト亡き後を継いだのは2人の幼馴染みでもあるジョウイ。
彼はルカ・ブライトの妹であるジル・ブライトと結婚をし、今では正式なハイランド皇王として君臨する事になったのだ。
そして、お馴染みの立場で敵のリーダー同士である事から、ジョウイ側から和平交渉をしたいとの申し出をクルガン自らが持ってきたのだ。
「ジョウイが…………」
U主は受け取った手紙を真剣な目付きで見る。
「でもこれで戦争も終わるね!」
ナナミは嬉しそうに頷いた。
「では、私はこれで」
クルガンはそう静かな声で言うと、出口へ向かう。
が、思い出した様に踵を返し、フリックの前に立つ。
「フリック殿ですね」
クルガンは少し目線の低いフリックを見た。
「そうだが?」
フリックは訝しげにクルガンを見る。
「○○殿にお会いしたい。酒場に案内していただけますか?」
クルガンはフリックから目をそらさずに言った。
「あぁ?何で……」
フリックは不機嫌そうにクルガンを見た。
「手紙を預かっているので」
クルガンは懐からもう一通の手紙を取り出した。
「なら、それは俺が預かる」
フリックは手を差し出す。
「有難い申し出ですが、これも直接渡したいので」
クルガンは手紙を渡す気はないようだ。
「……」
「……」
クルガンは無表情のままフリックを見て、フリックはクルガンを睨み付けていた。
「こ、怖い……」
U主とアップルがお互いに「ひぃ」と抱き合った。
「はぁ。フリック、クルガン殿を案内してやれ」
「シュウ!!」
どちらも譲らないクルガンとフリックにため息混じりにシュウ軍師が声を出す。
「勝手に動き回ってアシタノ城に変なものを仕掛けられても困る。酒場なら腕の立つ者も集まっているから平気だろう」
シュウはそう2人に近付いた。
「シュウ殿。有難い」
クルガンは礼儀正しく礼を言う。
「ちっ。行くぞ」
フリックは舌打ちをしながら、大広間を後にした。
それにクルガンが続く。
「俺も行ってみるか」
ビクトールも面白そうだと後に続いた。
「今日も良い天気だねぇ」
レオナが外に目をやりながらキセルをふかした。
「え?あぁ、気持ちの良い季節ですね」
○○は夜の為に仕込みをしていた。
「あんたも昨日までトランにいたのに、頑張るね」
レオナは厨房でくるくると働く○○を見た。
「うん、世の中には凄い人がいっぱいいるのに……私も頑張らなきゃって」
○○はにこりと笑った。
「そうかい」
レオナは穏やかに○○を見た。
「男の為とはいえ、偉いね」
ーーガラガラガシャーン
レオナの言葉に○○は持っていた鍋ごと転げた。
「っ!レオナ何を?!」
○○は真っ赤な顔で倒れたままレオナを振り返る。
「だってそうだろう?まぁ、○○位の年齢の女が「世界平和の為」って言うより健全で信用出来ると思うよ」
レオナは妖艶な笑みを浮かべてキセルをふかした。
「………………」
○○は真っ赤な顔のまま口を開くが、何も言わないまま、鍋を拾い集める。
「おい、凄い音がしたか、大丈夫か?」
「っ!!ふり」
突然のフリックの声にまた鍋を落としそうになる○○。
「だ、大丈夫」
○○は慌ててフリックに向き直る。
「?そうか」
「ふふ」
フリックと○○のやり取りを楽しそうに見るレオナ。
「で?フリックはどうしたの?確かにシュウ軍師に用事とか言ってなかったっけ?」
○○は自分を落ち着かせる様に話す。
「あぁ……。……お前に客だ」
「客?」
フリックの嫌そうな顔を不思議に思いながら○○は厨房から出る。
「え?」
○○はその場で固まる。
「こんにちは○○」
クルガンは無表情に挨拶をする。
「っ!こ、こんにちは……」
○○は二度も殺されかけた相手に挨拶を何とか返した。
「って、何でいるの?!」
○○は慌ててフリックの後ろに隠れる。
「アシタノ城には和平条約を結ぼうとの我が主君の考えに賛同し、U主殿に会いに来た」
クルガンは静かに言葉を紡ぐ。
「和平……条約?」
○○はそろりとフリックの後ろから出る。
「そうだ。だから、今回はお前に危害を加えるつもりはない」
クルガンはじっと○○を見る。
「…………それで、私に何か用ですか?」
○○はクルガンを訝しげに見る。
「手紙を預かって来た」
クルガンは懐から再び手紙を取り出した。
「…………誰から」
○○は予想をしていたが聞いた。
「シードだ」
クルガンは予想通りの名を告げた。
「とりあえず、そこから出てきてくれないか?それでは渡せない」
クルガンは無表情のまま○○を見る。
「………………」
動かないクルガンに、このまま自分が出て行かないといつまでもそこにいる事を理解し、○○は仕方なくフリックの後ろからクルガンの前に出た。
フリックは普通の顔をしているが、緊張したのが解った。
「では、これが手紙だ」
クルガンから手紙を受け取り、じっと見た。
「……」
「開けないのか?」
じっと手紙を見る○○にクルガンが促す。
「……」
○○は中身が予想つき、困った様な顔をする。
「では、もうひとつ言付けを預かってきた」
「言付け?」
クルガンの言葉に○○は不思議そうにクルガンを見上げる。
ごく自然な動作でクルガンは○○の手を掴むと、自分は片膝を立てて座った。
「え?」
「『次に会う時は必ず手に入れる』だそうだ」
クルガンは流れる様な動きで○○の手の甲に唇を付けた。
「っ!」
「お前?!」
○○は顔を赤くしてクルガンから手を離し、逃げるようにその手を上にあげた。
フリックは怒鳴った声を出す。
「………………」
○○はすぐに冷静さを取り戻し、急いで手紙を開ける。
「やはり頭の回転は速いようだな。では、これで私は失礼する」
クルガンは立ち上がると酒場の出口を目指す。
「ま、待って!これは?」
○○は手紙を読んでクルガンを見る。
「…………書いてある通りにするのだな」
クルガンはそう言うと今度こそアシタノ城を後にした。
「○○?お前……」
フリックは訳がわからず○○を見る。
「シュウ軍師に……フリック!シュウ軍師の所に行かなきゃ!」
○○はフリックを見上げる。
「一体……」
フリックは眉間にシワを寄せる。
「とりあえず、行きながら聞かせてくれ」
ビクトールはフリックと○○は促した。
「で?さっきのは何なんだ?」
フリックは○○にきつく聞く。
「え?あ、手紙の内容がクルガンが言った事だと思ったの。だから、手紙を開けるのを戸惑ったの」
○○は速歩きになりながら声を出す。
「まぁ、そう思うよな」
ビクトールは頷いた。
「なのに、わざわざクルガンがあんな事するなんておかしいでしょ?だから、急いで手紙を開けたの。そしたら」
○○が手紙をフリックに見せる。
「『お前は来るな』」
フリックは内容を読み上げた。
そう一文とシードのサイン書かれていた。
「きっと、私が行っても止められない。殺される罠って事……」
○○は静かにそう言った。
「なるほどな」
ビクトールは頷いた。
「ちっ」
フリックは嫌そうに舌打ちをした。
「だから早くシュウ軍師に知らせなきゃ」
○○は焦った声を出す。
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