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コウを連れて、バナーの村まで帰って来たU主一行。
「僕、U主さまと坊っちゃんさま!2人の英雄を一度に見れたんだね!嬉しいな!助けてくれてありがとう!!」
コウは嬉しそうに言うと、宿屋へと帰って行った。
「さて、グレミオ、僕らも行こうか」
坊っちゃんはグレミオを振り返る。
「あの、坊っちゃんさん!」
U主は坊っちゃんを引き止める。
「なんだい?」
「僕たちに力を貸してください!」
U主は力強く言う。
「……そうだね。ねぇ、ビクトール」
坊っちゃんは考えながらビクトールを見る。
「お?なんだ?」
「まだ、ネクロードが生きているんだって?」
坊っちゃんは真剣な目付きで言った。
「あぁ。まだ行方は分かってないがな」
ビクトールは何でもない様に言う。
「そう。良いよ、U主。僕もあいつには関わったからね。いつでも力になるよ」
坊っちゃんはにこりと笑った。
「やったぁ!!」
U主は両手を挙げて喜んだ。
「良かったね!」
○○もにこりと笑った。
「○○さん」
「ん?」
坊っちゃんは○○に近付いた。
「ありがとう。貴女のお陰で少しこの紋章が大切に思えるかもしれない」
坊っちゃんは穏やかに笑って右手を差し出す。
「そうだね!大切にしてあげなきゃね」
○○はその手を取ると、握手をした。
「フリック」
坊っちゃんはフリックを見る。
「なんだ?」
「飽きたらちょうだい」
坊っちゃんがそっとフリックに耳打ちをした。
「っ!やるか!」
フリックはそう怒鳴った。
「え?どうしたの?」
○○は不思議そうにフリックを見上げた。
「何でもない」
フリックはイライラと声を荒げた。
「カスミ、ロッカクまで一緒に行こうか」
坊っちゃんがカスミを見て笑った。
「っ!は、はい!」
カスミは嬉しそうに頷いた。
「では、皆さん、グレッグミンスターにてお待ちしてます」
グレミオはそう笑った。
「ちょっとのお散歩のつもりが、良い結果になって良かった!」
船に乗りながらU主は伸びをした。
「まさか、坊っちゃんに会えるとはな」
ビクトールは頷いた。
「また死人扱いだったけどね」
○○はクスクスと笑った。
「まったくだ。誰かのせいで昔の奴に会うと必ず言われるな」
フリックは冷めた目でビクトールを睨む。
「あははは!もう、良いじゃねーか」
ビクトールは笑い飛ばした。
「ったく」
フリックは面倒臭そうに目を閉じる。
U主はビクトールと船頭に借りた釣竿で釣りを始めた。
「でも、今回は疲れたね」
○○はポツリと川を見ながら呟いた。
「本当だ」
フリックが目を閉じたまま声を出した。
「起きてたの?」
「寝てない」
「そっか。で?さっき坊っちゃんくんに何言われたの?」
○○は不思議そうにフリックを見る。
目を閉じているフリックの前髪をさらさらと指で絡ませる。
「……」
フリックは不機嫌そうに目を開けた。
「な、なによ」
フリックの髪で遊びながら声を出す。
「お前は変なのに好かれるな」
「おー!釣れたー!!!」
フリックはポツリと呟くが、U主の声にかき消される。
「あ!凄い!大きい!」
○○は楽しそうにU主を見る。
「あ、ごめんね、フリック。何て言ったの?」
○○がフリックを振り返るが、フリックは目を閉じていた。
「お休み、フリック」
○○はにっこりと笑ってフリックの額に唇を付けた。
「私もやりたい!」
○○はビクトールとU主に近付いた。
「まったく……」
フリックは赤くなる顔を隠すように横を向いた。
「あー!U主いた!もー?どこ行ってたの?!お姉ちゃんのクッキー食べてよね!」
アシタノ城にまたたきの鏡で帰るとナナミが出迎える。
「な、ナナミ!ただいまっ」
「はい!美味しい?」
ナナミはU主の口に無理矢理クッキーを詰める。
「ばふばふばふ……」
U主は全部のクッキーを根性で咀嚼し、ごっくんと飲み干した。
「あ、ありがとう、ナナミ……」
U主は青い顔で礼を言った。
「喜んで貰えて良かった!これからお散歩に行かない?!」
ナナミは上機嫌で言う。
「え?僕、お薬飲まなきゃ……」
U主は困った顔をする。
「え?え?どこか悪いの?!大丈夫?!」
ナナミは心配そうにU主を見る。
「お姉ちゃんお粥でも作ろうか?」
「っ!!元気!元気だよ!ナナミ!!お散歩行こうか!!」
U主は焦った様にナナミの背中を押す。
「え?そ、そう?じゃあ、行こうか!」
ナナミは嬉しそうに頷いた。
「じゃ、じゃあ、ビクトールさん、フリックさん、○○さん、行ってきます!」
U主は焦った様に手を振った。
「あいつも大変だな」
「…………ああ」
「??」
ビクトールとフリックの呟きに○○は不思議そうにした。
「あ!フリックさん!お帰りなさい!!」
奥からニナがやって来た。
「げっニナ」
フリックが逃げようとするのを○○が止める。
「なんの真似だ?!」
「約束でしょ?フリック」
フリックに○○はにっこりと笑った。
「……」
「フリックさん!あの、これ、クッキー焼きました」
ニナはもじもじとクッキーの入った包みをフリックに差し出す。
「………………ああ」
フリックは眉間にシワを寄せながらも包みを受け取る。
「食べないの?」
○○が動かないフリックを見る。
「…………」
フリックは覚悟を決めてクッキーをひとつ口に入れた。
「…………」
「ど、どうですか?!」
ニナはドキドキとフリックを見上げる。
「…………………………まずくない」
フリックはクッキーを飲み干してから呟いた。
「やったぁ!!」
「良かったね、ニナちゃん」
「はい!」
ニナは嬉しそうに○○を見上げる。
「で、フリックさん、これから一緒に」
ニナがもじもじと言うが
「フリックなら、凄いスピードで走って行ったぞ」
ビクトールが呆れた様に指を指す。
「え?待ってフリックさーーん!!照れなくて良いのにーー!!」
ニナもそう叫ぶと走って行った。
「あらー、フリックったら、羨ましい」
○○はクスクスと笑った。
「おいおい、良いのか?一応彼氏だろ?」
ビクトールが呆れた様に言う。
「もちろん、浮気は許さないわよ」
○○はにっこりと笑った。
「……フリックも苦労しそうだな」
ビクトールはやれやれと呟いた。
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